表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第二話 少女の気まぐれ 観光協会―街の酒場

「観光案内を依頼したいの」


 彼女は、イノス君とアレレ君を指名するわ。と微笑んだ。

 気がつけば彼女の後方に、アレルが縮こまって彼女の荷物を持っている。

「アレル!あの二人は、マディソン母娘は―」

「代理の職員が、無事に済ませた。問題はない。それよりも、それよりも、それよりも……」

 アレルがぶつぶつと呟くのは似合わないな。それよりも?

「代金は、その分厚い請求書の肩代わりでいいかしら。ちょうどこの島の誇る至宝や文化財を、緩衝区のビルディングで展示していたらしくてね?」

 ひぃっ!と、アレルは身を屈める。

「あなたたちの給料では、次の次のミレニアムまでかかるわね。さあ?」

 アレルはガタガタと、支払いだけではない、何かとても恐ろしいモノに震えていた。

 赤を含む茶髪。サイドテールにまとめ、化粧気は大してないのに美しい。

 だが、彼女のサングラスの下にある、燃える様な三白眼が美少女という評価を台無しにしていた。

「名前を言ってなかったわね。私はヒオベリカ・オルコウジ」

「オルコウジ?日本語?ですか?」

「父が日系人なの。あなたは?」

 アレルはまだ縮こまって震えていた。僕は真っ直ぐに、彼女に向き直って、

「イノス・シルバです。よい旅を、約束します」


 小切手でいいかしら?彼女は、オルコウジさんは途方もない額の小切手を切って、カノアさんに手渡した。

「どうせ、父が脱税で得た金よ」

 そう気安くいうが、僕らではミレニアムが2、3回きても稼げない額だ。

 まだ震えているアレルが僕をつついて、

「俺たちの次の仕事は彼女の案内だが、なあ。これから!彼女が!この島を!出るまで!彼女の気が済むまで!彼女の下僕としてっ!一切の落ち度なくっ!従わねばならんらしい!」

「従わなければ―。どうなるの?」

「それは」

「考えないほうがいいですわ」小切手を書き終えた彼女は微笑んでいるが、目は笑っていないようで、

「よい旅を、期待していますわ。イノス・シルバ君?」

 サングラスの下は、三白眼が燃えているのだろう。


 観光協会を出ると、ポリネシアの夕陽はもうとっぷりと沈み、島の中央を走る三日月の丘の向こうへいこうとしていた。

「オルコウジさん。急な話で、僕らは何も知らされておりません。宿泊先や、今後の予定を教えてください」アレルが尋ねる。

「何も決めていないわ。宿泊先も、今夜の食事も」

「それは―」僕とアレルは横目を合わせた。

「あなたたちは普段、どこで食べてるの?」

「え?」僕が戸惑い、

「この島はポリネシアとはいえ、白人との混血が進んでおり、観光地としての整備も進んでいます」アレルは応える。

「ここからは遠くなりますが南岸のビーチには、フレンチから中華、寿司まで」

「そうじゃないわ。観光地としてでなく、あなたたちの食べ物が食べたいの」

「失礼しました。ならば―」

 酒場ですが、洒落ていて、旨いパスタを出す店があります。そちらで夕食としましょう。


 島の東部は行政や都市機能の中心で、その洒落た店は観光客でなく、仕事帰りの人々で適度に混んでいた。アレルは近辺のホテルに電話していていなかった。この店は常連の労働者ばかりで、観光客を狙う悪党もいないだろう。

 彼女は僕を引き留め、相席を命じ、パスタが来るまでしばらく僕を見ていた。

「骨格は固い、太いものがある、筋肉も鍛えてある……」

「え?」

「一見小さいが、体がでかくなれば、並外れたりょ力を手にいれる……」

 そういや、いくつ?

「あ、あの?」

「邪魔するぞい」

 すえた臭いの老人が、真っ直ぐにカウンター席を陣取った。バーテンダーは露骨に顔をしかめた。僕もアレルのミスと不注意、僕らの不運に顔をしかめる。

 老人は一番安い酒を頼み、ちびりちびりとやりだした。

 オルコウジさんに、なんなの、あの人?と聞かれた。ひそひそと返す。

「あの人は酒場にきては一番安い酒で粘って、騒ぎを起こす酔客と殴り合う、鼻つまみもので」あまり関わらないべき人です。

 ふーん。と彼女は老人を眺め、

「身体、ただの喧嘩屋でなく、適切に鍛えてある。筋肉量は減っていない。加齢はしても、多分腹筋は割れていて……ポリネシアンの、頑強な骨格は衰えてない」

「あの?」

「人種で言えば、ポリネシアンはもっとも屈強で、頑強で―」

 彼女は席を立ち、

「なあ、おっさん」と声をかけた。

「えー!」

「なんじゃい」

 すえた臭いの老人は、声をかけてきた少女を眺め、次に僕を見止めた。

「ほう、あの子か」

「……?…??」

「喧嘩、買ってるんだろ?」

 私の連れと戦わないか?

「えー!」僕はまた驚いた。

 表に出ようか―。

 老人はそういうが、僕が戸惑うとオルコウジさんは、

「お前が来ないなら、私がやるぞ?私が傷ついてもいいのか?」

 小さな騎士さん?と呼び、さらに僕を戸惑わせる。

「どちらでもこい。二人がかりでも構わん」

「ポリネシアンの屈強さ、見せてもらう」

「強いのならば、わしは加減などしらんぞ」

「女は屈強、女は烈強、女は最強なり」

「加減などいらんと」

「介護は要らないのね」

 老人を倒す訳にはいかない。オルコウジさんはもう止まらない。

 ならば。

 ギャラリーが集まり、オルコウジさんから動いた―。チャンスは一度!

 オルコウジさんの上段蹴りから、老人を庇い、僕は予想外の威力に崩れ落ちる。

 かっはっはっ!と笑う笑い声と、オルコウジさんのことを思いながら、僕は倒れた。


 島の救急車のサイレンが聞こえてきた―。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ