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サキュ俺⑳ 彼女の実力

 大柄のエルフの魔導士は、攻撃が一切俺たちに届かなかったことに驚きを隠せないでいる。すると今度はもう片方の細身の魔導士が前に躍り出て、その手に持つ杖を上空に掲げた。


「怒れる水流よ、やつらを洗い流せ!」


 杖が光り輝く。すると、敵の頭上から大量の水が現れ、俺たちを飲み込もうとこちらに向かってきたのだ。さっきのつららのような打撃攻撃や、威力の低い属性技なら防ぐ自信はあるが、あれを俺の力で跳ね返すのは難しいと言わざるを得ない。危機を感じた俺は思わず声を荒げてこう言った。


「あんな水流まともに食らったら流されるぞ! みんないったん高いところに退避しろ!」

「その必要はないわ、兄さん」


 だがシエルは俺の言葉を遮り、今度は俺たちの前に出ていったのだ。


「シエル!?」

「大丈夫よ。あたしに任せて」


 余裕十分のシエル。どうやら勝算があるようだ。

 シエルは剣を構えたまま目をつぶっている。すると程なくしてシエルの身体が紅く光り輝き出したのだ。それは先ほどの比ではなく、相当な量の魔力を魔術に変換していることがうかがい知れた。

 そして次の瞬間、シエルは目をカッと見開き、敵に向かってこう叫んだのだ。


「燃え尽きろ! 愚かなるエルフよ!」


 シエルが剣を突き出す。するとそこから、猛烈な勢いで真紅の熱線が放たれたのだ!

 一直線に進む熱線。そしてそれが水流と衝突する。


「押し流せ!」


 必死に叫ぶエルフ。しかし、彼の願いとは裏腹に、熱線が水流とぶつかると水はその場から蒸発していき、熱線を止めるどころか勢いを弱めることすらできない。


「なにぃ!?」

「消し飛べ!」


 水流を失ったエルフたちを守るものは何もない。完全に無防備となった彼らに、熱線が容赦なく直撃する! 途端、エルフたちがいた一帯が大爆発を起こし、林の木々もろとも吹き飛ばしてしまったのだ。

 炎の柱が空まで伸び、辺りには爆発による衝撃波が巻き起こった。


「アイギス!?」

「アレンさん!?」


 少し離れていた俺たちもその衝撃の大きさに身体が飛ばされそうになったが、地面に伏せなんとか爆風を耐えた。


 そして数十秒後、ようやく爆風が止むと、俺たちは爆発があった方の様子を知ることができた。

 エルフたちがいたところは、文字通り荒野と化している。そこはエルフどころか、生物の息吹など一切感じることができないほどの有様になっていた。


 荒野をバックに、シエルが俺たちの方を向く。彼女はドヤ顔で俺を見つめていた。そのあまりに無邪気な表情と目の前で起こった衝撃の大きさがマッチしていなくて、俺は思わず苦笑いしたのだった。


「……お前、相変わらず目茶苦茶だな」

「兄さんがいない間もちゃんと鍛錬を積んできた成果よ」


 呆れを半分含みながらそう言ったのだが、シエルは特に気にも留めていないようだった。

 実際、シエルの魔術の威力は俺がいた3年前と比べても段違いだった。元々センスはピカイチだった彼女だが、恐らくこの3年間で相当な努力を重ねてきたのだろう。

 俺は立ち上がり、シエルの方へと向かう。そして、そんな彼女の頭を軽く撫でてやった。


「ちょ、ちょっと兄さん、恥ずかしいわよ……」

「まあそう言うなって。さっきは灸を据えてしまったが、あんなのを見せられたら褒めない訳にもいかないだろ?」

「あ、うう……ありがとう、兄さん」


 そうやって照れているところは3年前と変わっていない。それに関しては、俺は少しだけ安心したのだった。


「……と、忘れてた。アイギスも大丈夫か?」


 今の攻撃のインパクトのせいで少し忘れていたが、まだアイギスは地面に突っ伏したままだったのだ。俺はアイギスの元へと駆け寄り、手を差し出した。


「大丈夫か?」

「は、はい、なんとか……」


 アイギスは爆発のせいで顔がすっかり汚れてしまっていた。俺は荷物から布巾を取り出すと、それで彼女の顔を拭ってやった。


「だ、大丈夫です! 自分でできますから!」


 すると彼女は顔を赤くさせてそう言ったのだ。


「そ、そうか?」


 別にそれぐらいやってやってもよかったのだが、彼女がそう言うのなら無理強いしても仕方がない。俺は布巾をアイギスに手渡した。そして俺は再びシエルに向き直って言った。


「とりあえず、追っ手を仕留められてよかったな、シエル」

「え、ええ、そうね……」


 そう言いながらも、何かが引っかかるのか、浮かない表情をしているシエル。


「どうかしたか?」

「……い、いえ、別に。兄さんも相変わらず素晴らしい動きだったわ。3年のブランクは感じないわね」

「そうでもないさ。全盛期に比べたらまだまだだ。あと、アイギスの魔力生成もなかなかのものだっただろう?」


 戦いは魔力生成が得意な魔術師がいて初めて成り立つもの。今回だって、俺たちが魔力生成が苦手な分、アイギスが頑張ってくれたんだ。その労はやはりねぎらってしかるべきだろう。


「……ええ、そうね。ありがとう、助かったわ」

「いえ、これぐらい別に……」

「あなたのテンプテーション、見せてもらったわ。あんな簡単に男たちを骨抜きにできるなんて凄い能力ね。またよろしくね」

「……は、はい」


 俺の意図とは裏腹に、どこかぎこちない二人の会話。そしてシエルのアイギスを見る目に少し棘を感じたのは、果たして気のせいだったのだろうか……? 俺は僅かに頭が痛くなるのを感じていたのだった。



 戦いが終わり、シエルが俺たちを連れてきたのは、なんと目的の街サレルナであった。サレルナの街はリインフォースよりも少し規模が大きく、人の数も多い。だが、やはり物流やものの生産能力には難があるのか、店先にある商品の値段は非常に高く、職にあぶれていると思われる人たちが散見された。どこも厳しい状況にあるのは変わりがないのだろ。


 俺たちはサレルナの中心街にある3階建ての建物の一室に案内された。そこには10人近くの魔術師と思われる者たちがおり、皆で戻ってきたシエルを出迎えた。


「お疲れ様ですシエルさん! 今回の作戦はどうでしたか?」

「首尾は上々よ。今日は教会を爆破してやったわ」


 そう言うシエルを、仲間たちは讃えている。


「…………」


 一方一瞬ではあったが、アイギスの表情が険しくなるのを俺は見逃さなかった。いくら相手がエルフとはいえ、自分と同じように神に祈りを捧げる人間を無差別に襲うことを、彼女は看過できなかったのかもしれない。

続きます!

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