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サキュ俺⑱ シエルVSアイギス?

「あ、アレンさん、急に出ていかないでくださいよ!」


 俺に遅れて到着するアイギス。すると、なぜか今の今まで笑顔だったシエルの表情が若干曇った。


「…………」


 シエルは明らかに「誰この女?」といった感じでアイギスを訝しがっている。理由はよくわからんが、何やら不穏な空気を感じたので、俺は思わずこう言った。


「シエル、この子はアイギスといって、俺と一緒にパーティを組んでいるんだ」

「パーティ? あの陰キャの兄さんが、女の人とパーティを……?」

「妹にまでそう言われると傷付くわ……」


 あんまりなシエルの言い草に俺は思わず項垂れてしまう。俺は項垂れたまま、とりあえずアイギスに自己紹介を促した。


「えっと、アイギス・アッシュベリーといいます。アレンさんとは先日からパーティを組ませていただいています」


 にこやかに自己紹介をするベールを浅めに被ったままのアイギス。だが、相変わらずアイギスを見つめるシエルの表情は厳しいままであった。

 シエルはアイギスの全身をくまなく観察する(主に顔と胸に視線を注いでいるような気がしないでもない)。すると、シエルが何かに気付いたのか、不意にアイギスにこんなことを尋ねたのだ。


「あなた、何者……?」

「え……?」

「隠さないで。あなた、人間じゃないでしょ? あなたの種族を教えてちょうだい」


 シエルがそう言うと、アイギスは一瞬表情を曇らせた。だが、すぐにベールを外してシエルの問いに答えた。


「私は、一応、サキュバスです……」

「な!? サキュバスって、あなたテンプテーションで兄さんをたぶらかしたんじゃないでしょうね!?」

「ち、違います! 実はアレンさんは……」


 どう説明していいか分からないのか、アイギスは露骨にあたふたしてしまう。見捨てるわけにもいかないので、俺はすぐに助け舟を出した。


「安心しろ、俺にはテンプテーションは効かない。だからたぶらかされたりはしてねえよ」

「そ、そうなの? まあ、兄さんならそれもあり得るわね……あなたのテンプテーションのせいじゃないのなら、別にいいのだけど」

「それより、アイギスが自己紹介したんだから、今度はお前も自己紹介しろよ」


 俺がそう言うと、シエルはいやいやながらも自己紹介を始めた。


「……シエル・ダイよ。兄さんとは、昔から本当の兄妹のようにいつも一緒だったわ」

「え? 本当の、ということは……」

「ああ、俺たちには血のつながりはないんだ。俺たちは孤児院の出身でな。そこで俺たちは家族として一緒に過ごしたんだ」


 俺の言葉にシエルが頷く。俺が初めてシエルと出会ったのは俺が10歳の時だ。その時シエルは6歳で、それから俺たちは2人で行動することが多かったんだ。


「そういうこと。それで、兄さんはなぜこの子をパーティに連れているの?」

「この子の回復魔術は規格外なんだ。俺の吹っ飛んだ腕も修復できるくらいだし」

「それはすごいわね……って兄さん腕吹っ飛んだの!?」


 驚愕するシエル。まあ、腕が吹っ飛んだなんて言ったら驚くのも当然なんだろうが。


「これまでも確かに散々怪我してたけど、まさか腕まで飛ぶなんて、なんて無茶なことするのよ」


 そう言うシエルは少し怒り気味だ。


「わ、悪かったよ、ちょっと熱くなりすぎちまってな……まあでも、結果的に一個小隊を退けられたんだから結果オーライだって」

「そういう問題じゃないんだけどね……」


 頭を抱えるシエル。これ以上この話題を続けるともっと怒られかねないので、俺は話題を変えることにした。


「そうだ、それで俺たち、今パーティメンバーに加わってくれる魔術師を探してるんだが、お前なら適任だから、俺たちのパーティに入ってくれないか?」

「うーん、入りたいのは山々だけど、今はここを離れられないのよね……」


 シエルの返答は芳しくない。とりあえず俺は、彼女がここで今どんな活動をしているのか尋ねた。すると彼女はこう答えたのだ。


「無差別攻撃よ」

「は?」


 シエルの言葉に俺たちは思わず固まる。だがシエルは決してふざけているわけではなく、いたって真面目にそう答えたのだ。


「なんでお前が無差別攻撃をやるんだ?」

「そんなの、抵抗の意を示す為に決まっているわ」

「そ、そんなのダメですよ! 無差別に人を襲ったってこの状況は何も変わりません!」


 不意に、普段は温厚なアイギスが珍しく語気を強めて俺たちの会話に割って入ってきた。すると案の定シエルは不機嫌さ丸出しでアイギスに応じたのだ。


「は? じゃあこのまま手をこまねいていろって言うの? エルフどもに祖国を奪われて、あなたは悔しくないの?」

「悔しいですよ! 大切な人も捕らえられて、本当に悔しいです! でもそれとこれとは話は別です。非戦闘員のエルフも、我々の暮らしを奪っている以上無関係ではありませんが、それでもむやみやたらに彼らの命を奪う行為を正当化するべきではないと思います!」


 ヒートアップする2人。ただでさえファーストコンタクト時の印象が良くない2人だ。このまま言い合いを続けさせれば確実に酷い喧嘩になる……。故に俺はひとまず2人の間に割って入った。


「ストップ! 2人ともこんなところで喧嘩なんかしてる場合か? シエルもだがアイギスもいい加減にしろ。お前らしくないぞ」

「す、すみません……」


 俺の言葉を受けて我に帰ったのか、アイギスは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

 一方シエルは相変わらず納得がいっていない様子だが、こいつの場合、簡単には自分の考えを曲げないのでこれ以上言っても無駄だ。俺はまた話題を変えてこう提案することにした。


「シエル、とりあえず詳しい話を聞かせてくれ。こんなところじゃなんだし、お前のアジトに案内してくれると助かる」

「わ、分かったわ。それじゃ案内するからこっちに……」


 そう言いかけてシエルが止まる。その理由はシエルだけでなく、俺やアイギスも理解していた。


「貴様ら! 見つけたぞ!」


 俺たちの視線の先には数名のエルフ。彼らは俺たちを見つけると、すぐにこちらに向かって走り出した。一波乱ありそうなのは、どうやら間違いなさそうであった。

続きます!

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