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サキュ俺㉛ ぶつかる両軍

「シエルさん……」


 シエルの返答を待つ一同。そしてついにシエルは苦渋の決断を下した。


「……分かったわ。その作戦でいきましょう」

「本当にいいのか? もっと時間をかければ、これよりもいいアイデアは出るかもしれないぞ?」


 そう問う俺に対し、シエルはかぶりを振る。


「これ以上かける時間なんてないし、他にいいアイデアがあるとも思えないわ。少なくとも、私では何も考えつかなかったし……。でも、この作戦を承認する前に、一つだけ兄さんにお願いがあるの……」

「なんだ?」

「この街を放棄すれば、1,000人以上の人が行き場をなくしてしまう。それだけはなんとしても阻止しないといけない……。だから、兄さんが今拠点としているリインフォースに、この街の市民を受け入れてもらえるようお願いをしてほしいの」


 「もちろん全員とは言わない」と付け加え、シエルはまた深々と頭を下げる。

 人に素直に頭を下げられるようになっただけでも彼女は本当に成長したと思ったのに、こうやって彼女が街の大勢の人たちを代表して頭を下げる日が来るなんて……兄馬鹿と思われるだろうが、俺は人知れずそのことに感動を覚えていたのである。


「大人になったな」


 思わず俺はそう呟いていた。だがシエルは頭を下げたままであった。恐らく彼女は、俺が何かしらの返答をよこさない限り、頭をあげるつもりはないのだろう。

 俺は常々、努力してきた人間は報われるべきだと思ってきた。かく言う俺は、正直あまり報われてはこなかった気もするが、世の中は元来そうあってほしいと願っているのである。

 シエルはこれまで皆の為に頑張ってきた。それは周囲の人間の羨望の眼差しが証明している。そんな彼女は、俺は絶対に報われなければならないと信じている。故に、俺は彼女にこう声を掛けたのだ。


「もちろんだ。町長には俺から手紙を出しておく。だから安心しろ」


 俺の言葉を受けシエルがようやく頭を挙げる。その目には涙が溢れていた。きっと、これまで彼女はとてつもないプレッシャーと戦ってきたのだろう。その涙はそれを如実に物語っていた。


 正直な話をしてしまえば、俺はここに来た当初、無差別攻撃なんて何を血迷ったことを言っているんだと思っていた。この戦力差のまま魔王軍に喧嘩を売るなんて、あまりに愚かだと思っていた。


 かつての彼女は、確かに見通しが甘いことは多々あったが、ここまで彼女が状況を見誤ることはなかった。

 だが、そうなってしまった理由も今ならわかる気がする。どういう経緯で彼女がこの街の魔術師を束ねる立場になったかは知らないが、経験のないことに挑まなくてはいけない立場になり、本当に不安だったに違いない。そして、やらなければこちらがやられるという状態で正気を保つことは、きっと簡単なことではなかったはずだ。

 そんな重圧を跳ね除けたくて、彼女は無理を繰り返していたのだろう。念ずれば嘘も真になると、自分を騙し続けていたのだろう。


 しかし、それももう終いだ。俺やアイギスが来たからには、もうお前だけに重圧を背負わせたりしない。一緒に背負って、どこまでも付き合ってやる。どんなことがあっても、俺はお前を裏切らないと誓ってやる。俺はそう強く思ったのだった。


 話し合いの後、俺は手紙を書き、使者をリインフォースに送った。また、シエルは近隣の街にも援軍要請ならびに市民の受入要請を行った。そして、俺たちはすぐさま作戦の詳細を皆で詰め始めたのであった。



 それから、あっという間に二日が経過した。

 街には今まさに魔王軍が迫っている。エアハート姉妹の報告によると、魔王軍はどうやら500名以上おり、それだけで敵側の本気度合いが伝わってくるようだった。

 対する俺たちは、近隣の街から応援に来た魔術師と合わせても人数は100名程度しかいなかった。しかもそのほとんどが実戦経験の乏しい素人同然の人間ばかりであり、状況が圧倒的に不利であることは間違いないと言えた。それでも、俺たちはこれまで対策をしっかり練ってきた。無論、それで万全とまでは言えないが、完全に無謀とも決して言い切れないはずだ。


「全員、準備はできているか?」


 俺は先遣隊として選ばれた30名に対して問う。


「いつでも行けますよ!」


 すると、30人を代表してアイギスが元気よく答えた。彼女もこれまで何度も厳しい目に遭ってきただけに、どうやらかなり肝が座ってきたようだ。


「よし、みんな行くぞ!」

「おー!!」


 皆の気合いの一声。そして、ついに俺たちは魔王軍に突撃していったのだ。


 街の城門から一気に魔王軍に接近していく。どうやら、敵は紫のロングヘアーの女のエルフが率いているようだ。また、兵の前面は主に女性ばかりで構成されていることがうかがい知れた。


「アイギスのテンプテーション対策だな」


 だが、向こうがそろそろアイギス対策をしてくるであろうことは読んでいた。こちとら、今回は最初からテンプテーションは軸に据えていない。


「あの程度の人数ならわけないわ! やつらを吹き飛ばしてしまいなさい!」


 無鉄砲に固まって突撃して来る俺たちを見て、明らかに俺たちを侮っているであろう敵将がそう指示を出す。すると、魔導士と思われるエルフたちが前列に出てきて、一斉に属性技を繰り出したのだ。


 炎や、雷撃、水流などあらゆる属性技がこちらに飛んで来る。確かに、これらをまともに食らったらあっという間に全滅してしまうことだろう。

 だが、この程度を想定していない俺ではない。むしろ、こんな直線的な攻撃は願ってもいないほどだ。俺はすかさず合図を出す。


「アイギス!」

「はい!」


 俺の指示を受け、前に出たのはベールを被ったままのアイギス他五人の魔術師だ。彼女らは協力し合い、なんと巨大な聖なる盾(ホーリーシールド)を俺たちの前面に出現させたのだ。

 シールドに次々吸収されていく敵の攻撃。そして攻撃が止むと……


「せー、の!!」


 アイギスの合図の元、収縮された攻撃が倍の力になって射出され、広範囲かつ強烈な衝撃波が敵陣営を襲ったのだ!


「ぜ、全員退避ぃ!!」


 敵将が叫ぶも、大人数のエルフたちは我先にと逃げようとするせいで押し合い圧し合いの状態になっている。そんな状態の彼女らではこの攻撃を避けることは叶わない。


「ぎにゃああ!?」

「いやああ!!」


 アイギスの攻撃により前方にいた数十名のエルフたちが一瞬にして消失する。

 攻撃を回避したエルフたちも、今の攻撃を目の当たりにし恐怖に顔を引きつらせている。

 想定通り、この攻撃のインパクトは絶大だ。敵の勢いを削ぐにはこれほど効果的なものはない。敵軍を壊滅させることはできなくとも、敵に二の足を踏ませることができれば、こちらの勝機は十分高まるというものだ。


 だがその中でも、怯むことなく、俺たちに果敢に挑んでくる者があった。


「アレン・ダイ!」

「ち、また来やがったか……」


 それはなんと、またしてもあの二丁拳銃使い、テレジア・クラルヴァインだったのだ。

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