君を想って
11話の続きとなっております。なので最新話ではありません。
なので、「朧げな記憶、失われた日常」は数日以内に削除しようと考えています。
そして、こちらは短くなっておりますが、楽しんでいただけますと幸いです。
普段は気にも留めない雨の音がやけに響いているように感じる。
音に対して敏感になっているのかもしれない。
どんな小さな音でも、今はっきりと聞こえた。
奏多の息を吸う音
何かを叫ぶ野次馬たちの声
地面のコンクリートを壊さんとばかりに降り注ぐ雨の音
甲高い車の警報音
私の息遣い
心臓の鼓動
私には見えなかった
見ようとしていなかった、という方が正しい。
音では感じていた。なにが起こったのか。
分かっていた。
だけど、それをこの目で見てしまったら私は……私は、
滲む赤色は真っ黒な地面を染めていく。
私を庇い車に轢かれた奏多は頭を強く打ち意識不明の重体となった。
眠っていた体を起こすのは大変なことだ。
まだ寝ていたいと駄々をこねる体を、窓から入る風の力を借り強制的に起こさせる。これが冬だったらもう一度布団に入っていたかもしれないが、今の季節は真逆ともいえる季節でもうすぐ夏がやってくる。
花が消え、今度は立派な緑を咲かせている木から香る独特のにおいは季節の変わり目を優しく、しかし確かに教えてくれる。
事故後、私と奏多はすぐに病院に搬送され私は右足の捻挫程度で済んだが奏多は違った。
頭を強く打った影響で血腫ができ、緊急オペとなった。
手術は無事に成功したし、術後の経過も問題ないのだが一つだけ大きな問題がある。
目を覚まさない。
麻酔は切れているはずだし、本当ならもう目を覚ましても良い頃なのに
彼は今も静かに白いベッドの上で眠っている。
どうして目を覚まさないのかお医者さんも理由は分からないと言った。
だが、こうも言った。
「もし、このまま目を覚まさないとなると、後遺症が残る可能性があります。どの程度の物かはわかりませんが、おそらく……」
医者の予言めいたそれは、最悪な形で的中した。
数日後に目を覚ました奏多の下半身は動かなくなっていた。
私の退院の日はすぐに来た。
「やっと退院だね。退屈だったでしょ」
「……ええ、まあ」
奏多の足が動かないと分かってからどうすれば良いのか分からない。
私が普通に生きていて良いのか。
彼の事を心配しても良いのか。
彼に、会いに行っても良いのか。
会いたい気持ちはある。だけど、会ってどんな言葉をかけて良いのか分からない。
あの日、私がいなければ事故に遭う事も、足が動かなくなることも無かった。
私が生まれてこなければ、君に出逢わなければ、こんなつらい思いをさせることも無かったのに。
「今日も来てくれてありがとう、梨菜」
そう言って笑う君の笑顔は以前と変わらない。
「ごめんね奏多」
「なにが?」
「私のせいで…」
「ああ、これならどうってことないよ。左足はそこまで麻痺してないからたいしたことは無い」
「違うの奏多」
あの日から、ずっと言おうと思ってた。
「私と居ると、不幸になる。だから、私たち別れよう?」
これしか、結論は無いのだ。




