表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリと呼ぶには愛くるしく、ラブコメと呼ぶには謎めいている。  作者: 平松 賀正
第六話 スイートガール・ファッションショー
26/81

#26 スイートガール・ファッションショー

 日立さんは戻ってくると、お礼と称して俺たちに5000円ずつ渡した。ぎっくり腰の介護の相場なんて知りようもないのだが……流石に通りすがりの高校生にこれは大盤振る舞いが過ぎるのでは?? 大丈夫そ??


「あそこは私の弟のマネキン工房でね。向こうでいらなくなった作品が出たら、シーズンごとに新しいマネキンを借りてるんだ。でもアイツ、全然掃除しないからほこりが酷いのよね~……」


 なるほど。それでわざわざあんなところから……。にしても、ほんとよくできたマネキンだ。肌の色も吹かしてあるし、顔も細かく書き込まれている……。遠くから見れば人間に見えるというのも当然だ。


 しかし俺が一人納得する一方、六町は不思議そうにこちらを見てきた。


「それにしても、なんで場所が『アトリエ・アニマ』ってところまで分かったの?」

「ん? あ、あぁ……。あの周辺はほとんど住居かビルかしかないのに、アトリエなんて地図で見ても異質だったからな」


 ……流石に女子相手にあのストリートビューのことを話すわけにはいかない。分かるだろう?


「あれっ、じゃあアトリエ・アニマのことは元から知ってたんだ?」

「お、おう……まぁな……。」

「…??」


 とにかく、ヌードの噂がヒントになったなんて認めん。俺の名に傷がつくからな……。


「……それと、助けてもらって図々しいとは思うのだけれど……。あなた達さえよければよ? 実はもう一つだけ、お願いしたいことがあるの」


 日立さんがおもむろに口を開いた。もう一つの頼み? まぁ植物園は今度でもいいし、時間はあるからな。俺としては構わないのだが。


「なんですか?」

「それはね……」



~~~



「準備はできたかしら?」

「ええと……はいっ、大丈夫です!」


 試着室の中から六町の声が聞こえてくる。俺はというと、ただ正面に座っているだけ。どうやら用があったのは六町に対してらしい。日立さんは椅子に腰掛けて、さっきから穴が開くほど試着室を見つめ続けている。


 やがてシャッと静かに音をたてて、カーテンが開いた。


「どうですか?」

「いい……いいわッ!!」


 現れた六町は、さっきまでの制服姿ではなかった。


 フレンチスリーブの白いブラウス、イエローのギャザースカート……なるほどな。今は五月、つまり夏物が入荷し始める時期ってわけだ。店の改装も、夏物を売り出すのに向けての準備だったのか。


「それじゃ、ポーズをとってみてくれるかしら!!」

「それなら……こんな感じでどうでしょうっ!」

「あぁ!! 自分の魅せ方を理解わかってる!! 素晴らしい!!」


 ノリノリだな~六町さん。しかし、思えば制服以外の服を着た彼女を見るのは初めてだ。なんだか新鮮だな。制服の与える清楚で真面目な印象とは、また違った良さがある。


 ふと、六町がこちらに目線を送っていることに気が付いた。


「えっと、どう……かな?」

「……可愛いな。服の感じとか、色合いも。似合ってると俺は思う」


 俺の感想を聞いた六町はたちまち顔を紅潮させた。


「あ、ありがとう……」

「……意外だな。見られるのも言われるのも、慣れてるもんだとばかり思ってたが」

「確かにモデルのお仕事はしたことあるけど、同年代の男の子に”可愛い”なんて……」


 顔やポーズなど、単にビジュアルが優れているだけではない。そう言って顔を背けた六町の姿、表情。それは誰も文句のつけようがないほどに可愛らしいと、そう言えるものだったように思う。


 それから六町は、日立さんに次から次へと服を渡されては着替え、その姿を披露した。Tシャツにショートパンツといったカジュアルなものや、ワンピースなど女性的なもの。時には結った髪をほどいてみせたり、とにかく短時間で様々な姿の六町を見られた。日立さんも新たなマネキンのコーディネートの参考になったと非常に喜んでいた。


 ……しかし、俺が感想を述べたときのあの反応……。


 もしかすると六町は……いや、まだ分からない。それでも頭の隅にくらいは入れておくべきかもしれない。


 二度と、間違えないためにも。



~~~



 六町のファッションショーも終わり、俺たちは改めて帰路についていた。


 電車に揺られること30分ちょい。そろそろ最寄り駅が近づいてくる頃だ。


「六町、モデルの経験もあったんだな」

「まぁね。とはいっても、そっちの仕事を取り始めても1年くらいで私は引退しちゃったわけだけど」


 六町は冗談めかして笑った。こうして見るとすっかり”普通”に染まった普通の子という雰囲気を纏っているが、元は芸能の世界にいた人間なのだなぁと再確認させられた。


 そんな話をしているうちに、電車は六町の最寄り駅に着いた。扉が開き、六町は俺を残して外へ出る。


「じゃあね、二駄木くん。また来週……!」

「また来週」


 そう言ってゆっくりと手を振り彼女の姿と、ブティックでの姿は、中々どうして違う。目の前の彼女はあけすけな華やかさを感じさせず、しかし素朴なあいくるしさを持っているように見えた。


 本当に不思議な子だ、と思うのだった。

面白かったら評価・ブックマークよろしくお願いします。

「評価」というのは、

この下↓の ☆ マークのことですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ