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サキュ俺② 襲撃

祖国・アゼリア王国に帰還したアレンは…

 ドワーフの船に乗り込んだ俺は、3年ぶりの祖国へと向かっていた。


「おいアレン! そろそろ旧アゼリア王国に着くからさっさとこの船から降りろ。このまま港に行ったら海上警察に見つかって豚箱行きだ」

「分かってる。俺はこの辺りでお暇させてもらうよ」


 アゼリア王国と思しき陸地からそれなりに離れたところで、俺は船から海に飛び込んだ。


「おっさん、助かったよ。ありがとう」

「何をするつもりか知らんが無理するなよ」


 海上からドワーフのおっさんに手を振り、俺は人気の無さそうな海岸へと泳ぎだした。

 おっさんはこのまま近くにあるバレイルという港町に向かうのだろう。この国がエルフに占拠されているのなら、バレイルのようなそれなりにデカい街に俺が行くのは自殺行為でしかない。

 陸地に辿り着いた俺は慎重にあたりを見回す。どうやらすぐ近くにエルフはいないようだ。とは言っても、ここはバレイルからそれほど距離があるわけではない。服が濡れたままだが、早々にここから移動した方がよいだろう。


 それからしばらく歩いてみたが、やはりこの国のそこかしこにエルフがおり、この国が本当にエルフたちに占拠されていることがよく分かった。人通りの少ない所を選んで歩いているから大軍勢に遭遇することはなかったが、それでも一定数のエルフがいる以上自由な行動は難しいと言わざるを得ない。

 俺はなんとかエルフの目を掻い潜りながら歩き続けた。そして暫く歩くと、俺は背の低い山々に囲まれた地域に差し掛かった。

 そこはかなりのどかな風景が目立つ田園地帯であった。これだけ畑があるのだし、この辺りには農村でもあるのだろうか?


「それにしても、さすがにこの辺まで来るとエルフの姿もほとんど見えないな……ん? あれはなんだ?」


 ふと辺りを見渡すと、ちょうど山と山に挟まれ狭くなっている道に、何やら岩や木材、廃材といったものがうず高く積み上げられ、道を思い切り塞いでいるのが俺の目に飛び込んできたのだ。


「なんだこりゃ……バリケードか?」


 バリケードを作るということは、ここから先には通したくないという意思が明確に表れていることは間違いない。

 エルフたち魔王軍がこの国を占拠し我が物顔で辺りを闊歩しているなら、わざわざやつらがこんなものをつくる必要はないはずだ。


「ってことは、もしかしたらこの先には人間がいるのかもしれないな」


 俺は期待も込めてそう呟き、バリケードを昇ろうとした。しかしその時だった。


「おらっ!」


 何やら男の声と共に、俺の頭に何やら強い衝撃が走ったのだ。あまりに唐突なことに俺の思考が追い付かない。俺はとりあえず、こんなことを仕掛けてきた男に疑問をぶつけることにした。


「おい、いきなりなんだ?」


 俺は眼だけを動かし、男を見やる。すると、何やら恐れおののくような男の顔が目に入った。見ると、男の耳はエルフのように尖ってはおらず、ドワーフのように筋肉質な体系でもない。彼が人間であることはどうやら間違いないようであった。

 俺はとりあえず頭に手を触れてみる。すると、手には思い切り血が付いていた。恐らく、鈍器のようなもので殴られ出血してしまったのだろう。


「この野郎、殺す気かよ……」


 俺がそう呟くと、今度はその男とは別の男たちが次々に現れ、一瞬にして俺を取り囲んでしまう。男たちは敵意むき出しであり、皆一様に俺のことを睨んでいた。


「エルフか!?」

「おい! 失敗したのか!?」

「おかしいな、確かに殴ったはずなんだが……」

「とにかくここを絶対に通すな!」


 男たちが思い思いに怒声をあげる。どうやら俺はエルフだと勘違いされているらしい。

 しかしそれにしたって、確認もせずにいきなり殴りかかって、もし俺が本当に死んでいたらどうするつもりだったんだ? まあ、こんなバリケードをつくるくらいだし、そんなことを確認する余裕もないほど人間とエルフの対立が深刻だということなのだろうが。


「おい! 俺はエルフじゃねえ。俺はあんたらと同じ人間だ!」


 これ以上殴られたら本当に死にかねないので、俺は必死に叫んで男たちを止める。すると男たちは若干クールダウンし、今度は俺のことをジッと凝視し始めた。

 

「確かに耳が尖っとらん!」


 1人の男が顎に手を当ててそう言う。


「だが、変化へんげの術を使っているのかもしれんぞ!」


 だが別の男は尚も俺のことを疑っている。更にその男の言葉に数名の男が頷いた。

 これは困った。自分がエルフではないことを証明するのは至難の技だ。人間とエルフでは見た目にそれほど大きな差があるわけではない。簡単に見分ける方法としてはやはり耳を見ることだが、それも変化の可能性を疑われては最早手の打ちようがない。実際俺ならそれも可能ではあるし。

 しかし、俺が困りあぐねていると、ふと一人の男がこんなことを言ったのだ。


「待て! その男見たことがあるぞ!」

「本当か!?」

「間違いない! この男は確か、前に勇者のパーティにいたはずだ!」


 男がそう言うと、他の男たちも冷静さを取り戻して俺を見つめた。すると別の男がはっきりとこう言ったのだ。


「確かに似ている! こいつは確か、アレン・ダイとかいう男だ!」

「お、俺のことを知ってるのか……?」


 当時冒険者たちの間ではそれなりに知名度のあった俺だが、3年も前に勇者パーティをクビになった男をまだ覚えていてくれたのは、俺にとっては素直に喜ばしいことだった。しかし、喜んでいるのも束の間、男たちはまたしてもとんでもないことを言い出したのだ。


「でも確か、アレンってのはパーティ内の女の胸を触ってパーティをクビになったんじゃなかったか?」

「は……?」


 いやいや、俺がいつそんなことした!? 俺はこれまでパーティの女に手を出したことなんて一度もない! ってか今まで女の胸に触れたことなんて一度も、ゲフンゲフン……。


「いや、単純に戦闘面が無能だったと俺は聞いたぞ」

「待て待て、俺は戦闘ではかなり活躍してたぞ」


 むしろ俺よりもリオンの方が結構サボってたし、後から入ってきた魔導士たちの方がよっぽど無能だったっての!

 ツッコミが追い付かない俺。だが尚も男たちは俺への風評被害を口にし続けた。


「違うって! 勇者に好きな女を取られて泣きべそかいて勝手に出て行ったんじゃなかったか?」

「いや、噂によれば寝しょんべんを咎められたんだとかなんとか……」


 止まらない俺への悪口。最早温厚な俺でも我慢の限界であった。


「あんたらそろそろいい加減にしやがれ!」


 あんまりな言われように、俺は思わず声を荒げてしまったのだった。

続きます!

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