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サキュ俺⑧ お色気作戦?

「アレンさん!?」


 焦り切った声のアイギス。魔術攻撃の弾幕はいったん止んだ。恐らく敵も攻撃のし過ぎで魔力切れを起こしたのだろう。


「大丈夫ですか!? すぐに回復をしますから!」


 大きな胸を揺らして俺に駆け寄って来るアイギス。だが俺はそれを手で制する。


「大丈夫だ。電撃を食らって感覚が一瞬なくなっただけだ。たいしたダメージはない」

「ですが……!?」

「いいんだ。俺よりも他のやつらのことを見てやってくれ。おいあんた! あっちの魔導士を叩くぞ!」


 俺は近くにいた仲間の剣士に声をかけ、突撃の算段を練り始める。

 一方アイギスは、最初こそ俺の大丈夫という言葉に対して懐疑的なようだったが、俺が本当に問題なく短刀を握れているのを確認すると、俺が本当に大丈夫であることを理解したようであった。


「無理はしないでくださいね……」

「分かってる」


 短く返し、俺は剣士と共に敵魔導士へと向かって行ったのだった。



「えっと、お疲れ様、です……」

「どうした? 狐につままれたような顔して」

「いえ、自信があるようだったのでどれほどの実力なのかと思っていたのですが、まさかこれほどとは……」


 アイギスは広場を見渡す。彼女の視線には、意識を失い防具や衣服をことごとく破壊された魔術師たちの姿が溢れていることだろう。

 倒れた魔術師たちは、役場の回復魔術師たちが回復に当たっていた。これだけ人数が多いと、全員を治すのは一苦労だろうな。


「ところでアイギス」

「……え? な、なんでしょうか?」

「予想通り回復の方は申し分なかった。魔力生成も思った以上に早いし十分戦えていたと思うぞ」

「そ、そうですか、あ、ありがとうございます……」


 若干顔を赤らめるアイギス。こういう反応は実に年相応の様な気がするな。


「この模擬戦で俺もある程度は感覚を取り戻した。これならやつらとも十分戦えるだろうよ」

「ですが、実戦では相手の人数はこの比ではありませんし、魔王軍はもっと強いと思います。あなたの力は分かりましたが、やはりこの人数では心もとないのではないかと……」


 尚も心配そうなアイギス。


「大丈夫だ。実戦経験が乏しくて不安なんだろうが、お前が思っている以上にお前の魔術の実力は高い。胸を張っていけ」


 俺はそう言ってアイギスの背中を軽く叩いた。アイギスはまだ不安そうな表情のままだったが、俺の言葉になんとか頷き返したのであった。



 2日後、俺たちは役場より派遣された剣士、銃使い、格闘家、魔導士2人を引き連れて魔王軍のいる砦へと向かっていた。

 町長からは模擬戦を行ったばかりなのだから、もう少し休んでからの方がいいのではとも言われたが、せっかく実戦感覚を取り戻したわけだし、アイギスたちも特に疲れは蓄積していないとのことだったので、俺たちは早々に砦を攻めることに決めた。


 役場を出る前、俺は皆に作戦概要を話して聞かせた。


「アイギス、今回の作戦ではお前の果たす役割が非常に重要になってくるからな」

「え? 私が、ですか……?」


 詳細を聞かせると、アイギスは一瞬表情を引きつらせた。だがいくら嫌でもそれが実際有効であることは彼女自身も分かっていることだったので、渋々彼女は俺の言葉に従った。


 先日俺がいきなり街の衆に襲われたバリケードを今度は仲間6人と連れ立って登る。これだけ大人数で行動するのは勇者パーティ以来だ。ここから先は、今は完全にエルフの領域だ。ここまで来たらもう後戻りはできない。


「アイギス、大丈夫か?」

「こ、これしき、なんともないです」


 緊張した面持ちのアイギスを励まそうとしたが、彼女は俺に情けない姿を見せたくないのか、すぐに表情を引き締め、力強く歩みを進めた。


 徐々に白っぽい色をしたレンガ造りと思われる砦の姿が視界にちらつき始める。遠目からでも、それが立派な建造物であることがよく分かった。恐らく、この地に昔からある由緒正しき建物なんだろう。


 砦は四方をぐるりと堀で囲まれており、砦の正面と陸地を一本の橋がつないでいた。そして橋の付近には数名のエルフが見張りとして目を光らせていたのである。

 すると、そこに突然一人の女が現れた。女はベールを目深に被り、エルフたちからはその表情を伺い知ることはできない。怪訝な表情を浮かべるエルフたち。その中の一人が女に向かってこう言った。


「止まれ! こんなところに何の用だ?」


 女が立ち止まる。見ると、門番には全部で5人のエルフがおり、その内の4人は男で、女は一人だけであった。


「この砦の代表の方に用があるのです。代表の方に会わせてください」


 女は可愛らしい声で門番のエルフに頭を下げる。ベールは相変わらず彼女の顔を覆い隠したままだ。


「用件はなんだ? 事前のアポは?」

「すみません、急用だったのでアポは取っておりません。用件は代表の方に直接お伝えしたいのですが」


 女の言葉にエルフたちは眉をひそめる。すると一人の男が言った。


「用件云々の前にまずそのベールを外して顔を見せろ! 失礼であろう!」

「……分かりました」


 男の言葉を受け、女がベールに手を伸ばす。そしてエルフたちが見つめる中、女はついにベールを外した。


 ベールの下は美しさと色っぽさを醸し出しながらも、同時にまだあどけなさも残す少女の顔であった。そして頭には角が二本生えている。それは言わずもがなアイギス・アッシュベリーその人であった。頑なに人前では簡単に素顔を晒さない彼女が堂々と素顔を晒すということは、無論この作戦の為の行動であった。


「さあ、狂え……」


 俺は状況を伺いながら呪いの言葉を口にする。そしてついに、辺りは俺たちの想定通りの事態となっていった。

 男たちはアイギスを見たまま固まっている。

 そして彼らの呼吸が次第に荒くなる。


「あの、皆さん大丈夫ですか?」


 すると、アイギスはダメを押すべく、エルフたちに敢えて接近を試みたのだ。非常に危険ではあるが、彼女の香りをより嗅がせる為にはそれは有効な手段であった。

 そしてついに、その時がやって来たのだ。


「う、う……」

「ん? どうかしましたか?」


 呻くエルフに対し、アイギスは事情を分かっているくせに更に近く。普段は抑制している彼女も、あまりにも簡単に男たちがテンプテーションにかかるのが楽しくなって来てしまっているようにも思えた。


「大丈夫ですか? どこか痛むようでしたら、私の回復魔術で……」


 そう言いながら、わざとらしくスカートとニーハイの間のその艶かしい太ももを見せつけるアイギス。ここまでの誘惑に、今のエルフたちが耐えられるわけもなかった。


「う、うわあああ!」

「や、ヤらせろおお!」


 ついに完全に狂い出すエルフの男たち。


「何をしているんですか!?」


 一方、仲間の女エルフは状況が飲み込めず困惑してしまっている。


「だ、誰か来てください!」


 彼女はこちらの望み通り仲間を呼ぶ。

 アイギスに襲いかかる男たち。アイギスは瞬時に防御壁を展開する。そして男たちはそれに見事に正面衝突してしまった。


「何事か!?」


 続々と集まるエルフたち。だがアイギスのテンプテーションは持続しているのだ。案の定、駆けつけたエルフたちも次から次へとアイギスに魅了されていってしまったのだった。

アイギスのテンプテーションが炸裂!

次回、魔王軍との初戦開幕!

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