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サキュ俺㉑ 作戦?

「そちらの方たちはどなたですか?」


 仲間の内の一人が尋ねる。


「彼はあたしの兄のアレンよ。兄はあたしと同じように勇者パーティに所属していたのよ」


 シエルがそう言うと、一同は「おー!」と歓声を上げた。そして彼女は更に俺の経歴についても色々と皆に話して聞かせた。そのせいもあってか、彼らは俺のことを眩しいものでも見るような目で見つめていた。きっと心強い味方が現れたと思っているのだろう。俺はひとまず自己紹介をすると共に、アイギスについても皆に紹介した。


 シエルが俺のことを過剰に持ち上げるせいで皆が俺に変に期待しているのが否が応でも理解できた。俺は正直目立つことは嫌いだ。注目を浴びると緊張してしまう性質なので、言葉がしどろもどろになっていなかったか実に心配である。それでも俺はなんとか一通り自己紹介を終えると、次にシエルたちにこう尋ねることにした。


「ナタリアの街に無差別攻撃を行っていると聞いたが、その目的を教えてもらってもいいか?」


 俺がそう言うと、皆を代表してシエルが答えた。


「さっきやつらがあたしたちを追ってきたように、無差別攻撃は確実にやつらにダメージを与えている。このままやり続ければ、やつらはいずれ怖がって逃げ出すはずよ! あそこに居座っているエルフが逃げていけば、あの街の守りは手薄になる。例えそうはならなくとも、更なる混乱を招くことはできる……。そうなった時、この街の魔術師を動員し、一気にあの街の総督府をつぶすわ! その為にはやつらに恐怖を与え続けなければならないの」


 シエルの熱弁に対し、周囲の魔術師たちも一様に深く頷いている。

 確かに俺たちを追ってきたエルフは件の攻撃を嫌がっているようであったし、攻撃がやつらにダメージを与えていることは間違いないだろう。だがあれほどの規模の街なら、駐屯している魔王軍の規模もリインフォースとは比較にならないほどのものであるに違いない。それを相手にするということの意味を、果たして彼女らは理解しているのだろうか?


「だが無差別攻撃を続けていれば、いずれやつらは総動員してこの街をつぶしに来るかもしれないぞ」

「もちろん分かっているわ。でも大丈夫。この街の周辺には罠を張り巡らせてあるし、この街の中にも罠が沢山ある。もしこの街に乗り込んできたら、罠を掻い潜りながらこの街の魔術師全員を相手にしなければならないわ。もちろん、それだけじゃなくて……」


 そう言ってシエルはくノ一のような格好をした2人の少女を手で示す。彼女らは共に白いセミロングの髪の毛をツインテールにしており、判別ができないほどそっくりな顔をしている。どうやら彼女らは双子の魔術師のようだ。どこかあどけなさを残しているあたり、彼女らは恐らくシエルよりも年下なのだろう。


「この子たちのように、隠密活動のできる魔術師もこの街には何人かいて、交代で周辺の監視に当たっているわ。これで敵の攻撃はすぐにわかる。防御面について抜かりはないわ」


 そう言って、シエルは自信をのぞかせた。

 彼女の言いたいことは分かった。それにその自信の根拠も理解した。

 ……だが、だからと言って、俺が彼女の作戦に乗るかは別の話だ。

 正直言って、この作戦は全体的に詰めが甘く、完ぺきとは言い難い。むしろ半分は願望の様なものでしかなく、具体性も乏しければ、実効性にも疑問符がつくものばかりであった。


 かつての勇者パーティ時代は、シエルが作戦の立案をすることは実は一度もなかった。というのも、彼女は魔術攻撃に関しては凄まじいものを持っていたが、綿密に作戦を練ったり、奇を衒ったようなことをすることは苦手としており、単純に突撃一辺倒な直線的な戦術を取ることがほとんどだったからだ。


 それでも彼女の魔術をもってすれば大抵のことはなんとかなっていた為、彼女が自身のスタイルを曲げることはなかった。だが今置かれている彼女の状況は、これまでとは全く違うものだ。


 作戦を立案する人間が、願望や希望的観測に縋ることは許されない。それは作戦でもなんでもなく、ただの妄想でしかない。妄想に他人を巻き込むことは絶対にあってはならない。シエルが話した「作戦」は、今言ったような妄想に近い代物だ。この内容では、この作戦が全て上手くいく可能性は限りなく低いだろうと、俺は残念ながら断言することができてしまったのだ。


「なるほど、この作戦の内容と目的は大まかには理解したよ。ただまだ内容を聞いたばかりで整理ができていないから、少し時間をもらえないか?」

「分かったわ。時間は惜しいけど、兄さんも考える時間が欲しいでしょうからね。今日はこの街の宿に泊まるといいわ。あたしから宿の店主には話をしておくから」

「悪いな、助かるよ」


 俺がそう言うと、シエルは笑顔で「気にしないで」と言った。こうして俺たちはひとまずこの街の宿屋に泊まることになった。


 宿に到着すると、早速アイギスが俺に切り出してきた。


「あの、アレンさん……」


 何やら言いにくそうな様子のアイギス。


「さっきの作戦の話か?」

「あ、はい……お兄さんであるアレンさんにこんなことを言うのは躊躇われるのですが、さっきの作戦、果たして上手くいくんでしょうか……?」


 不安を口にするアイギス。だがそれももっともだろう。

 シエルの言動から察するに、彼女は俺が間違いなくこの作戦に参加すると思っているはず。だが俺の目的はこの作戦に参加することではなく、あくまで彼女を俺たちのパーティに引き入れることだ。故に俺は彼女をどう誘導するかを考えていたのである。


「これはあいつの悪い癖なんだ。細かいところまで考えが及ばず、手痛い失敗をやらかすことがこれまでも時折あったんだ。このままでは、お前が思うように作戦は上手くいかないだろうな」

「では、どうするのですか……?」


 不安げに瞳を揺れさせて問うアイギス。俺はこれ以上アイギスを不安にさせないよう、なるべく彼女の目をまっすぐ見据えてこう言った。


「あいつに現実を知らしめる為に、ナタリアへの潜入調査を提案してみようと思う」

「潜入調査、ですか?」

「ああ。あの街に入り、しっかりとあそこの現状を調べる。あそこはこの国でも指折りの都市だ。ちょっとやそっとの攻撃でダメージを受けるほど軟じゃない。ここに住んでいたあいつだってそれは分かっているはずだ。シエルが成果を焦るばかり現実が見えなくなっているのなら、今のうちに現実を見せてやるのがやはり得策だろうからな」

「なるほど……」


 俺の意見にアイギスは深く頷いた。

続きます!

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