後編
――2019年 9月1日 15時43分 渋谷――
スクランブル交差点
溢れる人
ニュースの流れている大型ビジョン
いつもの日常
その筈だった――
『続いてのニュースです。現在、国会で――が――あ――・・・』
大型ビジョンにノイズが混ざり始め、映像も途切れ途切れになっていく。
「お、何だ?」
「電波悪いのかな?」
「でもそんな感じじゃなくないか?」
通行人は足を止め、映像に目を向けていく。
そして、ほぼ全員の目が大型ビジョンに向けられた時、映像はニュースではなく、別のものに切り替わった。
『皆さんこんにちは。突然の電波ジャック、申し訳ありません。
私は闇会社”死援” 代表取締役社長の死神と申します。以後、お見知り置きを・・・』
そこに映っていたのは、漆黒のタキシードに白い皮手袋をはめ、髑髏の仮面を被った人物だった。
「電波ジャック?」
「てか闇会社”死援”って・・・」
「マジであったのアレ?」
死神と名乗ったその人物が言った闇会社”死援”。
それが話題となったのは、今から1ヶ月ほど前のことだ。
ある日ネットサーフィンをしていたユーザーが偶然見つけたサイト。
闇会社死援ホームページ
そのサイトにはこう書かれていた。
______________________________
世の中は腐っている。
だからこんな世界に絶望するのも当たり前。
死にたいと思うのも当たり前。
そんなあなたが、きっと満足できる”死”を、我々は支援いたします。
ご利用の方は当サイトからメールでご連絡ください。
闇会社「死援」 代表取締役社長 死神
_______________________________
何とも怪しいサイトだが、これが気になったユーザーがSNSに投稿し、広く知れ渡った。
ネット民の反応はイタズラだという見方が強く、一過性の話題で終わった筈だった。
『この度、初のご依頼を受けまして、利用者の方の要望に沿った死を支援するためにこの場所をお借りしたいと思います。皆様、横断歩道の外側までお下がりください』
通行人は訳がわからない。
だが、何かを感じたのか全員言われた通りに外側に下がっていく。
『今回お客様が要望された死は”伝説”、”無痛”、”多くの人に見守られる”の3つでした。
というわけで皆様、大きな拍手でお客様をお迎えください!』
そういって死神は拍手をし始めた。
最初は見ていただけの観客も、誰か一人が拍手を始めると、つられてみんな拍手をし始めた。
そして、数秒たった時かーー
『皆様、お客様の登場です!』
その言葉から、僅か数秒後ーー
グシャッ
上から何かが降ってきた。
地面に激突すると、赤い液体を撒き散らし破裂したそれは、原形をとどめることなくバラバラになった。
すぐに理解したのだ。
それが死神の言うーーお客様だと
きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
う、オエェェェェ・・・・
警察、警察呼べぇあぁぁぁああああ!!!
何なのこれ!?
はっはっはははははは!!!!!
何だこれすげぇぇぇぇえぇぇええ!!!!
みんな落ち着いて!
人形じゃないの?
死神ってマジなの?
死神様ァァァァああああああっああぁぁぁぁあっああっっっ!!!
渋谷の街は様々な反応にわかれた
恐怖に泣き叫ぶ者
混乱に陥る者
疑念を抱く者
そしてーー死神を讃える者
『この度お客様の要望に沿ったプラン、”成層圏からの転落死”による”即死”を”数百人に見てもらう”という死を提供させていただきました。
興味を持たれた方は是非、我が社の”死援”をご利用ください! ご依頼は当会社ホームページからお願いします。それでは、私はこれで・・・』
大型ビジョンから死神は消え、またいつもの映像へと戻る。
その後、警察が到着し、その場は一時封鎖となった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
・
連日ニュースとなったその事件は、すべての国民に衝撃を与えた。
キャスターが、解説者が、全国民が、それぞれに死神を批判した。
だが、不思議とそのサイトは削除されなかった。
いや、これは正確な言い方ではない。
正確には何度も削除されているのだ。
何度も削除されては、何度も復活しているのだ。
そしてその内、皆が諦め、サイトの削除をやめていってしまった。
あー、それともう一つ正確に言っていないことがあった。
全国民が死神を批判したと言ったが、全てではない。
いるのだ。
死神を支持する一部の国民が・・・。
***
「・・・」
ブラインドが閉じているビルの一室。
髑髏の仮面を布で拭くタキシードの男が一人、椅子に座っている。
コンコン
寛いでいると、部屋のドアがノックされる。
「おっと、今日はお客様が来る予定でしたね!」
髑髏の仮面を被り、その男ーー死神はドアを開ける。
「ようこそおいで下さいましたお客様!」
現れたのは、8人の女子高生。
「あの・・・私たち、みんなで死にたいんです・・・」
先頭にいた女子高生が言う。
それを聴いた死神は、仮面の下で静かに微笑う。
「えぇ、メールでも確認しましたよ。
ではまず、ご要望の方からお伺いいたします」
死神は止まらない
「私たちの願いとしては・・・ーー」
これから始まるのだ
「わかりました。
ではこれより・・・最高の死をプロデュースさせていただきます」
闇会社「死援」による、死の支援はーー
俺も一度本気で自殺を考えたものだけど、死にたくなるほど辛いのを我慢したら、ちょっとのことでは辛くならなくなったよ。
生きてみるのもまた一興ですぜ?