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見える君と見えない僕  作者: 川端
10/15

僕たちの時間

お久しぶりです。かなり短めですが楽しんでいただけると幸いです。

誰かに呼ばれてるのはわかる。だけどそれが誰なのかわからない。水のなかにいるみたいに、声がよく聞こえない。

今度は…泣いてる声

誰が泣いているのかわからない。

いつもとは違う雰囲気。誰一人として笑ってない。何となく明るい雰囲気ではないことが分かる。

今度は、急に暑くなってきた。まるで炙られているかのようなそんな暑さだ。夏の日差しなんか比にならないくらいの暑さ。もう耐えられない。これ以上ここにいたら死んでしまう。熱い、……熱い!


「………っはぁ!……はぁ……」

とんでもない悪夢を見ていた気がするが、どんな夢だったのかは、まるで思い出せない。

パジャマがぐっしょりとしている。ここまでひどい寝汗をかいたのはいつぶりだろうか。

ベッドわきに置いておいた水を飲む。一口のつもりが勢い余って全部飲んでしまった。それでも喉が潤された感じがしないのでキッチンに向い冷蔵庫にしまってある水を飲む。ペットボトル二本を消費してやっと渇きを感じなくなった。

時刻はAM4:16。何かを始めるのにははやすぎる時間帯だ。寝ようかと思ったけど、先ほど見た悪夢のせいでその気は失せた。することも無いし、散歩でもしよう。特に理由は無いが、先ほど見た夢の存在を忘れてしまいたいから少し遠くまで歩いてみようと思う。パジャマから緩めのズボンに少し軽めなジャケットとラフな服装へと着替える。携帯だけ持って外に出る。

散歩するには向いていないドンと重たい空だが、暑すぎも寒すぎもしないのでこれくらいの天気がちょうどいいのかもしれない。どっちの方向に歩こうか迷っていたら…

「よっ!朝早いね、どうしたの?」

トコトコと歩いてきた梨菜がいた。なぜいるのかは理由をきがなくてもわかるので追及することをやめる。

「それにしても梨菜がこんな早い時間に起きることなんてほぼ奇跡じゃないのか?」

「目覚まし二時間前からかけてたから」

と、どや顔で言われたがそうでもしないと起きれないのはなかなかだと思う。僕も朝は弱い方なので人の事は言えないが。「散歩行くんでしょ?こっちのほうにさアジサイが綺麗に咲いているところがあるの。行こ!」となぜ梨菜が主導権を握っているのか分からないが、特に行きたいところがあるわけでも無いので梨菜についていくことにする。

「雨のにおい、するね」

梨菜を先頭に歩き始め初めて数分、先ほどより空がどんよりとしてきた。雨のにおい、コンクリートが濡れたにおいというのだろうか、湿っていて鼻腔に残るあのにおい。その独特なにおいは嫌いな人の方が多いのかもしれないが、僕はとっても好きなにおいだ。

「一雨降りそうだね、戻る?別に今日じゃなくても行けるしそれに…」

「ううん、今日じゃないと嫌だ。今日が良い」

珍しく梨菜が譲らない。まあ、雨が降っても困るわけではないので別にいいのだが。

特に話すことも無く目的地へと近づいていく。

「なにかあったのか?」

いつもと、どこか違う梨菜の事がどうしても気になる。

「特に何も…ううん、ある」

もしかして、〝あのこと〟についてなのだろうか。そうだとするとただ事ではない何かが起きたのか?

「んと…ね。……よし!あのね、奏多今から凄いワガママを言うよ?」

顔に緊張と笑みを浮かべながらそう彼女は言う。ふーっと息を吐いて、胸辺りに手を当て深呼吸を繰り返す。落ち着いたのか胸辺りにあった手をおろし口を開く。その手は強く、硬く握られていた。

「奏多が入院してた時に一回伝えたことがあると思うんだけど、私は奏多の事が好き。友達を、仲間の事を大事に、大切に思ってくれてる君のことが世界の何よりも大事で、誰よりも大切な存在で、ずっと一緒にいたい、私にとって奏多はそんな人なんだよ。私に残されている時間が長くないことは分かっているし、奏多に残されている時間も長くないことは分かっている。だからこの想いを伝えないでおこうかなと思ったんだけど、それは出来なかった。だから、もう一度ちゃんと伝えます。私は、奏多の事が好きです。もうすぐ死んじゃうけれど、君に残された時間を私に下さい」

「………」

どう返事すれば良いのか分からない。自分が今、素直に思っていることをこのまま梨菜に伝えてしまって良いのか、分からない。だけど、それでも、

「僕なんかで、良ければ」

この気持ちを伝えずにはいられなかった。

「でもさ、梨菜。良いの?僕なんかとで。朝陽だっているし、芽唯だっているのに…」

「誰でも良いわけじゃないよ?奏多の時間が良いの。皆と過ごす時間も大事だし、好きだけど、奏多とすごす時間は私の中では特別なの」

早くしないとほんとに雨降りだしちゃうから急ぐよ?と言い、僕をおいて走り出した。追いかけないわけにもいかないので渋々走って後を追う。途中、急に立ち止まってくるりと振り返り、僕の方に走ってくる。腕を大きく広げて、そのまま速度を緩めることなく突っ込んできた。あまりの衝撃に倒れそうだったが何とか堪える。どうしたのと問いかけようとしたとき、

「ずっとこうしたかったの!」

空を暗く重くしている雲を弾き飛ばすくらいの明るさで、梨菜は言った。同時に梨菜の優しい香りと、春のような包み込む温もりが僕のもとにやってきた。

「一生このままが良いんだけど!」

「嫌だよ、お風呂入れないじゃん」

そういう問題?と梨菜が笑う。つられて僕も笑う。

ああ、幸せだ。本当に、今が一番幸せだ。

僕だって思う、このままが良いと。だけど、残酷なまでに、

僕らにはもう、時間が残されていない。


という事で「僕たちの時間」でした

詳しい事は活動報告で。それでは


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