44.詐欺ります
私に「予知能力がある」とハッタリをかますのは、レオンと話し合って決めた作戦だった。
これで私が未来を知っていても怪しまれることはなくなる上に、勇者一行の行動をある程度、コントロールできるようになる。嘘を吐くことになるのは少しだけ心が痛むけれど、こうでもしなければただのメイドが勇者一行に同行することも、旅の進路に口出しすることもできなくなる。
だから、私はこの時のために覚悟を決めたのだ。
未来を変えるためならば――私は詐欺師にだってなってやる!
「自分にどうしてそんな力があるのか、私にもわかりません。でも、時折、夢のような形で見えることがあるのです。実を言うと、アイル様があの日、勇者様と出会うことになるということも私は知っていました。アイル様が勇者様と共に旅立つということも……。だから、私はレオン様に相談して、アイル様の後を追ったのです」
設定は予めレオンと固めてある。台詞の練習も、不安そうな表情を浮かべる練習だってした。
私はそこで言葉を切って、皆の顔を見渡した。みんなは信じられないといった表情で目を見張っている。
やがて、口火を切ったのはユークだった。
「まさか……それじゃあ、ルイーゼ、君はこの先に起こることもすべて知っているというのか?」
「すべてではありません。この力は自分で制御することができないんです。知っているのは断片的な事柄となりますが……」
「彼女の力は本物です」
と、フォローしてくれたのはレオンだった。
これも打ち合わせ通りだ。
「私も以前、彼女の力によって助けられたことがあります。3年前の復活祭事件……魔人族を退けることができたのは、彼女の助言があったからこそなのです」
イグニスが驚いたように呟く。
「レオン……じゃあ、お前はルイーゼちゃんの力を知っていたのか?」
「ああ。彼女から相談されてな」
「そうだったのか……」
と、イグニスは複雑そうな表情で頷いている。
「私はどうして自分にこんな力があるのか、ずっとわからなくて、悩んでいました。でも、今になってわかりました。私と勇者様が出会ったのはきっと女神様の導きにちがいありません。どうか私も連れていってくださいませ、勇者様」
「……ダメだよ。ルイーゼ」
ユークの言葉に私は一瞬、不安になったが、その顔を見れば優しくほほ笑んでいた。
「仲間になるんだったら、『勇者様』じゃなくて名前で呼んでよ」
「ありがとうございます! ユーク様」
「お礼を言うのはこっちの方だ。ルイーゼの力は現にすごく役に立っている。君が一緒に来てくれるとすごく心強いよ」
私はほっと胸をなで下ろした。
やった!
受かった!
ルイーゼ・キャディ、勇者一行のメンバーに内定です!
ユークとエレノアは笑顔で迎え入れてくれ、ゼナは相変わらずの不機嫌顔だが異を唱えることはなく黙ったままだ。
それ以外のメンバーはというと――
レオンは私とそっと目を合わせて頷いている。
でも、喜んでくれると思っていたコレットはなぜかむくれていて、イグニスも複雑そうな顔つきだ。
何で……?
しかも、アイル様に至っては、
「……レオンには相談していたんだな」
「え……?」
「いや、何でもない……」
さっとフードで顔を隠して、私から離れていってしまった。
え、どういうこと!? 私がこの旅に同行するのが、そんなに嫌なの……?
私はショックを受けて、その場に立ち尽くした。それに追い打ちをかけるように、ゼナが私にだけ聞こえるように呟く。
「……何をたくらんでいる?」
「えっと……いったい何のことでしょうか」
「お前は嘘を吐くことに慣れていないのだろう」
「え……」
「目だ。話をしている間、後ろめたいことがあるかのように、時折、目が泳いでいた」
図星を刺されて、ぎくり。
ゼナは鋭い目付きで私を睨み付ける。
「悪意を感じなかった故、今は追及するつもりはない。だが、忘れるな。私はお前を信用したわけではない」




