サキュ俺⑦ 模擬戦!
模擬戦です(魔術講座も兼ねる)
この世界の「魔術」には二つの行程がある。一つが「魔力生成」、もう一つが「魔術変換」だ。「魔術」を使う素となるものが「魔力」だ。考え方としては、ランプを点灯するには油が必要なのと同じと考えていい。魔術師は魔力がなければその能力をほとんど生かすことができないのである。
魔術の2つの工程の内の一つである「魔力生成」とは、魔術の元となる魔力の結晶体である「魔力石」を生成する能力、そしてもう一方の「魔術変換」は、取り込んだ魔力を魔術に効率よく変換する能力だ。魔力は空気中に漂っているが、結晶化させなけれは身体に取り込むことは不可能なのだ。
また魔術には、炎、水、電気、風、氷の5つの属性がある。属性技を使う魔術師は主に「魔導士」と呼ばれ、戦闘においては主に中盤や後方から遠距離攻撃を仕掛けることが多い。ちなみに俺は属性技はほとんど使わない。属性技が苦手だからというのが理由の一つではあるが、単純に直接相手を殴りに行く方が性に合っているというのが一番な理由ではある。
「アレンさん! 魔力石を受け取ってください!」
「おう」
俺はアイギスが「生成」し「転送」してくれた碧く光る魔力石を受け取る。そしてそれを手で砕くと、砕けた碧い光が俺の中に取り込まれていった。
瞬間、俺の身体に魔力が溢れるのが感じられた。俺はすぐさま体内の魔力を魔術に変換する。……とここでまた余談だが、俺の様な攻撃専門の魔術師にとって、この「魔術変換」の能力の高さがそのまま魔術の能力の高さに直結すると言っても過言ではない。片や1個の魔力石で1分間戦える魔術師、片や1個の魔力石で10分間戦える魔術師、どちらが優秀であるかは火を見るよりも明らかだろう。
「はあああ!」
俺は両手に短刀を携え、広場を駆ける。
……ちなみに言い忘れていたが、今は模擬戦の真っ最中だ。ここは役場の裏にある練習場で、今俺たち7人のパーティは町長が用意した15人の魔術師相手に戦っているところだ。
話が逸れた。俺は今走りながら、体内では吸収した魔力を次から次へと魔術に変換しているところだ。
俺の魔術は主に身体能力の強化だ。全身の筋肉を増強することで人間離れした動きをすることができる。
「おらっ!」
「きゃあ!?」
俺が短刀を振ると、敵の前衛である剣士は俺の動きについていけないのか、あっさりその手の剣を取り落としてしまう。そして俺は丸腰となった相手に向かって全力の蹴りをお見舞いすると、その剣士は広場の端の方まで吹き飛ばされ、意識を失ってしまったのだ。
現在模擬戦が始まって5分程度しか経っていないが、既に敵は4人ほどが戦闘不能となっている。相手が弱いのもあるが、この5分間で俺の戦闘の勘も徐々に戻りつつあることも大きい。この調子でさっさと相手を全滅させ、砦攻略に弾みをつけたいものだ。
『アイギス』
『はい!』
俺は後方に控えているアイギスに対して念話で指示を出す。と、さっきからちなんでばかりで悪いが、魔力石を転送するのにも、念話を行うのにも魔力を消費するのは言わずもがなだ。故に、便利とは言え念話を多用することは基本的には控えた方がいいが、今後の為にも今は練習としてなるべく沢山使っておいた方がいいだろう。
短時間で俺は4人の魔術師を戦闘不能にしたものの、相手も俺を明らかに警戒するようになり、次第に簡単に攻撃が通らなくなってきた。
「ちっ、防御壁か……」
後方の補助系魔術を専門に使う魔術師が、仲間の銃使いに対して防御魔術を施したのだ。防御壁はことごとく俺の攻撃を跳ね返す。このまま通常攻撃を仕掛けても、敵の守りを破ることは容易ではないだろう。
『アイギス、魔力石を!』
『いくつですか!?』
『何個でもいい! 送れるだけ今すぐ俺に送れ!』
『ええ!? もう! 人使いが荒いですね!』
念話でも分かるくらいアイギスはぷんすかしているが、それでも彼女は俺の求めに応じてくれる。回復魔術を期待してのスカウティングだったが、これだけ素早く魔力生成ができるなら、今後彼女は大いに活躍できるはずだ。
指示を出してから20秒ほどすると、俺の掌に5個の魔力石が転送されてきた。俺はそれを全て砕き、素早く体内に取り込む。そして、その魔力を惜しげもなく魔術に変換する。
少ない油では小さな炎しか燃え上がらない。だが、大量の油が投入されたらどうなるか? 炎は激しさを増し、辺り一帯を焼き尽くすほどの業火となる。そして今の俺の魔術は、先ほどとは比較にならないほどの爆発力を秘めているのである。
「おらああああ!」
「なに!?」
俺は全力でその右足を振り抜く。そしてなんと、先ほどはびくともしなかった防御壁をたったの一撃で破壊することに成功したのだ。粉々に砕け散る光の防御壁。そのことに銃使いの女は明らかに動揺している。そしてそれがそのまま彼女の敗因となったのだ。
右手の短刀を振り抜く。短刀は女の身体を覆っていた衣服を引き裂き、女の上半身が露わになる。そして女はそのまま意識を失った。これでも訓練用の不殺処理がなされているからこの程度の威力になっているが、これが実戦だったら、刃は敵の上半身を切り裂き、相手はあっさり絶命していたことだろう。
「骨のないやつらばかりだな! この程度で選りすぐりだってのか?」
久しぶりの戦いに気持ちが昂る。興奮してはいけないと分かっていながらも、心臓の高鳴りを抑えることができない。
『アレンさん! 油断している場合じゃありません! あなたはいいでしょうが、他の皆さんが苦戦しています。なんとか彼女たちの援護に向かってください』
『俺に説教とは、やっぱりなかなか骨のあるやつみたいだな』
『私はあなたのバディであって部下じゃありません! 間違っていることにはどんどん意見させてもらいますから! ほら! 早く援護に行ってください!』
『分かったっての』
アイギスが口うるさく言ってくるので、俺はとりあえずの目的を仲間の援護に切り替える。アイギスは俺や仲間に魔力石を送りながら、本職である回復魔術師として負傷した仲間の回復にもあたっている。また、仲間を介抱しているところを襲われそうになると、敵と同じく防御壁を展開させ遠方からの魔術攻撃を防ぐなど、実に幅広な活躍を見せていたのだ。
サポート役としてはこれ以上ない彼女の活躍に、俺は非常に満足した。
「きゃああ!?」
だがそれでも、あまりに激しい攻撃まで彼女一人で防ぎきることは不可能だ。アイギスを厄介と捉えた魔導士が3人束になり、アイギスを集中攻撃し始めたのだ。俺は瞬間的に、敵の攻撃の軌道上に駆け込んだ。
「無駄だ!」
俺は迫りくる火球、雷撃、氷柱の攻撃を短刀で弾き返す。だが俺でもその全てを無力化することは難しい。その内の雷撃を俺は右手で受けてしまい、俺は短刀を取り落としてしまったのだった。
アレンピンチ!?
続きます!
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