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サキュ俺㉝ 復讐の鬼

 街には既に400名以上のエルフが侵入しており、仲間は防戦一方の状態となっていた。だが、申し訳ないことだが、そうなることも今回は織り込み済みだ。そして皆にもそのことは事前に伝達済みであったのだ。

 それでも少しでも被害を抑える為に、ここからの行動は迅速に行わなければならない。俺はアイギスから魔力石をもらい、再度皆に念話を行った。


『城門を閉めたぞ! 全員、プランBに移行せよ!』


 皆に指示を出し、俺たちも街の中へと進んでいく。その道中、エルフたちは群れをなして襲いかかって来たが、俺たちは悉くやつらをはねのけていった。


「ポイントが見えてきたわ!」

「よし! このままあれを破壊しろ!」

「分かったわ!」


 俺の指示を受け、シエルが魔力の充填を開始する。そして、建物の壁に取り付けてあった容器に向かって得意の火球を飛ばしたのだ。


 容器には魔術が施してあり、魔術攻撃以外のダメージを寄せ付けないが、シエルの炎を食らってはひとたまりもない。ものの見事にそれは付近の建物の壁ごと爆発四散し、そして、辺りには何やら異臭のする液体が撒き散らされたのだ。

 そう、その液体は油であった。この街の全ての家庭から拝借した油を、俺たちは街の様々なポイントに仕込んでおいたのだ。そして時を同じくして、俺たちと同様、仲間たちも一斉に街の隅々に仕込んであった容器を破壊し、中に入っていた油を放出していったのだ。


「なんだこれは!?」

「何か臭うぞ!?」


 エルフたちは油の刺激臭に表情を歪める。中には撒き散らされた油を頭から被ってしまっている者もいた。


『アレンさん』

『その声は……クラリスか?』

『いいえ、ラウラです』

『あ、すまん……』


 念話をしてきたのはエアハート姉妹のかたわれ、妹のラウラであった。俺はうっかり姉のクラリスと間違ったわけだが、ただでさえ瓜二つのビジュアルに、しかも今は念話で仕草も見えないのだから、間違っても致し方がないというものだろう。


『いえ、お気になさらず。それよりも、どうやら皆は相当量の油をまき終わったようです。そろそろ頃合いかと思われますが』


 エアハート姉妹は作戦開始前から街の一番高い建物の上から状況を観察していて、十分な量の油が散布されたら俺に報告することになっていたのだ。


『了解だ! 報告感謝する。お前たちはもう退避しろ』

『御意』


 相変わらず堅苦しい言葉選びをするラウラ。姉であるクラリスが天真爛漫な性格なのに比べ、彼女はいかにも忍といった堅苦しい感じで、二人は双子とは思えないほど対照的な性格であった。


 まあそれはともかくとして、既に油が基準量に達したのなら俺はモタモタしている場合ではない。俺は急ぎ、皆に対しこう念じた。


『みんな聞いてくれ! 油はもう十分な量に達した! 全員火を放ち、すぐに街から退避しろ! 絶対に炎に巻き込まれるなよ!』


 一度で全員に指示が行き渡っていない可能性があるので、俺は何度か念話で指示を出す。そして念話を終えた俺にシエルがこう尋ねた。


「兄さん。もういいかしら?」

「ああ、頼む」


 俺の言葉を合図に、シエルが剣を上方に掲げる。そして、


「はあああ!」


 彼女は剣を振り下ろし再び火球を放った。

 火球が地面に直撃し、撒かれている油に引火する。そして炎は瞬く間に俺たちの視界一杯に広がっていったのだ。


「アイギス!」

「はい! お二人とも、私に密着してください!」


 俺とシエルは言われるがままにアイギスに密着する。するとアイギスは俺たちの周りにドーム状の防護膜を張り巡らせる。それは全くと言っていいほど炎を寄せ付けず、俺たちを大火から守ったのだ。


 俺の指示を受け、仲間たちは次々に油に火を放っていく。炎は一気に燃え広がり、ついには街の大半を包み込むほどとなった。

 俺のプランでは、仲間たちは予め設置してある脱出口より避難することになっていた。そこに辿り着けさえすれば彼らの身の安全は確保される。なんとか辿り着いてくれと、俺は心の中で強く願った。


「うぎゃああああ!?」

「熱い! 誰か助けてくれ!?」


 一方、魔王軍は炎から逃れようとするも、既にこの街で安全な場所はなく、彼らはどこにも逃げることはできなくなった。

 炎は更に勢いを増す。城門付近にいたエルフたちは身体を炎に焼かれながらも門に駆け寄るが、外にいる俺の仲間たちが門を塞ぎ、その多くが城門付近で力尽きていった。


 火の海となるサレルナ。防護膜に包まれながら、シエルは寂しそうな様子で街を見つめている。俺は思わずそんな彼女を心配し、「大丈夫か?」と尋ねた。

 だが、シエルはすぐに表情を引き締めてこう答えた。


「大丈夫。まだ作戦は終わっていないんだから、感傷に浸っている場合じゃないわ」


 彼女が気丈に振る舞うのなら、俺がとやかく言うべきではない。俺は前を向き、エルフの残党がいないかを確認すべく辺りを観察した。


「アレンさん、もう付近に魔王軍はいないようです。私たちもそろそろ撤退しましょう」

「そうだな。だが警戒は怠るなよ。まだ残党が潜んでいる可能性だって……」


 すると、まさにその時であった。


「貴様ら! 今度こそ絶対に逃がさん!」

「なに!?」


 なんと、あのテレジアがまたしても俺たちの前に現れたのだ! しかも彼女は一人ではなく、彼女の取り巻きもまだ10名近く生き残っていたのである。


「くそっ! なんでやつらはまだ炎に呑まれていないんだ!?」

「貴様らの生温い攻撃などきかぬわ! あの程度で我々を殺せると思うな!」


 鬼気迫る表情のテレジア。恐らく、やつらは俺たちの仲間をいち早く倒し、油が撒かれるのを防げた為、炎の海に呑まれなかったのだろう。


「よりにもよって、一番厄介なやつが残っていやがるとは……」


 このままやつらを野放しにしておくわけにはいかない。やむなく、俺たちは焼け落ちる街の中でテレジア隊と対峙した。


「隊長は貴様らの策略により死亡した。隊長が死んだ以上、私がこれよりこの戦の指揮を執る!」


 テレジアはそう宣言し、俺たちに再び銃を向ける。既に炎はほとんど全ての建物に燃え移りつつあった。ここももってあと5分、いや場合によってはもっと短いかもしれない。とにかく、早く蹴りをつけなければ、俺たちが無事脱出することは難しくなってしまうだろう。

 俺たちも得物を構える。そしてアイギスが魔力生成を行うのを合図に、俺たちは最後の戦いに突入したのだった。

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