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サキュ俺⑥ アレンの自信

 まさかたまたま声をかけた相手がサキュバスだなんて誰が思うだろうか?

 ……いや、それは一般人ならそうだろうが、俺は本来は早々に彼女がサキュバスであることを見抜かねばならなかった。

 ブランクがあるとはいえ、そこまで俺の勘は鈍ってしまったのだろうか? この先が実に不安なところではある……。


 俺の隣にはベールを目深に被っているアイギス。彼女が酒場にいた時からベールで顔を隠していたのは、その顔を晒さない為だったのだ。サキュバスのその美しい顔を見て、更に彼女が漂わす香りを嗅いでしまうと、男は途端にサキュバスの虜となってしまう。サキュバスのその能力を「テンプテーション(誘惑)」といい、それは状態異常を引き起こす魔術の中でも最上位に属する魔術であった。


「お騒がせして申し訳ありませんでした」


 俺とアイギスは揃って頭を下げる。


「いえいえ、お気になさらず。ですが、大丈夫なのですか? 私もサキュバスの方で知り合いがいないのでなんともいえませんが、先ほどの職員のように、サキュバスは男性を惑わすと聞きます。アレン殿も同じようなことになってしまうのではないかと……」


 心配そうな様子の町長。町長の言葉も最もだ。普通、男であればさきほどの職員のようにたちまちテンプテーションにかかり、サキュバスの魅力に取り憑かれてしまう。だが、俺はアイギスの顔をじっくり見たにも関わらず、今の所特段異変はなく、彼女の虜になるということは全くなかったのだ。


「それが本当に不思議なんです。これまで、男性は悉く私のテンプテーションにかかってしまうので、私はまともに男性とお話をしたことすらなかったのに……」


 首を捻るアイギス。すると、彼女は唐突にこんなことを言い出したのだ。


「もしかしたら、アレンさんは実は女性である可能性も……」

「んな訳あるか! 俺のどこが女に見えるんだ!?」


 思わずツッコミを入れる俺。


「ですが、そうでなければ説明がつきません!」

「お前の顔の魅力が足りない可能性だってあるだろ!」

「女性に対してなんてことおっしゃいますか!? あ、いやまあ、自分がサキュバスのせいで、さっきのように困ってしまうことも多いので、正直こんな能力いらないんですけどね……」


 一転してしょげるアイギス。感情の変化が忙しいやつだ。


「だから酒場の端っこのほうで一人でいたのか」

「はい……。魔王軍と戦いたいとは思っていたのですが、他の方に迷惑をかけられませんので」


 苦笑いするアイギス。その表情からは、人間の俺には分からない苦労が読み取れた。

 

「……って、さっきからアレンさん鼻をスンスンさせてますけど、風邪でも引いているんですか?」

「あ? いや、風邪じゃなくて多分花粉症だと思う。他の国にいた時は何ともなかったし」

「なるほど……」


 顎に手を当て、ふむふむと何やら納得した様子のアイギス。すると……


「なるほど、鼻が詰まっているせいで私の匂いが効かなかったんですね!」

「んなわけあるか! 鼻詰まり程度でサキュバスのテンプテーションが防げるわけないだろ! サキュバスのテンプテーションは本当に強力な魔術なんだから」

「では、どうしてアレンさんにはテンプテーションが効かないのでしょうか……?」

「俺に聞くな。お前のテンプテーションなんだから、そんなの自分で考えろ」

「ええ!?」


 俺のつれない答えに再び困惑するアイギス。無論、俺は自分のことはある程度分かっているので、なぜ彼女のテンプテーションが効かないか心当たりはあったが、説明するのもいちいち面倒なので割愛することにした。


 尚アイギスは納得がいっていない様子であったが、どちらにせよ俺にはサキュバスのテンプテーションは無効であるなら彼女とコンビを組むことには支障はないので、俺は彼女をメンバーに入れることを堂々と町長に宣言したのであった。そして俺は更に町長にある要望を出した。


「二人ではまだまだ心もとないですが、あと数名を貸していただけるならあの砦を攻めることは可能でしょう。ここの物流を回復させる為にも、なんとしてでも砦を叩いてみせます」

「あ、アレン殿、それは本当ですか!? 確かに、この街にも魔術師はおりますので、アレン殿のお供として派遣することはできます。ですが、これまで砦への攻撃を何度か敢行しましたが、多くの人間を作戦に動員してもなし得なかったのですよ? それをそんな少人数でなんて、言い方は悪いですが、些か無謀ではないかと私は思うのですが……」


 不安そうな町長。彼はきっと、自分が俺を急かしたせいで無茶な計画を立ててでもこの街をなんとかしようとしてくれているのだと思っているのだろう。

 その気持ちは分かる。確かに並みの魔術師が同じ作戦をやったとしたら、それは確実に自殺行為でしかなくなってしまうだろうからな。


「あの、アレンさん、それに関しては私も町長さんと同じ気持ちです。経験の少ない私を連れて行っても、そう上手くいくとは思えないのですが……」


 町長と同様にアイギスも不安を見せる。だが、当然ながら俺は何も考えずに砦を攻めると言ったわけではなく、ちゃんと勝算があってのことだ。故に俺は二人の言葉に対しかぶりを振ったのだ。


「大丈夫です。二人が心配しているようなことにはなりませんよ。ところで、訓練は怠ってきませんでしたが、実戦自体は久しぶりなので、砦を攻める前に模擬戦をやらせてもらえると助かります」

「模擬戦ですか? 分かりました。魔術師を揃えますので、こちらで今しばらくお待ちください」


 町長の言葉に従い、俺たちは町役場で準備が整うのを待たせてもらった。


 砦強襲作戦に加わることとなったのは、腕利きの5名の魔術師だ。そして模擬戦の相手は、俺たち7人のおよそ倍の人数の15人の魔術師であった。ちなみに、アイギスのテンプテーションの関係で、今回の模擬戦に男は俺以外参加していない。

 そしてついに、俺とアイギスは初めて同じパーティメンバーとして模擬戦に臨んだのであった。

次回はついにバトル回です!

お楽しみに!

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