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探索者 オムライス

「召喚した貴方は私の眷属として、何か力を与えましょう。何がよろしいですか?」


「奴隷作成!」


 イザベラは召喚した相手を若干ながらに後悔した。


 彼女の選択肢としては、女神クロエに頼み、彼女の眷属が率いる『管理者』の誰かを貸してもらうか、自らが召喚するかの2択があった。


 管理者を貸してもらえれば比較的にマシな部類、最近だと神の座に加わったソフィアの世界にいる『守護者』辺りが妥当だろうか。


 だが、その場合だと、色々と面倒な制約が生まれる為に、自分が召喚した方が波長が合い、調整も効きやすいというメリットもあって彼女は自分が召喚する事を選んだ。


 しかし、彼女は外れを引いた。


 世界を救う者になってほしいというのに、奴隷作成など持ってのほか、とはいえヘソを曲げられても困るので、人間以外と条件をつける。


「ねえねえ! 武器や防具はないの?」


「ありますよ。こちらです」


 勇者に必須なアマツ作成の『誰でも勇者セット』を与える。

 かなり程度の低い武具だが現在、アマツは謹慎中の為、これを手に入れるにも彼女は苦労した。


「えーなんかしょぼくね〜?」


 いかにもヤダだと言いたげな勇者君にイザベラは久しぶりに怒りという感情を得たが、深呼吸をして、笑顔で続ける。


「これしょぼいからさ、なんか他にちょうだいよ」


「勇者よ。貴方は授かるのではなく、与える側です。甘えていては、勇者として………」


「あ、お説教とかいいからさ、早く頂戴よ」


 イザベラは頭を掌で支えながら、自分の祈りの証『権能』を起動させる。


 彼女を構成するのは『新たな挑戦の成功』故に手に入れた力は『やる事全てが成功する力』


 ローラには『新たな事に挑戦した際に経験値増加、振分』を与えた。ならば彼に与えるのは『強者に挑む際にステータス向上』でいいだろう。


「でしたら、貴方には『強者と対峙した際に挑み続ける限り、ステータス向上する力』を与えましょう」


「うーん、まあそれで我慢してあげるよ」


 イザベラは無性にローラに会いたくなった。彼女は自分がこの世界を治めた時からの付き合いだ。

 気心しれている上に、目上の態度もしっかりしている。


 女神相手に上から目線である彼とは大違いだ。


「そろそろ勇者様、貴方とお別れの時間です。召喚した先には貴方の先輩にあたる私の眷属がいますので彼女の世話になるように」


「ういーっす、任せてよ。こんだけチート能力あれば余裕余裕!」


(ローラの真の力以下なんですけどね、アンノウンと同化した『守護者』の足元にも及びませんが)


 とはいえ、そんな情報を与えるわけもなく、イザベラは彼を見送った。


 それが運命の分岐点だという事を彼女は知らずに。



 *



「まずは友哉が女神クロエから受けた依頼の内容からか」


「待て、イザベラ様は最期に依頼を出したって聞いたがそれはいつの話なんだ?」


「イザベラがテンラの"おもちゃ"になった頃だ。真世界について、早々に女神クロエに依頼が来た」


 女神クロエ、この真世界を治める女神であり、友哉とは深い仲のようで、女神クロエから様々な依頼を受けては友哉達が解決するという関係らしい。


「イザベラは自分が力を与えた存在が真世界を支配するかもしれないと気づいちゃったんだ。だから最後の理性を振り絞って、保険として、テンラを殺す為の管理者の派遣を頼んだ」


「だがお前たちが来る前に、私がこちらに流れ着いたと」


「原因は恐らくはレオがいたからだな。その剣を作った主神の眷属との繋がりを辿った結果、ここに流れ着いたってとこ」


 そうか、私は最後までイザベラ様とアマツ様が作った剣に救われていたんだな。


「奴らが太陽剣を狙うのは、その剣に蓄えられた膨大な熱を持って、世界を更地にするつもりだからだ。そこから彼が選んだ奴だけで世界を構築するらしい」


「ふざけているのか……それで何人が死ぬと…!」


「だから、イザベラ様はお前の正体と依頼について、最後まで黙っていて欲しかったらしい。けれど知りたいと本気で望むなら話して欲しいとな」


「………そうか」


「イザベラはお前には幸せでいて欲しかったんだ」


 今更になって気づいた。イザベラ様は自らが招いた不始末を私に背負わせたくなかったんだ。

 私がそれを聞けばテンラに立ち向かうことになると知っていて。


「なあ、イザベラ様は………」


「レオから最期の伝言だ、『貴方は貴方の人生を歩みなさい』だとさ」


「そうか。やっぱり、彼女はもう………」


 薄々感づいてはいた。

 私を遠ざけた彼女はきっと私の知らないところで亡くなっているのだろうと。


「それでお前の正体についてだが、本当に聞くのか?」


 シルバは随分と短くなった煙草を灰皿に落としながら、新たな煙草を取り出し、火を灯す。


「俺は別に構わないが………」


 シルバが見るのは私の剣。

 それを見ながら、彼は本心を確かめるように。


「ーーいや、それはいい」


 だから、私は断った。


「その答えは他人から聞いていいものじゃない気がするからだ」


 自らの正体なんて、誰もが探し続けるものだ。

 それを誰かに教えてもらうなど、ずるいにも程がある。


「私は私だ。ゆっくり知っていく事にするよ」


「ーーそうか」


 落ち着くように煙草を吸って、彼は笑った。




 *




「確か、ここな筈だが………」


 シルバとの話し合いを終えた翌日、私はある人物と落ち合う為にある学舎を訪れていた。


『話を聞いた以上はちょいと協力してもらうよん。明日の夕方、ローラちゃんはこの住所を訪れてね』


「本当にこの場所に、奴を倒す為の人がいるのか?」


 シルバ曰く、今から会うのはテンラを倒す為の舞台を整えるのに必要な人材らしい。


 学舎近くの自販機で、ココアを飲みながら待っていると此方を見て、歩き寄る13から15くらいの年の少女がいた。


 朝焼け色の紫紺に染まった髪をツーサイドアップで、何事も冷めたような目が此方を見つめている。


「初めまして、私は真宵と呼ばれています。今回は誰の依頼で来たんですか?」


「あ、ああシルバからなんだが………」


「分かりました。もう準備は出来ています。ですが」


 突如、無機質な声音の彼女には相応しくないほどの音が彼女のお腹から鳴る。


「お腹が減りましたのでご飯を所望します。依頼料、前払いとして何か奢って下さい」


「な、中々強かな女の子だな」


「私、自分に素直なので」


 最後の管理者『探索者』は想像以上に厄介そうだった。




 *




「ご飯を奢って下さいとは言いましたが、何故ここなんですか?」


「仕方ないだろ! 私が指定された飯が美味い店を知っているとでも!?」


「その言い分も最もですが、私に聞くという手段もあったのではないですか?」


「うぐぐ………」


「ははっ、一本取られたな、ローラ! それで何だっけ? 真宵は何が食べたいんだ?」


 結局のところ、彼女が言った料理が分からなかったのでユウヤの店に連れてきたのだ。

 彼だったら、きっと作ってくれるだろうと信じて。


「たんぽぽオムライスです。あのふわとろが食べたいのです」


「OK、すぐに作ってやるよ。代金は今回の依頼料から引いとくからな」


「………だから来るの嫌だったんですよ。毎回毎回、そうやって用事押し付けたり、給金を引くから」


 それはいただけないな。いくら管理者とはいえ、子供に対して大人がせこい真似をするのは、ここは私がガツンと、


「じゃあ、遺跡探索やトレジャーハントしてる間の代わりに学校に通わせてる人形の使用代」


「うぐっ!」


「その冒険や探索の為にかかる費用、ざっと国家予算分」


「ぬぐう!」


「極め付けに、お前の仲間達を済ませる為の準備費を今すぐ払えるなら………」


「何でもないです。今後もよろしくお願いします」


 私は立ちかけた腰を下ろして、目を逸らしながら水を飲む。

 ユウヤはそんな私を見て、愉快げに笑いながら鍋を振る。


「あー、因みに今出てきた仲間っていうのはもしや私と同じ異世界人なのか?」


 話を誤魔化すように、真宵に話を振れば、彼女は出されていたオレンジジュースをストローで吸い上げながら、


「いえ、異星人です」


 頓珍漢な事を言ってのけた。


「………いせいじん?」


「簡単に言うと、宇宙に見える星のどれかに住む人種のことです。分かりやすく言うと、宇宙人という奴です」


 全く分からん。そもそも星に人が住めるのか?

 いや、真世界では常識なのかもしれん。


「私は所轄偵察隊という奴でして。私達が住んでいた星から生命が消えかけたので新天地を探索していたのです」


「それで探索の結果、ここにたどり着いたと」


「はい。条件にあったのがこの星なのです。そこで私は管理者として働くかわりに人が居なさそうな遺跡などを住処にする為に日々、探索しているのです」


「こいつの力はその環境を作る『地下迷宮(ノンステップ・メイズ)』地下においてのみ、広大な亜空間を設定。内部を様々な条件でいじくりまわせる能力だ」


「拠点作成、防衛には持ってこいです。サバトの奴も現在はそこにいますから」


「昨日辺りに藍からも連絡あったしな。無事姫様になり変われたらしい。今は偽物と知らずに胸を赤ん坊みたいに吸ってるってよ」


 なるほど、シルバの思惑が見えてきた。真宵の能力で奴が逃げ出すことのできない地下空間に閉じ込めて、シルバが対峙するのか。


「うん、つまり今回の件はシルバが主導なのか? ユウヤではなく?」


「俺は管理者の統括であってリーダーじゃない。リーダーは基本的にはシルバに任せてる」


「あんなチャランポランですが、元軍人として隊長を務めた事なだけあって、率いる力はありますからね」


 ただ者ではないと思っていたが、元軍人なのか。あの身のこなしからして、やはり管理者の中でもただならぬ強さを持つのか。


「よし出来た。さあ、食え」


 どうやら話に夢中になっている間に料理が完成したらしい。

 私と真宵の前に大きめの皿が置かれる。


「待たせすぎですよ、全く」


「それでは私も頂くとしよう」


 鮮やかな夕焼け色に染められたご飯の上に、滑らかな黄色の卵が半月形で乗っている。

 マヨイがそれをゆっくり切り開いていくので、私も同じように切り開く。


「まるで花が咲いたようだ!」


 柔らかく沈み込む黄金色がご飯を包み込み、まさに皿の上で一種の芸術が完成する。

 そして、ゆっくりとスプーンで掬い、口に運ぶ。


「美味い!」


 柔らかな卵はあっさりと切れ、甘酸っぱい風味のご飯と相性が抜群で。


 しかも、中の材料もまた豪華だ。


 塩漬けの鳥の肉は塩気を含んだ肉汁を、茸は豊富な旨みをたっぷりと帯びている。

 緑の粒の野菜は僅かな苦味を思わせ、柔らかくなった玉ねぎの甘さが心地いい。


 細かく刻まれ、炒められた事で野菜は甘みを帯び、バターの風味漂う卵との旨さが相乗効果で上がっていくではないか。


「あれ? ローラさん。ケチャップ使わないんですか?」


「ケチャップ?」


 口周りを赤くべたべたにした彼女が差し出したのはフライドポテトとかでソースに使う赤い粘体。


 これの旨さは知っているが、果たして卵の自然な甘さと合うのだろうか?


 恐る恐る黄色の上に赤で彩り、口に運べば


「う〜ん!」


 口の中で広がるケチャップの酸味が卵と絡み合い、更に私の食事の速度を上げていく。


「地球の料理って美味しいですから、ハマるのも分かる気がするのです」


「SNSじゃあメシ顔の女騎士、で話題になってるからなぁ」


「何か言ったか?」


「「いや、何も」」


 もしゃもしゃと口を動かす私に2人は生温かい目で見つめるだけだった。


「ご馳走さまでした!」


「いい食べっぷりでしたね、ローラさん」


「ああ! この世界に来てから食事が楽しみになったよ。私の世界とは比べものにならないくらいにな」


 水を飲んで口の中の余韻を楽しんでいると、口周りを拭きながら、申し訳なさげにマヨイは言う。


「……つかぬ事をお聞きしますが、何故貴方の世界はテンラに支配されたんです? 藍に勝ったくらいなら、負けるはずがないと私は推測するのですが」


 その言葉に胸が詰まり、私の記憶回路が焼き付いた惨状を引きずり上げる。


「………辛いなら無理しなくていいぞ」


「いや、話すさ。世話になったんだ、いつかは話さなきゃいけない事だった」


 私は痛みと共に思い出す。


 この物語の始まりを。




 *




「新しい勇者様を召喚することにしたの」


「は、はぁ」


 ある日、イザベラ様は私の夢の中でそう伝えた。


 私達の世界では日々、魔族との戦争が絶えず、イザベラ様は戦争を終わらせる為の勇者を召喚しようと試みた。


「管理者の誰かを呼んでもいいのだけど、できたらこの世界を率いる存在として永住してほしいのよね。管理者は終わったら、帰ることがあるみたいだから」


「まあ、イザベラ様のお好きなように。世話は私が行いますので」


「ありがとう、助かるわ。よろしくね」


 その結果、召喚されたのが


「そうか、これが異世界転移………と言うことはこれから俺にもチートな性能がもらえて、聖剣とかでがんがん戦って、綺麗な女性が俺に群がってくるばら色の人生が待っているんだ」


「何を夢を見ているんだ、お前は」


 どうにも現実を見ていない男だった。


 イザベラ様が言うように身体能力と魔力は私レベルに引き上げられているものの、剣を振るった経験がないのは見て分かった。


 聖剣は私と同じアマツ様が作成したものを渡されているとはいえ、並大抵の騎士すら技術には遠く及ばないのだ。


「だけど、メインヒロインみたいな属性持ちの騎士団長とはフラグが立たないし、やる気でないわ〜」


「お前は世界を救うという行為を舐めているのか! そもそもなんでイザベラ様は私を頼りにしてくれないのだ! こんな男より、私の方が遥かに役に立っているというのに」


 だというのに、魔族討伐数は私に並ぶ。いや、団長として指揮に回る事を踏まえれば討伐は私を超えているかもしれない。


 私は気に入らないが、イザベラ様の切り札の存在だというならば心を殺して世話をするしかないだろうと、


「うおーっ! 目覚めろ! 俺のチート能力!」


 その時の私は思っていた。




 *




「あ、ローラ。悪いんだけど、俺の分の始末書と請求書、処理しといてくんない? 今からちょっと出てくるからさ」


「ふざけるなあっ! 毎回毎回! 貴様、私を何だと! 立場と礼儀を考えろ!


「おいおい、そんな事やっちゃダメでしょ? なんせ、俺はルミネの婚約者だよ?」


「ーーッ!」


 数ヶ月が経った。


 姫様を救う為に魔族の将軍を討ち取った私には僅かな給金が渡され、姫様の手を取っただけのテンラは次期国王になる事が決定した。


 例えばそれが正当な功績。1人で乗り込み、魔族の将軍を討ち取り、姫様を救い出したならばそれは英雄だ、私も讃える。


 だが私が率いる女騎士団が乗り込み、数々の犠牲を払って、私達が将軍を討ち取った後に、ようやく現れたテンラが姫様の手を取っただけだ。


 それを私は納得しない、自らの正当性の為ではなく、


『彼女は、婚約者は! 何で死んだんだ!』


『ママをかえしてよおっ!』


 大切な人を失った者たちの安寧の為にだ。


 ルミネが恋に溺れ、テンラが次期国王にになってから、この国はゆっくり、ゆっくりと破滅に向かって進んでいる。


 元々決まっていた婚約が破断したことにより、ヨトゥンヘイムの支援は打ち切られ、平民達が毎日の食事に困窮するまでに。


 ひとつの国が過大な戦力を持った事で足並みが揃わなくなり、防衛境界は崩壊し、魔族の侵攻は進んでいる。


 イザベラ様とも連絡が取れなくなった。

 代わりにテンラが信仰されるようになった。


「いつからこの国はこんなにおかしくなった!」


 私達の騎士団もテンラの女達に場所を追われ、今では改築前の馬小屋を作戦場に使っているのだ。


 こんな最底辺の場所では、腐っていく国の腫瘍を切除することもできない。


 けれど破滅へ向かう国を放って置くこともできない。だから、私は覚悟を決めた。


「行くぞーー私達の国のあるべき姿を!」


 自らが泥を被り、国の改革を進める為、


「これは、革命だ」


 私は信じられる仲間と王宮へと足を進めていく。


 その数時間後、




 私は全裸で妖艶に街中を躍り狂っていた。

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