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#27 推しの王子様

 今日は月曜日。本来なら休みが明け、学校が始まる日。しかし今日は違う。そう、”創立記念日”だ。故に今日は正真正銘”平日”でありながら”休日”。


 当初、三連休は土曜に映画を見に出かけるくらいしか外出はしないだろうと思っていた。しかし……


 ガタンゴトンと車輪がレールの継ぎ目を通る音、次々と窓の外を流れる景色、車内に人は少なく。


 三連休の最終日。予想外にも俺は今、こうして電車に揺られていた。


 それは昨日のことだった……。


~~~~~


 日曜日。特にやることもなく、勉強でもしていようかなと思っていたそんな時。突如スマホが通知を鳴らした。


『今知ったんだけど、今日10時からここでガルビの一挙放送やるんだって! よければ見て欲しいな!』


 本庄先輩からのメッセージだった。ご丁寧にサイトのURLまで乗っけてある。


 ”ガルビ”とは大人気アイドルコンテンツである”GIRLS WILL BE”の略称だ。元々はスマートフォン向けアプリゲームから始まり、そこから派生してアニメ化した。いつか体育館で本庄先輩がAR撮影を行っていたアレだ。ゲーム・アニメいずれも大ヒットし、半年前にもアニメ2期を放送など今なお人気の衰えないコンテンツである。


(……始まるまでもう10分ないくらいか)


 見たところ、どうやら本庄先輩が言っているのはアニメ1期の一挙放送らしい。全13話か……まぁそれくらいならいいかと思い、見てみることにした。




~~~




 約6時間半後……。


「ともえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 思っていた以上に、引き込まれた。


 あくまで登場するアイドルみんなが主役!なのは前提として、序盤と終盤の主人公格である(ともえ)とあきらが印象的だった。天然気味だが天才肌のあきらと、そんな彼女にうんざりしつつも良き仲間として評価する巴。二人の関係性がとてもいい。そして終盤の見ている側の心を抉るような巴の挫折の描き方、彼女より先に成功の兆しを見せるあきらへの嫉妬。新たな自己の確立と涙なしでは見られない演出を盛り込んだライブシーン。最終話はメンバー揃ってステージに立ち第1話のオマージュ。最高だった……(早口)。



 ところでこの作品、背景美術で実在する場所を用いているシーンが明らかに多いように見えた。気になって調べてみると、やはり多くの”聖地”が特定されている。渋谷や原宿なんかは自分でも見て分かったし。ということで……


~~~~~


『次は、柴又~柴又~』


 京成高砂駅で乗り換えて、京成金町線へ。そこから1駅乗ると柴又駅に着く。 ま~『1駅乗ると』つっても全部で3駅しか通ってないんですけどね、この路線。車窓から見えるのは都会とは程遠い民家ばかりの景色。しかし、情緒があって悪くない雰囲気だ。


 程なくして電車は駅に着いた。ホームへと降り立ち、周囲をキョロキョロとしつつ改札を抜ける。


「この銅像、たしかアニメでも一瞬出てきたよな」


 駅前には、ジャケットを着て帽子を被った男の銅像があった。右手には鞄を持ち、左手はポケットの中。それからもう一つ、男を見送るかのような女性の像もあった。ポケットの中に手を入れちゃ危ないんだぞ~! 段ボールが後ろから転がってくるかもしれないし!


 アニメで描写されたのは駅前、帝釈天参道、そして嶋俣(しままた)帝釈天の境内。ここは巴の地元という設定で出てきた場所だ。『嶋俣帝釈天はこちら』といった案内が色んなところに出ているため道に迷うことはない。ちなみに気になって調べたのだが、『嶋俣』とは柴又の昔の名前らしい。


「この辺はアニメまんまだな……すご……」


 帝釈天参道には和風建築の家屋がずらっと立ち並んでおり、和菓子屋、土産屋、蕎麦屋、川魚料理屋など様々に店を構えていた。参道の奥に見える帝釈天も相まって、パっと見の印象は浅草などのそれに近いかもしれない。こちらは駅前以上に再現度が高い。


 アニメと同じ画角で写真を撮りながら歩いていると、一軒の団子屋が目に入った。周囲よくを見てみると他にもいくつか団子屋はあるのだが、最初に目についたここに入ってみることにした。もはや聖地巡りとは関係ないが、まぁせっかく来たわけだし?


 入ると店のおばちゃんに奥のテーブルへと通された。今日は創立記念日。平日だからか空いており、俺は気兼ねすることなく隣のイスに荷物と上着を置いた。どうやら草団子が名物らしいのでそれを頼もうとしたのだが……その時、何者かが店に入って来た。


「失礼……ーす!」

「はい~」

「あの……レビの……んですけど……取材って……」

「……はい、大丈夫です!」


 その人は一度入って来たかと思えば、おばちゃんと少し話すと外に出てしまった。なんだったんだ……っていうか、今の芸能には正直疎いから自信ないが……今のって……。


 そんなことを考えていると、その人が再び入って来た。今度は1人ではなく……、ごぉ、ろく…7人だ。その中にはカメラを担ぐ者、テレビでよく見るマイクの付いた長い棒を持った者もいた。やはり、テレビの取材だ。


 ……そして、


「えっ……」


 俺はそのうちの一人と目が合った。


「ふ、二駄木くんっ!?」


 流石に、偶然が過ぎるだろ……。



~~~



「じゃ、40分くらい休憩入れまーす」

「本当にすみません……」

「いいよいいよ! どうせ、もうじき休憩にしようって思ってたし」

「ありがとうございます……!」


 六町は一人の女性に頭を下げた。どうやらあの人がディレクターらしい。六町は頭を上げると、こちらにやってきた。しかし……。


「……??」


 テレビ番組の撮影だからか、今日の六町は普段の装いとは違った。


 髪は普段二つ結びが多かったのが、今日はハーフアップ。初めて見る髪型だが……これもまたよく似合っているなと思わされる。それから眼鏡。フレームは薄桃色で……こういう丸みを帯びた形なんて言うんだっけ、ボストン? でも眼鏡かけてるのを見るのは久しぶりだ。


 服は白いシャツにベージュのロングスカート、上から羽織っているのは僅かに透け感のあるミントのカーディガン。


「それにしても、どんな偶然なんだろ……」

「俺だって聞きたいよ……」


 月曜にテレビの撮影があるとは言っていたが、まさかここ柴又でのロケだったとは。


「……彼氏?」

「ち、違うよっ、歩ちゃん!」

「こら! 変なこと言わないの!」


 現在俺が座っているのは4人掛けのテーブルである。俺の隣は六町。そして、俺の正面とはす向かいに座っているのは……


「うちの歩が失礼致しました。渋川みどりと申します。深谷歩のマネージャーです」

「深谷歩、18歳です……。女優やってます」


 深谷歩。かつて子役時代の六町と共演していた、現役の若手人気女優。


 うわぁ……マジで本物だ。本物の深谷歩が、確かに俺の目の前にいる。ウソ、目の前じゃなくて斜向かいですね……。しかし俺がこんなベタな反応をしてしまうとは。やっぱみんなこうなるものなんだろうか。だが……


「……あんまテレビ見てないんすけど、なんかイメージとちょっと違いますね?」

「そうかもしれませんね。うちの歩、ほんとポンコツで……。方向音痴だし、連絡してもスマホ全然見てくれないし……」

「ひ、酷い……」


 見た目こそメディアで見る姿そのまま、いやそれ以上にも見える。髪はショートカット。服やメイクはボーイッシュをかなり意識したもので、見た目だけはまさに”王子様”という触れ込み通り。だが実際に相対してみると、なんというか……天然って感じだ。


「……そうだ! さっき歩ちゃんが話してた”不思議な体験”、二駄木くんに相談してみない?」

「え?」

「二駄木くんはね……謎解きに滅法強くて、実績もあるんだよ」

「えっなにそれ。六町さん勝手に話進めるだでなくハードルまで上げていらっしゃる??やめて??」

「うん分かった。ええと……」

「な~にが分かったの!? 俺の話聞いてた!?」


 結局、深谷歩はその”不思議な体験”とやらを話し始めた……。

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