42.それって戦力外通告?
「何だか一気に仲間が増えたなあ……でも、強そうな人たちばかりで、すごく頼もしいよ!」
金髪の少年が、屈託のない笑顔を周囲に振りまいている。
彼が『フェアリーシーカー』の主人公。勇者ユーク。
年齢はアイルと同じで17歳。明るくて爽やかな少年といった雰囲気だ。
「ユーク。お気楽だな。この旅は遊びではないんだぞ。王子の実力はすでに見せてもらった。騎士たちはともかくとしても……そこのメイドたちは戦えるのか?」
ばっさりと切り捨てたのが、メインヒロインのゼナ。
赤い髪を1つに結び、動きやすそうな戦闘服に身を包んだ美少女だ。背中には無骨な槍を背負っている。可憐というよりも、凛々しいという形容がふさわしい見目をしている。険しい目付きに、にこりともしない不愛想な口元。頭の上には黒い角が2本生えている。
彼女は竜人族、それも竜人が治めるフロテマ王国のお姫様。しかし、ドレスで着飾るよりも戦場で鎧に身をまとっている方が遥かに似合う、勇ましい姫君だ。
「コレットさんはああ見えて、とてもお強いのですよ」
と、にこやかに口を開いたのは、聖女・エレノア。
薄茶色の髪は長く伸ばして、清楚な雰囲気だ。服装は白系統でまとめられ、高貴かつ繊細。こちらはゼナよりも女性らしい雰囲気だが、きりりとした眼差しは意志が強そうで凛としている。
エレノアは私と目が合うと、嬉しそうに破顔した。
「ルイーゼさん。またお会いできて嬉しいです」
「エレノア様。復活祭以来ですね」
私もエレノアにほほ笑み返した。
レグシール城では毎年、聖女であるエレノアを招いて女神復活祭を行う。私はその際にエレノアに給仕したことがあるのだ。
「エレノア。その女は何者だ」
相変わらず不機嫌そうに告げたのはゼナ。私のことを睨みつけている。竜人族のゼナの目は人間とは少しちがっていて、特殊というか……虹彩は銀色できらきらと波打っているように見える。まるで心の中を見透かすかのような鋭い目付きだ。
私は気圧されて、言葉を失った。代わりにエレノアが説明してくれる。
「ルイーゼさんです。レグシール城でメイドをされているお方で……彼女の作るお菓子は絶品なんですよ」
「あ、はい。給仕とお菓子作りには自信があります! よかったら、ゼナさんの好物もお作りしますね」
「けっこうだ。甘いものは好かない」
バッサリと切り捨てて、ゼナは更に眼光を鋭くした。
「つまり、お前はただのメイドで、戦闘能力はないということか?」
「えっと、まあ……。護身術なら多少の覚えはありますが」
私の言葉に、ゼナはますます険しい表情を浮かべる。
「帰れ」
「え……」
「足手まといだ」
「でも……! 私はアイル様のそば仕えなんです! アイル様が行くところ、どこにでもお供させていただきます!」
「ルイーゼ」
静かに口を挟んだのはアイルだった。
助け舟を出してくれるのかと期待した矢先、
「僕も同じことを言おうと思っていた。君はレグシール城に戻ってくれ」
申し訳なさそうに告げられた言葉に、私は口をぽかんと開ける。
「え……えええ!?」
まさかの戦力外通告!?
ルイーゼ・キャディの冒険はここで終わってしまうの!?
どうすんの、これ!!
◇
「どうしよう!?」
ここは街道の脇にあるキャンプ地。
勇者一行はここで一夜を明かす予定だった。ゼナやアイルから戦力外通告を受けた私は、たき火を囲う皆から離れて、もう1人の協力者に相談をしていた。
その相手とはすなわち、ループ経験者であり、未来を知っている黒騎士。
レオン・ディーダだ。
レオンは難しい表情で木にもたれかかっている。
「危惧していた事態ではあるが……。まあ、やはりこうなるか」
と、眉間にしわを寄せて、頭を抱えている。
レオンと私は事前に何度も作戦会議をした。
その中で、『勇者パーティーの旅路に、ただの侍女が同行するのは難しいのではないか』という議題も当然あがった。しかし、こればかりは解決しようがなかったのだ。
私は侍女。ゲームではただのモブキャラ。どんなに戦闘訓練をしても、ステータスの伸びが頭打ちになってしまう。
メインキャラクターであるアイルやユーク、レオンのように強くなることができない。
「でも、コレットだってゲームの中ではモブキャラなんだよ? あんなに強いのに!」
「彼女は獣人の血が混ざっているだろう。その上、幼い頃より暗殺術を叩きこまれて育っている」
「うー。これがモブ格差……!」
種族と生まれ表の差で、ステータスが変わって来るってやつですね。
私もレオンと同様に頭を抱えた。
このままでは困る。
アイル様のそばにいられなければ、バッドエンドの運命を変えることができない……! ここは何としてでも、石にかじりついてでも、一行のお供に加えてもらわなければ!
「こうなればやるしかないようね……」
「何をだ?」
「自己アピールよ! これはつまり、勇者パーティー加入のための試験なの! 私、絶対に面接官たちを納得させて、勇者パーティーに内定してみせるから!」
「……お前が何を言っているか、わからない」
と、そんなこんなで、早くも立ち塞がった壁――『このままでは勇者一行に同行させてもらえないかも?』をクリアするべく、私はレオンと策を練り直すのだった。




