サキュ俺⑲ 爆炎の魔術剣士
俺たちの元にエルフが迫り来る。どうやら彼らはナタリアから追いかけてきたらしい。
彼らを見てシエルがギリっと奥歯を噛む。
「しまった、こんなところで油売ってる場合じゃなかったのに……」
「すまん、これに関しては俺たちにも責任はある。だが今は後悔をしている場合じゃない」
俺はすぐさま短刀を抜き臨戦態勢に入る。
「とにかく戦うぞ。アイギス、魔力生成を頼む!」
「は、はい!」
俺の指示を受けアイギスが魔力生成に取りかかろうとする。俺はそんな彼女に念話で追加の指示を出した。
『あと、毎回で悪いが、アレも頼む』
『わ、分かりました!』
それは彼女にとっては不本意な役目のはずではあるが、それでもアイギスは覚悟のこもった表情で俺に対し深く頷いてみせたのだ。
「顔を見られたからには、帰すわけにはいかない。お前たちはここで朽ちゆけ!」
シエルが剣を抜き、鋭い眼光で彼らを睨みつける。彼女の見てくれこそ可愛らしいが、シエルは勇者パーティ時代から「鬼神」の異名を持っていたくらい威圧感は群を抜いていた。そんな彼女に睨まれては普段通りの動きをすることなど到底不可能であるだろう。
ちなみにシエルはクラスとしては魔術剣士に該当する。魔術剣士は普通の剣士と同じように剣の技術に長けているだけでなく、魔導士のように属性技を繰り出すこともできる、まさにいいとこ取りのクラスなのだ。
だがその分どちらも中途半端ということにもなりかねず、実力のない魔術師では逆に足手まといになることもあるのだ。
しかし、シエルは無論そうではない。俺と同じく勇者パーティで前衛や中衛といった攻撃的なポジションを担当していたのだから、それは当たり前ではあるが。
「シエルさん! 魔力石です!」
「ありがとう」
大量の魔力を必要とするシエルに対し、アイギスは生成した魔力石を転送する。さっきまで2人は言い争っていたが非常時である今はそんなことをやっている場合ではない。2人は一時休戦し、共にエルフたちと相対した。
「やつらを生かして帰すな! これ以上街を攻撃されるわけにはいかん!」
一方こちらは殺気十分の5人のエルフたち。3人は近接戦闘を得意としているのか、後方に2人の魔導士を残し、その3人は各々武器を構えて俺たちに狙いを定めている。
「アイギス」
「はい!」
俺の合図で俺たちの前に躍り出るアイギス。アイギスは既にベールを外している。そして目の前には男のエルフが3人。それが何を意味するかは、もはや言わなくてもわかるはずだ。
「な、なんだ……?」
今の今まで殺意を惜しげもなく垂れ流していたにも関わらず、彼女の美貌並びに色香に魅了された彼らは、次の瞬間には戦うことなど忘れ、目の前の美少女を犯すことだけに意識を集中させてしまっていた。
いったいこんな光景を何度見ただろうか? いつもながら、サキュバスのテンプテーションの効力の強さには恐れ入る。並みの魔術師ではあれに対抗することなど到底かなわないだろう。
「う、うう、うおおおお……!」
ついに男たちは正気を失い、がむしゃらにアイギスに飛び掛かる。
「な!?」
アイギスのテンプテーションを見慣れていないシエルがエルフの変貌ぶりに驚愕している。だが気持ちは分かるが立ち止まっている場合ではない。今はまずアイギスをひっこめなければならないのだ。
「シエル! ボサッとするな!」
俺は瞬時に男たちとアイギスの間に割って入り、短刀でエルフたちを切りつけた。
「うげぇ!?」
敵の傷は深くないが、各々の手を重点的に切り裂いた為、もう彼らは武器を持つことはできなくなったはずだ。
「アイギス!」
「はい!」
俺はアイギスの手を引き、彼女を後方へと下げる。そしてシエルに対し号令を出した。
「一気に行くぞ!」
「わ、分かったわ!」
シエルは気合の入った声で俺に応えると、彼女は剣を上空に突き上げた。すると、剣の先に赤い球が数個出現したのだ。それはシエルの得意とする炎属性の魔術によるものであった。
「はあああ!」
雄叫びと共に、シエルが剣を振り下ろす。それと同時に頭上の火球が撃ち出され、一直線にエルフの元へと向かう。そしてエルフの身体に触れると、それは大爆発を起こしたのだ!
耳をつんざくような炸裂音に俺とアイギスは思わず耳を塞ぐ。数刻の後、炎と煙が晴れると、爆発を起こした場所にはもうエルフ3人の姿は全く残っていなかったのだ。
「相変わらずのバカ魔力だな……」
俺は思わずそんなことを漏らす。
「兄さん! バカは余計!」
口を尖らせて俺に抗議するシエル。
「すまんすまん、ついな」
だがあれだけの破壊力を見せられたら、そう言いたくなる気持ちもわかると思う。あんなのを自分が食らったらと思うとゾッとする。
俺たちの連携を前にあっさり3人のエルフが倒され、残り2人は恐怖の色を隠せない。それでも彼らは決して逃げ出さず、尚も俺たちに立ち向かってくる。
彼らは手に杖を持っている。魔導士は近距離戦闘には適していない。故に、俺たち2人が彼らに接近することができれば勝負は決したも同然だ。だがそれは彼らが簡単には許さないだろう。彼らは死に物狂いで遠距離攻撃を仕掛けてくるはず。俺たちはそれらを全て躱し、一気にチェックをかけなければならないのだ。
「アイギス、魔力石を頼む!」
「ここでカタをつけるから、ありったけのを頼むわよ!」
「了解です!」
俺とシエルの無茶振りにもしっかり対応してくる辺り、俺はアイギスの成長は目覚ましいと思う。やはり前回の死闘が経験値となっているのだろう。
敵の魔導士が魔力生成を行い、彼らの手に魔力石が出現する。数は多くないが、攻撃を行うには十分だ。できれば攻撃を出される前にやつらを倒してしまいたかったが、こうなってしまっては仕方がない。まあ、攻撃を出されたところで、それを一つも受けなければいいだけの話だ。
「この人間風情が!」
大柄なエルフの魔導士が大声を上げ杖を掲げる。すると彼の杖の先からは大量の巨大な”つらら”が現れたのだ。どうやらやつは氷属性の魔術を得意としているらしい。
無数のつららがこちらに飛んでくる。
「つららが飛んで来ますよ!?」
それを見てアイギスが慌てる。
「大丈夫だ。この程度なら、まったく問題ない!」
俺はそんなアイギスを落ち着けるようにそう宣言し、そしてつららに向かって飛び上がった。
「おらあ!」
俺はつらら目掛けて手にした短刀を連続して振るう。すると大量のつららは悉く砕け散っていった。短刀に直接砕かれたものもあれば、短刀から起きた風圧の刃によって砕けたものもあった。ただどちらせよ、つららが俺たちの身体に到達することは全くと言っていいほどなかったのであった。
続きます!