第一話 嵐の前の静けさ、いや、もう静かな嵐のただなか
おーくーれーたぁ…まあいっかで済ませず、次は頑張って書きます。 まだ序章も序章で、おもしろみのない所だけど、わたし遅筆だから一回区切っちゃいますケドネ
「あんたが…、わたしの……、わたしの!”つがい”よ!!」
本当に、嬉しそうな、心の底から歓喜の感情が湧きあがるかのような笑みを浮かべながら、そう断言する彼女。その彼女の前で、成龍は、思考をまとめられず立ち尽くすばかりであった。
(え、なに…?ツガイ…ツガイってなに…、え?ってか誰…?こんな子知らないんですけど、実は幼馴染で俺が忘れてただけでした―とか?は?え?いやないない、俺ずっとこの町で暮らしてきたし、結構記憶力自信あったんだけど、えぇ、実は本当に忘れててどっかで知り合ってましたーとか…?えぇ…)
ただただ混乱するばかりの成龍に、少女は近づき、うつむく彼の顔を覗き込む。
「あー、無理もないかぁ。覚えててくれた方が正直、奇跡ってもんだものね。うんうん、わかるわかる。」
一人で納得する少女は、そのまま成龍の周りを、うんうんと頷きながら、観察するように回る。
「あんたが忘れっぽいー、とか、とぼけてるー、とかじゃないのはわかってるからうん、気にしなくっていいわ!」
成龍の困惑などお構いなしに、一人言葉を連ねていく。
「でもまあ、大丈夫!心配いらないわ!わたしが、ぜーんぶ守ってあげるから。心配はいらないわ。」
その時。ほんの一瞬、瞳から感じられる何かが違った気がした。寒気と温かさが同居した、得体のしれない何かを。その一瞬で感じた気がした。だからだろうか。慌てふためいていた気持ちがようやく落ち着かされたのか何なのか、ようやく言葉を発することが出来た。
「あの…君は、誰?」
それでも、ようやく発することが出来たのは、ぎこちなくも聞こえるこの声だけであったが。
少女は、先ほどと変わらぬ笑みを浮かべたまま、でも、ちょっと作ったような声で語る。
「わたしの名前は、三井凪咲!あんたと同じ、谷口沢高校に転校してきた新二年生!でもって、あんたと”婚約”の儀を果たすため、遥々やってきたわ!!」
臆面もなく、成龍の目を逸らすことなくその赤瞳で見つめながら、はっきりと言い放った。周囲の目など、まるで無いものかのように。それはもう堂々と。
言い放たれた成龍はといえば、それはもう混乱の境地であった。はっきりと分かるように、婚約とまで言われたのだ。そこにきてようやく番の意味を理解してしまったから。大混乱である。
「え…ぇ?あ、あの…すいません!!」
それはもう怒濤の勢いで、成龍は駆けだした。周囲で固まっていた人たちをかき分けながら。耳まで真っ赤にし、羞恥と困惑に身を茹でだこのように真っ赤にしながら。駆けて駆けて、桜並木を突き進む。こんな全力疾走、人生で初めてではないかなどと、考える余裕すらないのだった。
かたや赤髪少女、凪咲はと言えば。
「ぽへー…。」
置き去りにされ、衆目に曝されていることにも気付かず、魂の抜けた顔で立ち尽くしていた。
どういう心境かは誰も理解はできない表情で、立ち尽くしていた。
周囲の人々は、興味を失って歩を進めるなり、気になってちらちら眺めるなりしていた。少なくとも、凪咲の何とも言い難い表情と、先ほどの告白のおかげか、話しかけるものはいなかった。
ひらひらと、桜が舞い散る。終わりを示すかのように。はたまた、新しい物語を象徴するかのように、ゆったりと降り注いでいた。佇む少女の気の抜けた顔を無視しながら。
―——所変わって。
谷口沢高等学校。良くも悪くも普通で名の通ったこの高校。正面玄関のすぐ横にて。
今日は新学期の頭ということもあり、人だかりが出来ていた。クラス確認の掲示確認のため、こぞって集まっているところである。成龍もその一人ではあるが、登校中の事件もあり、浮かない顔であった。
実際のところ、既に噂は広まりかけていたが、あまりの成龍の怯えように、腫れ物状態になっているだけであるが。本人はそれどころではなかったので、全く気付いていなかった。
とにかく落ち着きたくて、成龍は慌てて名前を探していた。
(どこだ、どこにある…?俺の名前は…。く、見当たらない。)
この高校、案外人数が多いもので、探すのが一苦労だったりするのである。
黄色い声を上げたり、笑いあったりしている学生のを合間を縫って、また縫って。端の方の特進クラスに入る手前、五組の後ろの方で。ようやく自分の名前を見つけた。
「ふぅ、良かった…。」
ようやくひとまず落ち着いて座れると思い、教室へ向かおうと体を翻すと、はたと、目が合う。吸い込まれるような赤瞳に。真っ赤な髪を揺らす少女のその瞳に。
至近距離での、出来事であった。
凪咲は、まるで先ほどの事件などなかったかのような、透き通った顔をしていた。落ち着いた、どこか大和撫子といった表現が似合いそうな顔をしていた。彼女はいったい、何を考えていたのか…などと考える間もなく、凪咲の顔が赤面していく。
「ご、ごご…。」
「あ、…ぇ?」
成龍が言葉を発する前に。
凪咲は。
うしろを向いて。
駆けだした。
「ごめんなさいでしたぁぁぁ!!」
全力で叫び謝り、土煙の上がるように、いや、比喩なく土煙を上げながら、何処へか駆けだしていった。
(なになに?さっそく修羅場?)
(あさイチこれとか、ちょっとヤバない?)
(あいつ何やったの?もしかして振り振られの間柄?)
(あの男子に告白されて~な。)
最後の方、男子学生の声で聞こえた気がして、寒気が襲う。いやなんだこの高校、普通なんじゃないのか?ラノベみたいな…。などと青い表情で考えながら、これ以上注目を浴びたくないと、そそくさとその場を立ち去る。
「新学期そうそう、どうしてこうなった…畜生……。」
背中を丸めてふらふらと教室へ向かう成龍の呟きは、誰にも届くことはなかった。
成龍は、別に何か変わった出自を持っているだとか、実は前世の記憶や名残があるだとか、そんなことは無かった。
普通の友達付き合いをしてきて、普通に学校で交流を重ねて、普通に進学してきて。普通に普通を重ねたような生活をしてきた。成龍は、実際に記憶力はいい方で、小さい頃に両親や友人たちと交わした約束や、些細な出来事などでも割と覚えている方なので、本当に、凪咲に関して引っかかる記憶は、何一つとして持ち合わせていなかった。
故に。
「うーーん、うーーーーん。」
新たな教室、自分のあてがわれた番号の席に着いた成龍は、永久に唸っていた。
噂を聞いたであろうクラスメイト達も、気になるものの、その近寄りがたい雰囲気故か、話しかける勇者は一人もいなかった。
これがラノベかゲームかだったら、今頃質問攻めにあっているのだろうな、などと考える余裕くらいは生まれていた成龍であった。
「おいおい成龍、んな顔してどーしたよ?女子に振られでもしたか?」
ようやく、今の成龍に話しかける勇者が現れた。
色素の薄めのくせっ毛に、人当たりのいい顔立ち。ややぽっちゃりな体格の男子生徒。腐れ縁のような友人、中村友樹だった。
気さくに話しかけられ、成龍はようやく、その思案顔を上に向ける。
「いや、振られたっていうより…、告白?プロポーズ…?みたいなのされた。…みたい。」
「…ぶぅーっ!なんだそりゃ?夢でも見たか!?」
友樹は、思いっきり噴き出す。そりゃそうだ。長い付き合いだから、そんなことはあり得ない、ってことくらい理解はしているくらいには知り合っている奴に、大法螺吹かれたようなものなのだから。
噂の真相が気になっていたのか、周りの生徒はちらちらと気にしてくるが、あえて踏み込む事でもないと、話に加わってくる人はいない。
「成龍、お前がそういう嘘を言うやつじゃないのはわかってるけど、いや、それでも嘘なんじゃね?って思う話だわ!新学期早々、風邪でもひいたか!?」
茶化すような顔で笑ってくる。
「いやいや、これが本当なんだって。俺も正直、どうしたらいいかわかんなくてさ。しかもさっき、掲示板のところで遭遇して、ごめんなさいって言われて逃げられたんだ…。」
「っぶ!!ギャグか、やっぱギャグか!!すまん、お前、んなギャグも言えるようになったのか!!」
笑い転げそうな勢いでけらけら笑う友樹。流石の成龍も、この友人にはカチンときた。
ゆっくりと立ち上がり、拳を握りしめ、ゆっくりと溜める。
ゆっくりゆっくり、拳を引き、溜めて、溜めて…。十分に、溜めて、鳩尾をしっかり打ち抜く構えを、笑い転げて前を見ることの出来ない標的もとい友人に向けてとり。
そして。
放つ。
鋭い一撃を。
その無防備な腹にむけて。
ズドンと音の鳴りそうな右一発。
一カメ。二カメ。三カメ。とつきそうな、それは見事な一撃だった。
ほんのり土煙演出かのような何かが巻き上がり。
友樹は、力尽きた。
「あー、えっと…まあ気にしないで、談笑のお邪魔しましたー!ごめんねー!」
成龍が言うと、見つめる全員が、引き攣った(ひきつった)笑みで、頷きを返すのであった。
新学期のホームルームを目前にして、成龍の近寄りがたい立ち位置が、確立した瞬間であった。
読んでくれてありがとうございます!! ぶっちゃけ、まだ多分目にも留まらないくらいの作品とも呼べないくらいの短文だけど、こっから物語を大きく動かしていきます!! 期待せず待っててくださいね☆ 明日投稿したいくらいには当た真ん中沸き立ってるので、もしいけそうなら、明日には投稿しますっち!! それでは、またまたー!シーユーネクストタイム!エーンドゥ…グッドラック!!