サキュ俺④ アイギスとの出会い
王女と勇者の関係とは……?
「ルイーズ様は、勇者と結婚されていたんですね……」
「はい。結婚されたのは確か2年と少し前ぐらいだったと思います。お似合いのご夫婦だと国中で祝福されていました」
町長は遠い目をしてそう言った。
俺が知る限りでは、3年前にリオンがルイーズ様と会っていた記憶はない。もちろん、俺の知らないところで逢瀬を重ねていた可能性は否定できないが、あの頃のやつはパーティ内の女に唾をつけていたはずだ。ってかあいつ、多分パーティ内の女をほとんど全員食ってた気がするのだが……。
確かにやつはイケメンだ、それは認めよう。だがそれにしたって女たちはやつに簡単になびきすぎだ。パーティ内の風紀を乱していたのは紛れもなくやつだったのに、なんで俺がクビにならなきゃならんのか、俺はいまだに納得がいっていないのだ。
それでは、ルイーズ様も他の女たちと同様あのヤリチン勇者になびいてしまったのだろうか? いや、もしかしたら、王女という立場上、勇者であったやつと無理やり結婚させられた可能性もある。その可能性がある以上、今彼女の心を決めつけてしまうのはよろしくない気がする。やはり、一度会って話を聞かない限り、俺の心のモヤモヤはきっと晴れないだろう……。
俺がスッキリしない気分でいると、再び町長が俺に頭を下げていた。
「アレン殿、勇者様たちや王様たちを救う為に、なんとかお力添えをいただけないでしょうか?」
そう言って、なんと今度は町長は膝をついたのだ。俺は慌てて町長を制止する。
「頭をあげて下さい! 俺なんかにそんなことしないでも……」
「いえ、大変なお願いをしていることは分かっていますので!」
いくら俺が止めても町長は頭を上げようとはしない。俺程度の人間にすらここまでする町長の気持ちを俺も痛いほど分かるし、俺自身もこの状況をなんとかしたいと思っていた。それに、王様達が殺されるのを黙って見ているわけにもいかなかった。
……だが本当のことを言えば、正直気乗りはしていなかった。勝算の低い戦に出向くことは勇気ではなく、単なる自殺行為でしかないからだ。それでも、この国の人間として、今のこの状況を見過ごすこともやはり俺にはできない。もともと無謀な挑戦だ。最悪、命を落としかねない状況になったとして、そこから逃げても誰も文句は言わないだろうし、文句を言われる筋合いもない。それにもしかすると、俺が活躍すれば勇者の鼻を明かすこともできるかもしれないしな……。
「って、これじゃまるでリオンだな……」
色んな人に裏切られたせいでなんだかすっかり打算的な人間になってしまったような気がするが、自分の身を守る為にはそれも致し方がない。そしてようやく、俺の腹は決まったのだった。
「分かりました」
「本当ですか!? お力添えをいただけるのですね!?」
「ええ。しかし、魔王軍と戦うにしても仲間を集めないことにはどうにもなりません。しばらく時間をいただければと思います」
勇者パーティを倒した魔王軍と戦う為には、かなり選りすぐりの魔術師たちをそろえる必要がある。それにはそれなりに時間がかかることは間違いない。
「もちろんです! 決して時間が潤沢にあるとは言えない状況にはありますが、アレン殿が納得できるような仲間をそろえていただければと思います」
こうして、町長の言葉通り、俺は仲間探しに向かうことにしたのだった。
この街にはやる気のある若者が多数いるのは既に分かっていることだ。だが、戦いはやる気だけではどうにもならないのが正直なところだ。気合だけでどうにかなるものでもないし、センスはあっても経験を積まないことには満足にそのポテンシャルを生かすこともできない。あまり贅沢も言っていられないが、やはり仲間選びは慎重にならざるを得ないのである。
「安直だが、仲間集めといえば酒場だろう」
血気盛んな若者は酒場に集まり、各々の夢や、上手くいかない現状への愚痴などを語り合いたがるものだ。物資が不足しているのでそこまで満足に酒は出てこないだろうが、それでもそういう場所に人が集まるのはいつの時代も同じものだ。
俺がこの街唯一の酒場へとたどり着くと、そこはやはり魔王軍と戦おうと考える血気盛んな若者たちであふれていた。しかし、しばらく酒場をぶらぶら歩いてみたが、目ぼしい人間はなかなか見つからなかった。
「そりゃ、こんな状態の街に有望な魔術師がほいほい転がっている訳もないしな……」
それでも俺は根気強く魔術師を探した。すると、俺は酒場の端っこの方で一人の魔術師を見つけたのだ。その人物は金髪のロングヘアーが特徴的な女性で、顔は白色のベールで覆われており、白を基調とした修道服に身を包んでいたのである。
経験の浅い人間ではなかなかわかりづらいが、俺はこれでも勇者パーティにいた人間だ。魔術師がどれほどの実力を誇っているか、パッと見である程度は理解できるつもりだ。その俺の勘が言っているのだ。「彼女はかなり強い魔術の使い手である」と。
まあそうは言っても、相手が男であれば簡単に声は掛けられるものの、相手が女であるだけで俺は途端に声をかけることをしり込みしてしまう訳だが、今は陰キャっぷりを見せつけている場合ではない……。俺は自分に鞭打ち、なるべく自然にその女に対して話しかけることにしたのである。
「なあ、そんな端っこで何やってるんだ?」
「え?」
俺が声をかけると、慌てた様子で女が声を発する。それは耳が癒されるような、実に可愛らしい声であった。ベールを被っているせいで彼女の顔は見えないが、声のトーンを聞くに、どうやら彼女は少女と言った方が正しいくらいの年齢であるようだった。
俺は少女に近づこうとする。しかし、少女はなぜか俺を大慌てで制止したのだ。
「だ、駄目です! こっちに来たら……きゃ!?」
慌てすぎてしまったのか、彼女は自分の服の裾を踏んでこけそうになってしまう。
「危ねえ!」
俺はとっさに少女を抱きかかえる。すると相変わらずベールを被ってはいるが、少女の顔がようやく俺にもはっきり見えたのだ。
「こりゃまた随分なべっぴんさんだな」
俺は少女に聞こえないくらいの声で思わずそう呟く。そんな言葉が漏れてしまうくらい、彼女の顔は美しかった。大きくて柔和な印象を受ける垂れ気味な目に、スッと通った高い鼻、そして厚くて色っぽさを醸し出す唇。正直これほどの美貌はこれまで俺は一度も見たことがなかったほどだ。
すると少女は、自分が俺に抱きかかえられていることに気がつくと、またしても慌ててこんなことを言ったのだ。
「は、放してください! 私の顔を見ては駄目です!」
少女はなんとか俺から離れようとする。しかし、すぐに俺に何の異変もないこと気がつくと、彼女は顔中で疑問を露わにしたのだ。
「うそ? ど、どうして、なんともないんですか……?」
俺は少女の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「なんともって何がだ? 別にどうもしてないが」
俺の言葉を受け落ち着く少女。俺が彼女をおろすと、彼女は俺の顔をまじまじ見つめた。
それに応じるように俺も彼女を見やる。少女の修道服の正面は、下半身部分がミニスカートのような形状をしており、スカート部分と黒色のニーハイの間から覗く太ももが俺の目を引いた。また、彼女の胸は非常に大きく、修道服がはち切れんばかりに膨らみを形作っていたのである。
「……って、なに俺は女の子の身体をまじまじ観察してるんだよ……」
「え? 何かおっしゃいましたか?」
「い、いやなんでもない! それより、あんた名前は?」
不埒な視線を向けていたことを悟られないように俺が尋ねると、少女は俺の目をしっかり見据えて口を開いた。
「アイギスです。私の名前は、アイギス・アッシュベリーといいます」
それが俺とアイギスのファーストコンタクトであった。
ついにヒロイン登場!
続きます!