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サキュ俺③ 辺境の街「リインフォース」

 なんとか俺が人間であることを信じてもらい、そしてありもしない俺に関するフェイクニュースを軒並み否定し終わると、俺はようやく彼らの住まう街に案内してもらうこととなった。

 その街の名前は「リインフォース」といった。そこはそこまで大きな街ではなかったが、それでも1,000人程度の人間がそこでは暮らしており、また武器を携えた若者の姿も見受けることができた。


 俺を案内しながら、先程俺を出会い頭で殴ったあの男が言った。


「さっきはいきなり殴ってすまなかったな」

「別にいい。なんともないし」

「あれでなんともないのもまたすごいな……」


 苦笑いの男。回復魔術のおかげで今はもう大丈夫だが、先程は俺の頭から血が出ていたし、とても大丈夫のようには見えなかったのだろう。


「ところで、国がエルフに占拠されて、人間は強制労働させられているって聞いていたが、ここにこれだけ人がいるのはなんでなんだ?」

「それは、ここには各地から逃げてきた人間たちが暮らしているからだ。みんな生まれ故郷を魔王軍に追われ、住む場所がない人たちばかりなんだ」

「なるほど。だから武器を持った人間が多いんだな。武器がなければここまで逃れることは難しいだろうし」

「ああ。こういう所が他にもいくつかある。俺たちは他の街とも連絡を取り合っているんだ」


 話している内に俺たちはいつのまにか目的の場所に辿り着いていた。そこは町役場だった。どうやら彼は俺をこの街の町長に会わせたかったらしい。

 階段を昇り役場2階の町長室に案内されると、そこには眼鏡を掛けた40代くらいの男性が俺を待ち構えていた。


「はじめまして、私はこの街の町長を務めておりますジェフ・ワイズマンと申します。この度はこのリインフォースにお越しいただきましてどうもありがとうございます、アレン殿」


 町長は実に人の良さそうな笑顔で俺にそう言う。そして彼が握手を求めてきたので、俺はその求めに応じて町長と握手を交わした。


「アレン・ダイです。アゼリア王国が大変な時に何も出来ずに申し訳ないです」

「そんなとんでもない! 事情は存じておりませんが、勇者様と共に戦われていた方がまだご無事でいらっしゃっただけでも、我々としては嬉しい限りです」


 町長は笑顔を崩さない。だが、彼の黒髪には一部白髪が混ざっており、目の下にも僅かにクマが見える辺り、彼がかなりの苦労を背負っているのが見て取れた。

 彼の口ぶりから察するに、彼は俺に何かを期待しているようにも思えた。


「ありがとうございます。それにしても、この街もなかなか大変なようですね」


 俺がそう言うと、町長は苦笑いを浮かべて言った。


「やはりお分かりになりますか……?」

「ええ、まあ。確かに人は多いですが、商店にはあまり物はないし、物価も非常に高い。それに、昼間から何をするでもなく、その辺りをうろうろしている人間も多いところを見ると、仕事もないのではないかと思いまして」

「……流石はアレン殿。やはり、隠し立てすることは難しいですね」


 町長は溜息をつく。そして暗い表情のまま言葉を紡ぐ。


「魔王軍がこの国を攻め、あっという間に王都は陥落しました。その後も我々はなんとか抵抗を続け、魔王軍から逃れてきた人間がこの街にもたくさん集まってきました。しかし、この街と王都やバレイルを繋ぐ物流網は悉く魔王軍によって寸断されてしまいました。この街の近くには畑があるのですが、近くに魔王軍の砦があり、彼らが日夜目を光らせているせいで農作物をつくることも運ぶこともできません。物資が届かない為、物価は上がり続け、職もロクにない状態なんです……」


 なるほど、近くに敵の砦があるからあんなバリケードをつくっているのか。

 それにしても、物流網が寸断されている以上、この街に物はほとんど入ってこないし、そんな状態を長く続けることは難しいと言わざるを得ないだろう。敵もそれを分かっているからこそ、街をわざわざ襲いには来ないのかもしれないな。


「武装蜂起という選択肢はないんですか?」

「もちろん、これまで何度か砦に攻撃を仕掛けました。ですが、この街の魔術師は戦闘経験の乏しい若者が多く、戦闘のプロ集団である魔王軍には太刀打ちできませんでした……。特にあの砦のエルフたちを率いている二丁拳銃使いのエルフは、勇者パーティのメンバーに匹敵するほどの実力の持ち主で、とてもではありませんが、我々でどうにかなる相手ではありませんでした……」

「なるほど……」


 室内に重苦しい沈黙が流れる。すると、意を決したように町長がこんなことを口にした。


「アレン殿、かつて勇者様と一緒に旅をしていたあなたのお力で、なんとか魔王軍を倒すことはできないでしょうか?」

「魔王軍を倒す、ですか……」


 町長の気持ちはわかる。だが俺ひとりでこの国を滅ぼした軍勢を相手にするなどあまりに現実味のない話だ。それにだ……


「町長、俺は少し前にこの国に帰ってきたばかりで状況を完全に把握しているわけではありません。まずは他の人たちが今どうなっているか教えてはもらえないでしょうか?」


 俺がそう言うと、町長は再び口を開いた。

 町長いわく、人間たちは今、噂通りエルフの奴隷として各地で強制労働をさせられているらしい。幸い、魔王軍が人間を虐殺したり性的暴行をするようなことは今はないが、危険なことをさせられて命を落としている者も確かにいるし、魔王軍所属のオークが軍とは関係なく人間を襲うこともあり、人間が酷い扱いを受けていることには違いないのだとか。


「勇者はいったいどうしたんですか?」

「勇者様達は今、王都にある強制収容所にいらっしゃるとのことです。魔王軍にとってみれば、彼らを生かしておくのも危険でしょうし、いずれ処刑されてしまうと思われます……。王様や王女様も同じです」

「王女様……」


 王女という言葉に俺は思わず反応してしまう。俺はかつて、王女であるルイーズ様のことが好きだった。無論、俺と彼女では立場が違いすぎることは理解していたし、あんな綺麗な方と俺では釣り合わないことも分かっていた。

 それでも俺は、彼女にアプローチをかけた。いい年して俺はこれまで女の子と恋愛などしたことがなかったので勝手がまるで掴めなかったが、ない頭を絞って手紙を書き、彼女にそれを渡した。

 ルイーズ様は田舎育ちの俺の手紙に嫌な顔一つ見せず、逆に手紙を嬉しいと言ってくれた。そしてそれからも、俺は彼女と二人で何度か会い、俺は彼女への想いを募らせていった。そして彼女も、俺と会うのをいつも楽しみにしていると言ってくれたんだ。


「王女様も、このままでは命を落としてしまうでしょう。勇者様と結婚して、幸せに暮らしていたというのに、お可哀想に……」

「な!? ゆ、勇者と、結婚を……?」


 俺はその事実にわずかに頬を引きつらせた。

続きます!

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