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サキュ俺⑤ 彼女の正体

 少女が名乗ってくれたので、俺も自身の名前を名乗った。


「俺はアレン・ダイだ。あんた、その格好ってことは回復魔術が専門なのか?」


 この国において、神官の職業を選ぶ者は往々にして回復魔術を専門としていることが多い。というのも、この国で最も普及している宗教であるイリア教の始祖イリアは癒しの女神として知られており、敬虔なイリア教徒である神官は彼女の教えに従い、回復系の魔術を会得することがほとんどだからだ。


「あ、はい、そうです」


 予想通り、彼女もその内の一人であった。実は俺がまず探していたのは彼女の様な回復魔術専門の魔術師であった為、俺にとってはこの出会いは非常に好都合であった。


「あんた、学校は出てるか?」


 俺は矢継ぎ早に質問を繰り出す。


「は、はい。一応、回復魔術選考で、Sランクで卒業しました」

「ほう、Sランクか。それは凄いな」


 俺は素直にその事実に感心する。ちなみに魔術学校は通常、卒業のランクがC~Sの4段階となっている。Sということは、彼女は非常に優秀な成績を収めて卒業したということになるわけだ。

 あ、ちなみにだが、俺は残念ながら学校は出ていない。育った家にそれほど金がなかったというのが原因なのだが、基本的に魔術学校に入るにはそこそこ裕福な家庭でないと難しいのが現実だ。目の前の少女は恐らくそういった裕福な家庭で育ったのだろう。


「そんなすごい魔術を誇っていながら、なんで酒場の端っこで一人でいるんだ?」

「そ、それは……」


 俺の問に対しなにやら答えにくそうにする少女。まあ、初対面の男に言いたくないこともあるのだろうし、今は特に気にしなくてもいいだろう。


「まあいい。事情は知らんが、その辺はあれこれ言ってられん。あんた、自分の魔術に自信はあるか?」

「そ、それは、もちろんです」


 何かとオドオドしている彼女だが、今「もちろん」と彼女が答えた時、彼女の視線は少しもぶれることがなかった。それが、彼女が自身の魔術について自信を持っていることの表われであることは間違いないと俺は思った。


「分かった。それなら一緒に来てくれ」

「え? ええ!?」


 俺は半ば強引に彼女を引っ張る。


「来てくれって、どこに行くんですか!?」

「魔王軍と戦いに行くんだ。ひとまずこの近くにある砦を叩く」


 俺はさも当たり前であるかのようにそう言った。


「魔王軍!? そんな、いきなり過ぎますよ!?」


 彼女は予想通り、あまりに唐突な俺の言葉に驚きを隠しきれないでいる。

 驚くのは当然だろう。それでもここで一々考え込んでいる時間はないんだ。

 町長からは、ある程度の時間をかけてもいいと言われてはいるが、俺が時間をかけるのはあくまで魔王軍を壊滅させる為に組むパーティのメンバー編成についてだけだ。残念ながら、そのパーティをこの街だけで組むことなど不可能だ。その為にも、行動できる範囲を早々に広げ、俺は他の街でも有望な魔術師をスカウトしなければならない。故に今は一分一秒も無駄にはできないのだ。


 もちろん急ぐ理由はそれだけではなく、このリインフォースの街が既に限界に近い状態にあることも理由の一つだ。

 俺はこの街を拠点にしようと思っているが、このまま物流網を寸断されたままではこの街はもう一月ももたないだろう。この街を正常化させる為にも、今すぐ例の砦を叩く必要があることは疑いようもないことだ。その為に、俺は多少強引な手法を取ってでも、彼女を俺の仲間にするつもりだったのだ。

 俺はアイギスの手を掴んだままこう言った。


「行きたくないなら無理には連れていかん。だが魔王軍と戦う意思があるからこそ、あんたはここにいるんじゃないのか?」


 俺はまっすぐ少女を見つめて問う。するとアイギスはこう答えた。


「も、もちろんです。故郷であるこの国を救うことが、今の私の目標ですから」


 彼女はそう言い切る。その口調にはやはり淀みがない。俺が思ったよりも彼女は肝が据わっていたことに、俺は少し感心した。


「なら行くぞ。あんたは見込みがある。詳しいことはついてくれば分かる」


 そう言って、俺は彼女から手を放し歩き出す。


「待ってください!」


 その後を彼女は小走りでついてくる。彼女は俺が手を引かずともこちらに来たのだ。それで十分、彼女の想いは本物であるという確信を持つことができたのだった。



 酒場を出た俺たちは町長の元へと向かう。その道中、アイギスが俺に問うた。


「あの、アレンさん、本当に何ともないんですか?」

「だから何がだよ? 鼻血でも出せばいいのか?」


 俺はニヤリと笑って彼女の全身を眺め回すようなフリをした。するとアイギスはとっさに身体を抱きかかえ、自身の身を守る仕草をしたのだ。俺はやれやれと肩をすくめて言った。


「冗談だっての。俺はこう見えて真面目なんだ。いきなり会ったばかりの女をそんな目で見たりしねえよ」

「本当ですかねぇ……」


 アイギスは尚懐疑的だ。そりゃ、出会ってすぐいきなり魔王軍を倒しに行くと大言壮語を吐くような男をすぐに信用するのも難しいだろうから、それも仕方がないことではあるが。しかしそんなことを気にしていてもしょうがないので、俺はアイギスの様子は特に気にせず、ただひたすらに歩みを進めた。


 再び町役場につくと、アイギスはなにやら周りを気にし、なぜかベールをまた深々と被ったのだ。


「アイギス、これから町長に会うのにそんなの被ってたら失礼だろ」

「ちょっ!? やめてください!」


 俺はベールを脱がそうとするが、アイギスは頑として譲らない。

 そんなこんなで、町長室の前で俺たちがわちゃわちゃやっていると、役場の若い職員が1人俺たちに近寄ってきた。そしてそれと同時に俺はアイギスのベールを剥ぎ取ることに成功していたのだ。

 顔が再び露わになったアイギスと、やって来た男性職員の視線が合う。職員はそのまま素通りすることはせず、なぜか食い入るようにアイギスの顔を凝視していた。まるで穴が開くんじゃないかと思えるほど熱心なその視線に、俺は異常を感じていた。この反応はまともではないと、直感が俺にそう告げていた。すると……


「うわあああ!」

「きゃあ!?」


 その職員が突如として、真っ赤な顔をしてアイギスに抱きついたのだ!


「おい!? あんた何やってんだ!?」


 俺は急いで職員を引き剥がす。そしてその時、俺はようやくアイギスのあることに気が付いたのだ。アイギスの頭にはなんと、人間にはあるはずのない悪魔の様な二本の角がついていたのだ。


「角、だと? それにこの美しい顔、そして職員の様子……まさかお前は?」


 俺はとっさに上着を脱ぎアイギスに被せた。すると、引き剥がされた職員はしばらくして冷静さを取り戻したようだった。


「な、何事ですかアレン殿!?」


 騒ぎを聞きつけ部屋から出てくる町長。一方、騒動が沈静化する中、アイギスがどさくさに紛れてその場から逃げようとしているのを俺は見逃さなかった。そんな彼女の腕を掴み、俺はこう言ったのだ。


「お前、サキュバスだったのか」


 俺の言葉にビクッとするアイギス。彼女は観念したのか、その場にへたり込んでしまったのだった。

続きます!

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