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サキュ俺㉜ テレジアの意地

「リーゼロッテ様! ここは私にお任せください!」

「ふん、混血が粋がるんじゃないわ!」


 テレジアの言葉に不満げな態度を示す敵将、リーゼロッテ。


「混血? 何のことだ……?」


 リーゼロッテの発した言葉が気になる俺。まさか、やつが魔王軍を率いているという、他の魔族との混血であるダークエルフだとでも言うのか? いや、それにしたってあんな風に嫌味な言われ方をするのはおかしい気もするが。


 リーゼロッテの言葉にテレジアは一瞬表情を曇らせる。だがすぐに彼女は切り替え、


「お願いです! どうか私にやらせてください!」


 と、自らの将に頼み込んだのだ。その後二人の間で押し問答となったが、しばらくして彼女の覚悟に根負けしたのか、ついにリーゼロッテはテレジアにこう返したのだ。


「……そこまで言うなら、行きなさい。でも、今度失敗したらただじゃ済まないわよ!」


 将の言葉に、テレジアは深く頷いた。


 指令を受け前に出るテレジアの隊。このままアイギスたちを前に出しておくのは危険だ。一度カウンターを食らわせた以上、やつらが同じことをしてくる確率は限りなくゼロに近い。

 俺はすぐにアイギスたちを後ろに下げる。そしてこの場にいる全員に念話でとある指示を出したのだ。


『プランA始動!』


 俺のその合図を受け全員の目の色が変わる。だがそんなことは、既に殺気十分の彼女には一切関係のないことだ。


「貴様ら! 今度は逃がさんぞ!」


 テレジア隊が俺たちに迫る。


「食らえ!」

「うぎゃあ!?」


 そしてあっという間に、彼女に仲間数名が銃撃されてしまう。


「くそ!」


 テレジアの登場により、状況が些かまずい方向に向かいはじめていることが嫌でも理解できた。この作戦を成功させる為にも、今ここで多数の被害を出すわけにはいかない。

 俺はテレジアに標的を絞り、短刀を構えて走り寄っていく。


「テレジア様を守れ!」


 だが、そんな俺の行く手を彼女の部下が阻む。斬っても斬っても、やつらは次から次へと現れてはテレジアを守った。自身の身の安全を顧みていないあたり、それは盲目的と言えるほどの忠誠心であった。


「随分と慕われているんだな。上官には嫌われているようだが」

「黙れ! もう貴様のくだらない戯言には付き合わん! 今度こそ貴様を殺してみせる!」


 俺の挑発には乗らないテレジア。俺は思わず舌打ちする。

 その後、俺は敵兵何名かを倒すことには成功したが、やはりテレジアに俺の攻撃が届くことはなかった。できることなら、やつらを街に誘い入れる前にある程度戦力は削いでおきたかったが、残念ながらこれ以上はこちらがもちそうもない。俺は覚悟を決め、皆に聞こえるよう可能な限り大きな声量で叫んだ。


「全員退避! 急げ!」


 途中仲間が倒れているのが視界に入ったが、俺は彼らに手を差し伸べることはせずそのまま走り抜けていく。


「逃がすか! やつらは街に立て篭もるつもりに違いない! 絶対に城門を閉じさせるな!」


 逃げる俺たちをテレジア隊が追う。


「他の者も続きなさい! しかしモニカ隊だけは残りなさい! その辺に転がっている人間どもを始末した後、ここで待機するように!」


 更に敵将も残りのエルフに指示を出し、俺たちを追い始める。

 もしここでこの大軍勢に追いつかれでもしたら、この少人数の軍勢では到底太刀打ちできず、作戦は確実に瓦解する。それを分かっているからこそ、俺たちは死に物狂いで街に向かって走った。


 結果的に、俺たちはなんとかやつらに追いつかれることなく城門にたどり着くことができた。そして俺たちはやつらを締め出す為、急いで城門に走り寄る。


「させるかああああ!」


 だがそれをまたしてもテレジアが阻んだ。鬼の形相を浮かべるテレジアに恐れをなし、門を閉めようとしていた仲間たちはたちまちその場から逃げ出す。


「いいですよ! このままやつらを捕え、血祭りにあげなさい!」


 テレジアの攻撃が成功し俺たちに城門を閉じさせず、上機嫌のリーゼロッテ。


 しかし、やつらには気の毒なことだが、あくまでこれは俺の作戦の内の一つでしかないのだ。俺の言った「プランA」とは本作戦の第一段階であり、敵をこの街までおびき寄せることを目的としていた。やつらをここに招き入れる為にも、城門はむしろ開けておいてあげた方(・・・・・・・・・・)が、彼女らがこの街に入りやすいので俺にとっては願ったりである。


 敵が怒涛の如く街に雪崩れ込んでいく。その様子を、俺とアイギスは城門の陰から見送る。


「上手くいきましたね」

「ああ。被害は多く出しちまったが、このままいけば作戦自体はなんとかなる。さあ、次行くぞ!」

「はい!」


 俺たちは一度街の外に出る。そこで俺たちはある人物と落ち合う約束をしていた。

 街の外では、リーゼロッテに待機を命じられていたモニカ隊と思しき一団が、今まさに倒れている俺の仲間たちにトドメを刺そうとしていた。だが、そんなことを彼女・・が許すはずがないのである。


「食らえ!」

「なに!?」


 突然、彼方よりモニカ隊の元に火球が複数個飛来する。火球は悉くエルフにヒットし、攻撃が直撃したエルフたちは遥か彼方まで吹き飛ばされてしまったのだ。


「いったい誰の仕業ですか!?」


 突然の攻撃に、ピンク色のショートカットが印象的なエルフであるモニカが驚く。だが、こんな攻撃ができるのはそう多くはない。この攻撃で瞬時に敵の正体を見抜けない時点で彼女の敗北は決まったようなものだ。


「教えてやる必要なんてない!」


 やつらを攻撃した魔術師の正体は、言わずもがな、俺の妹であるシエル・ダイであった。シエルの連続攻撃により、モニカ隊は倒れている俺の仲間たちから離れざるを得なくなった。


「シエルさん! 受け取ってください!」


 俺の横で魔力生成を行っていたアイギスからシエルは大量の魔力石を受け取る。片手では収まりきらないその量は、明らかに敵にとっては致死量であることだろう。

 シエルは魔力石を送ってくれたアイギスを見やる。するとアイギスは、そんな彼女を勇気づけるように深く頷いてみせたのだ。そしてそれに呼応するように、シエルも頷きを返事としたのである。


「シエルさん、お願いします……」


 そう言って、アイギスは祈りを捧げる。


 シエルは目を瞑り、アイギスの願いが篭った魔力を体内に取り入れる。その瞬間、彼女の身体が紅く光り輝き出したのだ。それは今までとは比較にならないほど眩い光であった。

 彼女の体内を魔力が駆け巡り、その魔力は悉くすべてを焼き尽くす業火に変換されていく。そしてついに、チャージの完了した彼女が本気を見せる刻が訪れた。

 シエルがカッと目を見開く。その瞳は普段の茶色ではなく、彼女の魔術と同じ真紅の色に染まっている。


「ここから、消え失せろ!!」


 シエルが銀色の剣を振り下ろす。切っ先は真っすぐモニカ隊を射程に捕え、彼女の剣からあらゆる生命を無に帰す熱戦が発射されたのだ!

 放たれた閃光は容赦なくモニカ隊に直撃し、辺り一帯は灼熱の水蒸気に包まれる。付近にはエルフたちの断末魔の悲鳴が響き渡るが、数秒の後には辺りは静寂に支配された。


 かくして数十名のエルフは、たった一人の少女により一瞬にして蒸発してしまったのであった。


「はあ、はあ、はあ……」


 肩で息をするシエル。今の一撃がどれほど気合の籠ったものであったかが彼女の様子からよく分かる。

 本作戦において、街の外で待機する一団があると緊急時にその一団が城門を開けてしまう可能性があり、作戦が中途半端に終わる危険性があった。故に、俺は彼女を外に配置した。圧倒的な破壊力を有する彼女なら、十数名程度の敵なら一瞬で葬り去ることができる。そして期待通り、その配置が功を奏したのである。


「シエル、大丈夫か?」

「これしき、なんともないわ」


 大きく息を吸い心拍を整えるシエル。そして数秒の後、彼女の呼吸は正常に戻っていた。


「もう大丈夫。行きましょう」

「お、おう。だが無理はするなよ」

「兄さんこそね」


 仲間たちの救出を外で待機させていた他の仲間に任せ、俺たちは再度街に向かう。その際、俺たちは今度こそ、しっかり街の城門を閉めたのであった。

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