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見える君と見えない僕  作者: 川端
7/15

ーエピソード0ー 過去編1

ここから後一話は過去編が続きます。

小学生の時は友達が沢山いた。だけど中学に入り病気が判明し、周りを拒絶するようになり転校してからは変わった。最高の仲間に出会えたからだ。

彼らとの出会いはとても普通だった。一学期の途中で編入した学校はそれなりの私立で勉強しなければ入れないような学校だったので馬鹿が居なかった。そして、病気の事は軽く言っといた。とはいえ死ぬなんて言ってないし大した病気ではありませんと言った感じで話した。最初は病気を持っている子という事で話しかけてくる。僕と友達になりたい気持ちで話しかけてきた人なんて誰もいなかった。だからずっと本を読んでいた。休み時間も移動教室の時もずっと僕の近くに本があった。

500ページはある本がクライマックスになってきたある日、次の授業の準備をし、席に戻ると僕の席に誰かが座っていた。積極的に誰かに話しかけるような性格じゃない僕は、その人が席から去ってくれるのを待っていたがなかなかどいてくれないので、

「ごめん、そこ僕の席なんだけど」

と聞こえるか聞こえないかという声量でその人に問いかける。

「この本、面白い?」

「え?……まあ、面白くなかったらここまで読んでないって言うか、その、とりあえずどいてもらっても良いかな?」

兎に角どいてもらった。彼は、前田朝陽は人の話を聞かないタイプの人間なのかとその時は思った。

「これ、読み終わったら貸してくんね?」

どう返事すれば良いのか戸惑っているとチャイムが鳴り彼は自身の席に戻る。

その時間は彼の事で頭がいっぱいだった。


数日後、彼に貸してと言われた本を読み終えたので彼に貸しに行った。別に貸す気は無かったが貸さなかったら貸さなかったで何されるか分からなかったので素直に貸すことにした。

「あの、これ。数日前言ってた……」

「おお!もう読み終わったのか?早いなぁ。ありがとう、すぐに読んですぐ返すよ」

別にすぐ読まなくても良いのだが、彼は僕の返事を待たずして楽しそうに席へ戻って行った。休み時間彼の方に視線を向けると楽しそうに貸した小説を読む前田が居た。

翌日の放課後、掃除も終わり返ろうとしたところで彼に呼び止められる。

「こないだ借りた本。ありがとう、すげえ楽しい作品だった」

そのセリフは僕ではなく作者本人に行った方が良いのではないだろうか。

「なあ、君もっとほかの本持ってる?」

ここで嘘をついても良かったのだが彼の瞳がキラキラしすぎていたので落ち着かせようとした。

「前田君の好みの本かどうかわからないけど、この作者の本はたくさん持っているよ」

そうするとさきほどのキラキラが倍以上になっていて少し怖かった。

「マジで?!じゃあさ無理じゃなかったら全部貸してくんね?あとさ、前田君じゃなくて朝陽で良いよ?俺も奏多って呼びたいし」

そういうとこは律儀なのだなと思った。普段の彼の行動からは推測できない程だった。そこからは毎日小説を持ってきては彼に貸し、放課後には前日貸した小説の感想を言い合う関係になっていた。そこから仲良くなるのにはそう時間を要しなかった。彼は僕の病気のことについては何も触れてこなかった。転校する前の学校はどうだったのか、家や友達はどうしたのか、そういったことは聞いてくるのに。僕にとってそれは楽なものだった。話しかけてくる奴の大半は僕のことではなく、病気の事。だから、純粋に“僕〟という人間

に話しかけてくれる人間は朝陽だけだった。

良い人の周りには必然的に人が集まるのだなと感じた。男女関係なく誰とでも親しく接する彼だが特に仲がいいのが宮本芽唯だった。芽唯と朝陽は幼なじみらしく小学校から同じらしい。朝陽と仲が良くなり、芽唯と話すことも増え、次第に三人で固まる事が当たり前になっていた。


そして、中学最悪の事件が起こる。


転校してきて早、数ヵ月が経った。この頃になると、誰がどのような性格で、誰と仲が良いのかというのが大体は掴めてきた。

ある朝、委員会の仕事のためいつもより早く登校すると、普段は遅刻ギリギリで登校しているクラスメイトが教室に居たのだ。少し不思議だったがその人らは僕が苦手な人たち(いわゆるギャル)だったので気にしないふりをして委員会の場所へと向かう。彼女らもたまには早く来たかったのだろう、その時はそう思っていた。始業のチャイム三分前に教室に着くといつもより騒がしいなと思った。どうせ僕には関係ない事だと思い朝陽と芽唯のところへ向かう。

「なんで今日こんなに騒がしいの?」

「奏多、今日は帰れ」

そう言う朝陽の目は緊張感があった。朝陽は冗談でもこういうことをいう奴ではない。なぜ帰らなければならないのか尋ねようとしたとき、

頭上から水が降ってきた。

それも、バケツ一杯の。

何処からとってきたのかも分からないその水は、異臭を放っていた。振り向けばそこには朝見た女子等が笑いながらバケツをそっぽへ投げる。

「朝陽、濡れた?」

「え?ああ、少しな。それよりお前は着替えたほうが……」

僕自身、僕だけが何かされるのは良かった。だけど、友人にまで被害が行くのは許せなかった。女子だろうが何だろうが、人に迷惑をかけるやつはクズだと思った。

そこへちょうど担任がやってきた。いつもなら挨拶しながら入ってくるのにこの日は無言だった。多分、僕を見たからだろう。

「何があった?」

当然誰も答えないと思っていたが

「浅野君が自分で勝手に水被ってました。ねえ皆」

彼女らは典型的ないじめっ子で、逆らえば今度は自分が何されるか分からない。だから、誰も何も言えなかった。

「浅野、本当なのか?」

いいえ、違います。そう言おうとした時だった。

「先生、違います。これ見てください」

突然、後ろからそう叫ぶ人がいた。その人の名前は川瀬梨菜。彼女の手にはスマートフォンが握られていた。どうやら彼女はさっき僕が水をかけられる瞬間を動画に撮っていたらしい。僕がやったわけではない証拠と同時に誰がやったことなの子は動画を見れば一目瞭然だった。

「カトウ、スズキ、ヤマダ。この後職員室に来いよ。その前に浅野、お前は着替えてこい。それだと授業集中できんだろ」

とりあえず、トイレで体育着に着替える。濡れた制服は洗濯すればにおいとシミが取れるだろうか。下着類は少し濡れたくらいなので着ていれば乾くだろう。

着替え終わり教室に戻ると彼女らはいなかった。クラスメイトの反応を見る限本当に連れていかれたのだろう。

「奏多大丈夫か?」

「においがきついことくらいであとは大丈夫。朝陽も濡れたでしょ?ごめん、巻き込んで」

「お前が悪いわけじゃないだろ?水をかけてきたあいつらが悪い」

それはそうなんだけど、僕が朝陽の近くに居なければ彼に水がかかる事は無かった。

「まぁ、それくらい大丈夫でしょ。校庭でも走ってくれば?乾くっしょ」

「あほか、授業どうすんだ」

「サボれば?」

その後、二人でギャーギャー騒いでたので、次の授業の準備をする。そういえばと彼女のもとに向う。

「川瀬さん、さっきはありがとう。おかげで助かった」

「いいえ、お気になさらず。あいつらに痛い目に遭ってもらいたかったからさ」

川瀬さんは学校で特定の誰かと親しくしているところを僕はまだ見たことがなかった。無論、僕は一回も話したことが無い。

「もっと痛い目に遭わせたかったけどね……」

と小さくつぶやき、寝た。良く分からない人だなと思いながら教科書を取りに行く。因みに、彼女らは二限の途中まで帰ってこなかった。

いじめっ子と言うのは誰かをいじめていないと気が済まない人間なのだろう。二限の休み時間から彼女らのターゲットは川瀬さんに変わった。僕はこれを喜べるわけが無かった。だけど、行動できなかった。そのことにイラついた。朝陽ですら彼女らと接するのは控えている。それは彼女らが怖いのではなく、彼女らの親がめんどくさいからだ。いわゆるモンペという奴らでどのくらい面倒なのかは朝陽から聞かされていた。彼女らが川瀬さんに行っているいじめは、傍から見れば軽い物なのかもしれない。教科書を隠す、筆記用具を捨てる。この日はこれだけで終わった。僕も朝陽も芽唯もこの事だけは全く触れずにいた。触れたところで何も変わらないことは事実だし、結局のところ皆誰もいじめの標的にされたくないのだ。翌日、川瀬さんの机の上にどこから持ってきたのか、菊の花が置かれていた。更には消えろ、生きる価値ない、ゴミなどと、知能の低さをうかがわせるようなことが書かれていた。もちろん、誰も消さなかった。川瀬さんも、それを消さなかった。お昼になると、川瀬さんが読んでいる本に水をかけ、頭の上から黒板消しをぶつけるなどだんだんとエスカレートしていった。川瀬さんは何されても無反応だった。水をかけられてもハンカチで拭いて、黒板消しを落とされたら自分で掃って。川瀬さんの反応が無いことが面白くなかったのだろう、彼女らのいじめが暴力に変わる日はそう遅くなかった。殴る場所は顔ではなく腹や背中、足など外からは見えないところを集中的に、それも三人で。数日経った放課後。僕は忘れ物をして教室に戻る。その日は曇りでこの時期にしては肌寒い日だった。途中、まだ校内に残ってた朝陽と芽唯に出くわした。

「よ、何してんの?」

「忘れ物。明後日提出の課題をロッカーに忘れてきちゃって」

「やっべ忘れてた。俺も取りに行かなきゃ。芽唯はその課題やった?」

「私がやるわけないでしょ?一緒に行こ浅野」

他愛もない雑談をしながら教室へ向かう。各々ロッカーから課題を取り出し、暇なので教室でだべろうとなり、ドアに手を掛けたところで、彼女らを発見した。僕と朝陽は顔を見合わせる。彼女らが川瀬さんを殴るときは必ず素手だった。凶器を使う事は無かった。だが、カトウの手にはカッターナイフと思しきものがあった。スズキとヤマダがいないと思ったがどうやら川瀬さんを羽交い絞めしているようだった。

当たり前だがいじめはダメだし、ましてや凶器を使うことなど言語道断。誰も川瀬さんの事を助けない。僕も怖くて助けられない。あの三人は自分がどれだけ愚かな事をしているのか分かっていない。僕は自分を助けてくれた人を見捨てるような人間にはなりたくなかった。

驚かせる目的でドアを思いっきり開ける。三人はそこでやめると思っていた。僕の認識が甘かった。そんなのお構いなしと言った感じでカッターを振り下ろそうとする。その時、もう一つの扉から誰かが猛スピードで入ってきた。朝陽だった。彼はそのままの勢いでカトウに突っこむ。この時、カトウが素直にカッターを離していたら話は違ったかもしれない。カトウは持っているカッターを正面に投げるようにして話したのだ。そのカッターはあろうことか、川瀬さんのところへ飛んでいき、

彼女の顔を傷つけた。そのことに気づくのはもう少し後になる。

僕と芽唯も遅れて室内へと入る。スズキとヤマダは怖気づいているのか、固まっていた。僕はカッターを拾い、芽唯は川瀬さんのところへ向かう。川瀬さんの制服はボロボロだった。この年齢になれば男女の対格差は圧倒的なものとなる。朝陽は簡単にカトウを捕まえていた。

「とりあえず、先生呼ぶか?」

と朝陽が言ったところで見回りの先生がやってきた。朝陽が気まずそうに、

「こいつら職員室に連れてってもらっていいですか?」

先生は黙ってうなずき強引に三人を引っ張って行った。

「朝陽、ケガはない?」

川瀬さんのところにいた芽唯が声をかける。

「なんともないよ。少しは加減したしね。相手に怪我させるとモンペに何言われるか分かったもんじゃない」

そう言うと彼は少し照れくさそうに笑った。流石にこの状況で帰るわけにもいかないし、楽しくおしゃべりなんてことをする気分でもない。どうするかと僕が悩んでいると、川瀬さんが喋り出した。

「あの、皆さんありがとうございました。危険なところを助けていただいて……!」

彼女の顔が少しゆがんだ。芽唯が思わずといった感じで声を上げる。

「川瀬さん、顔ケガしてるよ?保健室いこっか」

芽唯が任せろと言った感じでアイコンタクトを取ってきたので僕らはここで待機している。

「これでいじめ無くなるかな?」

「流石にここまで来ればもうやんないだろ。というか、暴行の証拠見つかれば退学になるだろここは」

彼女らの存在で忘れていたがここは私立だった。

「せっかく受験したのにもったいないよな」

「裏口で入ったんじゃない?彼女らの事だから」

僕が冗談っぽく言うと、

「あり得そうで笑えないよ」

と朝陽が真剣そうな顔で言った。自分で言っといてなんだが一番あり得そうで怖かった。数分後、僕らは放送で職員室に呼ばれた。生徒指導の先生に状況を説明し、朝陽は何故突っ込んだのかを聞かれていた。

「そのほうが速かったから」

と真顔で答えた彼の事を僕は今まで以上に好きになった。同時に馬鹿だなとも思った。


「川瀬さんの傷は浅いから出血とかは大したことないんだけど…跡が残っちゃうかもしれないって」

「俺が下手に突っこまなければ良かった……川瀬に悪い事した」

「別に悪い事じゃないでしょ。あんたが突っ込まなければもっとひどい目に遭わされていたのかもしれないんだからあんたは悪くないよ」

その後、三人は退学、朝陽も一応女子に手を挙げたという事で注意を受けた。


――数日後――


「お、おはようございます」

教室で三人で雑談をしていると、川瀬さんがやってきた。

「はよ、川瀬」

「おはよー川瀬ちゃん、傷大丈夫?」

「おはようございます、川瀬さん」

「あ……えっと…」

三人で一気にいったもんだから川瀬さんが戸惑っていた。

「ああ、困らせちゃったねごめん」

「いえ、傷は痛みもなく大丈夫です。この間は本当にありがとうございました」

「ううん、たまたま教室に来ただけだったし。それに、もっと前に助けることが出来たのに助けることが出来なかった。その時助けられていれば川瀬さんの顔に傷が残ることも無かった。だからごめんなさい」

「謝らないでください。あの状況だったら誰も助けられなかったですから」

彼女は優しく微笑む。傷跡は薄く、しかしはっきりと残っていた。少しの沈黙の後、朝陽が切り出した。

「てかさ、川瀬は何で敬語なん?」

「昔からの癖というか…なんか壁がある感じがしてしまって」

礼節を重んじること自体は良い事だと思うが、年齢は同じなんだし、タメ語でも

良い気がするが。

「じゃあさ、俺等と話すときはもっと緩い感じで話そうぜ。そのほうが良いっしょ?」

「でも、皆さんは私の恩人だし」

「良いって別に。前に助けることできなかったんだしさ」

そう言うと朝陽は川瀬さんに向けて手を差し出す。

「じゃ、これからよろしくってことでみんなで握手だ」

こういうことを素でやるから良い奴なんだ。                

「え……っと、よろしく…………お願いします」

僕らのグループに新たな仲間が加わった。


という事で過去編でした。後一話続きます。

題名迷いましたが気が向いたら直します。

詳しい事はまた活動報告に。

それではまた

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