そこにいる君、そこにいない君
大変お待たせいたしました。それでは、お楽しみください
君のことを嫌いになった訳じゃない。
だけど、本当に君を想うのなら、これしかなかったんだ。
だから、どうにか受け止めてほしい。これが最後のワガママ。
「いつか、そう言われる日がくるってなんとなく覚悟していたんだけど……そっか」
「ごめんね、奏多」
「梨菜が謝る事じゃない。それに、もうすぐ消えていく僕なんかに時間を使うのはもったいない事だもん。………退院おめでとう。がんばってね、梨菜。うん……元気でね」
「奏多も、リハビリ頑張ってね」
そう言って、私は病院を後にした。
もう君には、二度と会えないけど。
〝足が動かない〟ということは想像以上に生活に支障をきたした。これまで生きてきて、動くことが当たり前だと思っていたから、その当たり前が、突如そうでなくなるのは、日常生活への支障は大きかった。とは言っても、リハビリの効果があったのか、数か月すればほぼ元通りになった。
―事故から一年―
秋の燃えるような夕陽は静かに、優しく教室を照らす。窓を開ければ薫ってくる金木犀の香りに何処か哀愁を感じながらふと、思う。
思えば、僕はもう死んでいるはずだった。2021年でこの命は終わる予定だと主治医に言われたのを僕は信じていた。が、なんかまだ死なないらしい。らしいってなんだよと自分でも思うが、まだ生きられるという事に感謝しよう。
気が付けば高校2年と言う学年も半分が終わった。
「奏多は進路決めた?」
「迷ってるんだよね…やりたいことが無いわけじゃないんだけど、いつ死ぬか分からないからどうしようかって感じなんだ」
すげえ二択だなと独り言のように呟きながら、進路調査カードに視線を戻す朝陽と呑気にグミを食べる芽唯。
「恵まれているのか恵まれていないのか良く分からない選択肢やめなさいよね」
「なんかの間違いで病気が治ればこの大学に!って出来るんだけど、まだ検査結果出てないから決めたくても決められないんだよ」
なので恵まれているかそうでないかで言われたら、おそらく後者だろう。
「芽唯は大学とかその様子だと決まったんだろ?どこにするんだ?」
あー、そのことなんだけど…と唇を重たそうに開く。
「私は、専門学校に行く」
前に進路の話をしたときは大学に行くと聞いていたので正直驚いた。
「私は、あの子の…梨菜の夢を叶えたいの」
すっかり手になじんだ黒色のカメラを優しくなでながら決意の固まった目をした少女はそう言う。
「ってことは……」
「うん、私はプロのカメラマンになる。私にカメラの才能があるか分からないけど、絶対に叶えたい。あの子のためにも私は、頑張りたい」
「芽唯なら、絶対出来るよ」
「ありがと、そう言ってもらえると嬉しい」
確証はないけど、芽唯ならその夢を叶えられる気がした。
数瞬の沈黙ののち、朝陽が口を開いた。
「なあ、奏多。梨菜は、どうなんだ?」
「……どうって、なにが?」
「いや、その……」
そんなに言葉に詰まっていれば、何が言いたいのか分かる。僕もそんなに鈍感じゃない。
「まだ、行方は分かっていない」
あの日、僕に別れを告げた日から梨菜の行方は分かっていない。
たまたま用事があって訪ねた芽唯が言うには、僕に別れを告げた翌日にはどこかへ引っ越していたとのこと。
そこからは、早かった。
突然引っ越したのかと思ったら今度は翌日のホームルームで梨菜が転校したことが告げられたらしい。
退院してからすぐ、担任に梨菜の事を聞き出そうとしたが、
「川瀬のことは俺も何も聞いてないんだ。「ただ突然引っ越すこと、それに伴い学校を辞める」と。そう言われて電話は切られそれ以降連絡はつかないんだ」
と、不発に終わった。
何も分からないまま、一ヵ月が過ぎ、二か月三か月…気が付けば一年が過ぎていた。
今すぐにでも何か行動に移したいが、情報が何も無いので動きたいにも動けない。
何かしたいのに何もできないこの状況が心苦しい。
「何処に引っ越したとか何も聞いていないのか?」
「……梨菜が退院してからあいつとは会ってもいないし、話してもいない。連絡先も多分ブロックされているからどうしようもできない」
「それでも会いたいんだろ?」
会いたい。
正直あの別れに納得なんてしていないし、できない。でも、
「会いたいし、話したいこともたくさんあるけど、手段も情報も何もない」
何もできないと言う事実が、僕の心を締め付けてくる。
誰が言い出したわけでもなく、この日は帰る事になった。
いつもの帰り道を、今日はより一段と紅い夕陽が僕らを照らす。
ふと、この三人であと何回この道を通ることが出来るのだろうと思ったが、すぐに考えるのをやめた。そんな事考えても仕方が無いからだ。
果たして僕は生きているときに君に会えるのだろうか。
会いたい気持ちは溢れ出てくるのに、君へとつながる情報は何一つとしてない。
そこの角を曲がったら君があの日みたいな笑顔でそこに立っていたりするんじゃないか、携帯を開いたら、君から沢山連絡が来ているんじゃないか。
思い描いていた、夢に見ていたそれは全て消えた。
いや、一つだけ叶ったものがある。
あの日みたいな笑顔じゃないけど、
いつもの曲がり角をいつも通りに曲がったとき、君はいた。
ただ、そこにいる君は…
「梨菜!」
「なんだ、元気そうじゃん!良かったぜ~」
「…久しぶりだな……梨菜」
一年ぶりに見た君は、あの日から何も変わって無いように見えた。
髪の長さも、服も、何もかも。
だけど、そこにいる君は、僕らを知っている君ではなかった。
「えっと、どちら様です……か?」
「は?」
何の冗談か分からなかった。梨菜であるはずの少女は困惑した目でこちらの声に反応した。
「梨菜って誰ですか?」
「いやいや、梨菜だよね?そうだよね?!」
「私が誰か知っているんですか?」
その少女は、期待と困惑を混ぜ合わせたような顔で、僕たちに一つのお願いをしてきた。
「お願いです!私のこと教えてください!」
どういう事なのか理解しようとしてもできなかった。
「私はどんな人でしたか?私は私のことほとんど覚えてないんです」
君と同じ声で
同じ髪型で
同じ背格好で
同じ顔で
同じ香りで
同じ君であるはずの君が
僕にはどこか、別世界の君に思えてしまったんだ。
今回も二千文字ちょっとの短めになってしまいました、、、
また詳しい事は後書きで。
それでは、また。
*梨菜の苗字間違ってました…ごめんなさい!




