~序章~ 推しに推されてます(表紙あり)
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イラスト:朱坂ノクチルカ 様
◇ ◇ ◇
「ルイーゼ」
あの時の私に、想像ができただろうか。
コントローラーを握りながら陶酔していた私に。
ゲーム画面に表示される“彼“の一挙手一投足に、目を輝かせていた私に。
二次元上にしか存在しなかったはずの、私の大切な人。
――すなわち、推しキャラ。
彼が実在するなんて。
テレビ越しにうっとりと聞き惚れていたその声で、私の名前を呼んでくれるなんて。
至近距離から目を合わせて、私の体温はどんどんと上昇していく。今にも沸騰して倒れそうだ。
興奮と尊さの極致の中で。
目の前の『推し』がふんわりとほほ笑み、私の手をとった。
その体温を感じて、「これは夢でも幻でもないんだ」ということを私は実感する。
推しが実在しているのだ。
私が前世で熱を上げていたゲームキャラクターの1人。
レグシール王国第三王子のアイル・レグシール様が。
今、私の前でほほ笑んで、私の手をとってくれている。
ドキドキが激しくなりすぎて、今にも心臓が破裂しそうだ。
――我がオタク人生に、一片の悔いなしッ!!
と、号泣しながら敬礼でもしたいほどの心境だった。
それだけでも私は死にそうになっているのに、
「ルイーゼ。僕の『推し』は君だ」
アイルは気恥ずかしそうな表情で続ける。
その発言内容に、私は気が遠くなりそうになった。
信じられない台詞だ。
アイル様が「推し」という言葉を使った。
しかも、その相手が私……!?
幸福感がじわじわと全身に伝達していく。頭の中がふわふわと浮ついて、私はきっとしまりのない表情を返してしまったことだろう。
まさか、推しに推される日が来ようとは……!
こんな状況になるなんて。
少し前の私は想像もしていなかった。
数か月前。
私はあることがきっかけで前世の記憶をとり戻した。自分がオタク女子高生からルイーゼ・キャディとして転生したことに気付いたのだ。
アイルの、推しの、侍女として。
それがすべての始まりだった。
これは私が推しキャラ――アイル・レグシール様の命を救うために、自分のすべてをかけて奔走する物語。