45.チートプレイで行きます
私とレオンの計画はこうだ。
私が一行の『予言師』となることで、勇者たちを誘導していく。そして、妖精をすべて集め終えた後――私とレオンはあのイベントを起こすのだ。
――フェアリーシーカーの中でもっとも衝撃的なイベント。
レオンによるアイル殺害シーン。
でも、今回はゲームとは少しだけ展開が異なる。
レオンはアイルを実際には殺さない。『殺すふり』だけするのだ。そして、仲間と女神に「アイル・レグシールは死んだ」と思いこませ、私とレオンはアイルを逃がす。
これが私たちが考えた作戦だった。
この計画を実行するために、やっておかなければならないことがある。
それは予めアイル様にすべてを話して、仲間に引きこんでおくということだ。
そして、そのアイルに真実を話すタイミングは、慎重に見定めなければならない。
私は脳内で、攻略ノートを開いた。レオンと2人で作成した物で、3年間でみっちり読みこんだので内容は全部、頭の中に入っている。
レオンはバッドエンドを回避するために、何度も人生をやり直している。そのループの中の6回目。アイルに事情をすべて話して、協力してもらおうとした時があったのだ。だが、そのループは失敗に終わっている。アイルに信じてもらえずに、むしろ訝しまれ、距離をとられてしまうのだ。
確かにこんな荒唐無稽な話、信じてもらえるわけがない。ループとか、女神が本当は敵とか、このままでは世界は滅ぶとか。
私がレオンにこの話を聞かされた時、すぐに信用できたのは、「レオンが未来を知っている素振りがある」「私自身が転生者であるために少し先の未来を知っていた」からだ。
そこでの失敗を教訓に私たちは作戦を練った。アイルに信頼してもらうために、伏線を敷くことにしたのだ。
それが「ルイーゼって実は予言師なんだってよ」作戦である。
ルイーゼの言うことは当たる→なぜか?→実はレオンがループしていて、未来を知っており、ルイーゼと協力して未来を変えようとしているから
という、図式を成立させたいのだ。「ルイーゼが未来を知っている」という下地があれば、私たちの話も信用度が増すだろう。
『こんなことしなくてもお前の言うことなら、アイルは信用してくれる可能性もあるが、念には念を入れておきたい』
とは、レオンの談だった。(「私よりもあなたの方がアイル様に信頼されているんじゃないの?」と言ったら、なぜか憐れむような目をされた。)
と、まあ、そんなこんなで私とレオンの計画は始まったのだった。
「勇者様! 次の妖精はガトルクス王国に封印されています」
「あ、ここで『希望の花』をつんでから行きましょう。これと引き換えじゃないと情報を渡してくれないNPCがいるので」
「この街の序盤で重要アイテム盗まれて、それを追いかけるお使いイベントが発生してしまって面倒なので、そのアイテムは荷物の底にしまっておいてください」
それからというもの、私の『予言』は絶好調だった。
攻略に必要な知識はもちろん、ストーリーを進めるための最短ルートもどんどんと提示した。
RPGで『あるある』なお使いイベントは、本筋に関係ないものはいくつかスキップさせてもらった。
(情報が欲しければ○○持ってこい! とか、うまくいくと思った寸前にトラブルが起こって、解決に時間がかかってしまう系のやつね)
ほとんどのプレイヤーってそうだと思うけど、フィールドをたらいまわしさせられるだけのお使いイベント、私、そんなに好きじゃないんだよね……。
そのおかげで旅路は順調だった。順調すぎて、さくさくルートだ。攻略サイトを見ながらプレイするどころか、面倒なとこはさくっとスキップしていっているので、とんだチートプレイである。
その度にパーティーメンバーには驚かれ、レオンには呆れたような顔をされた。「息をするようにオタク用語を使うのやめろ」と指摘されたこともある。「あなただって、『オタク用語』って言葉を使ってるじゃん」と指摘し返してやったら、レオンは無意識だったらしく、ハッとした後に頭を抱えていた(どうやら私と話すようになってから、言葉がうつってしまったらしい)。
イグニス、コレットという本来ゲームでは仲間にならない2人が戦力として加わっているのも素晴らしかった。2人の戦闘力は高く、雑魚戦もボス戦もさくさくクリアだ。
こんな感じで序盤はチートプレイの連続だ。
順調にイベントを攻略して、妖精を集め、仲間を増やしていく。
「あなたが勇者なのね。ババ様の予言であなたが来ることは知っていたわ。私の力は、あなたに捧げましょう」
【ケタルの民 ファ=スレン が なかまに くわわった!】
「何だ、勇者っててめーみたいなちびっ子なのか? 頼りねえなあ。わっはっは! まあ、よろしく頼む!」
【獣人猫族 アルバート が なかまに くわわった!】
「ひぃ、た、食べないで! ミゥは食べても美味しくないよ~! 何でもするから、いじめないでね……?」
【獣人兎族 ミゥ が なかまに くわわった!】
追加メンバーの加入もさくっとクリア!
気が付けば、一行は11人という大所帯に(うち3人は、本来なら仲間にできないキャラクター)。
妖精の封印も残り1匹というところまで来た。
すべてが順調に進んでいた。このまま最短ルートですべてのイベントを突破できると思っていた。
それなのに。
私の存在がまさか、あんな大事件を引き起こそうとは……。




