サキュ俺⑰ 再会! シエル・ダイ!
ついに新キャラ登場!?
「ふう、ようやく到着しましたね」
「ああ。そう言えば、あっちの小高い丘からナタリアの街並みが見渡せたはずだ」
「そうなんですか。では行ってみましょう!」
相変わらず元気なアイギスが丘の方へと駆けて行く。俺は疲労のせいで重くなった足をなんとか前に進め、彼女の後を追いかけた。
「うわー! 奇麗ですね!」
丘の上で赤色の屋根の統一感のある街並みを見ていい反応を示すアイギス。かくいう俺もこの景色を見るのは5年ぶりくらいなので、アイギスほどではないが、この美しい景色にはある程度の感動を抱いたものだった。だがその一方、所々に破壊された建物があるのも俺たちの眼は捉えていたのである。
「この街もやはり魔王軍に攻撃されたんでしょうか……?」
寂しそうな目で崩れた建造物を見ながら、アイギスは俺にそう問う。
「だろうな。これだけの規模の街をやつらが放っておくはずがないからな」
この調子では、やはり街は全て魔王軍に占拠されているのだろう。この状態のこの街に俺たちの協力者たり得る人間がいる可能性は恐らくかなり低いだろう。まあ、王都やバレイルといった大きな都市が占拠されている以上、この街が無事であるという可能性は低いのは分かっていたのではあるが。
と、それは俺たちが引き続き街を見ていた時のことだ。
なんと、突然街の一角で爆発が起きたのだ!
「きゃあ!?」
「なんだ!?」
爆発音は少し距離の離れた俺たちの鼓膜すらも震わせた。すると、その爆発により発生した煙の中から何者かが飛び出してきたのを、俺は見逃さなかった。
「あれは……まさか!?」
煙の中から飛び出してきたのは、ピンクのリボンで結わえたライトブラウンのロングツインテールが特徴的な、手には長い剣を持った少女であった。
ぱっと見ではあったが、俺はその少女に確かに見覚えがあった。スカーフのようなもので目から下を隠しているせいで顔が全て確認できたわけではなかったし、あれから3年も経っているせいで俺の知っている彼女よりも些か大人びてはいたが、ビジュアルと鋭い眼光が特徴的なあの目元は間違いない。
「シエル!」
それは俺の妹、シエル・ダイその人だったのだ。そんな彼女を見て、俺は居ても立っても居られず、思わずアイギスに向かってこう叫んでいた。
「追いかけるぞ!」
「ええ!?」
訳もわからず混乱しているアイギスの手を引っ張り、俺たちはシエルと思しき少女の後を追いかける。
彼女は物凄いスピードで追手から逃げている。それはとても少女の走る速度ではなかった。だが、彼女が俺のよく知るあの子であるのなら、それも頷けるというものだ。
しばらく追うと、少女は人気の少ない林の中で立ち止まり、辺りをキョロキョロ見回し始めた。すると追っ手を撒いたと思ったのか、彼女はスカーフを外し、そして安心したように笑顔を見せたのだ。
「やっぱりシエルだ」
それはやはり俺の思った通り、シエル・ダイ本人であった。彼女は俺が知るように、丈の短めなワンピース状の衣装に身を包み、足には白色のニーハイ、肩には銀色の防具をつけ、背中につけた白いマントを風にはためかせていたのである。
俺が彼女と最後に会ったのは、この国を飛び出す少し前のことだ。あの時彼女は、俺が勇者パーティをクビになったことを不服として、勇者に抗議するとまで言ってくれたのだ。だが、俺は彼女の将来を考え、それは思いとどまらせた。せっかくここまで上り詰めたのだし、出来の悪い兄の為に自分の立場を捨てる必要はないと俺は彼女に言ったのだった。
あれから彼女がどのような道を歩んできたのか俺は知らない。出来ることなら今すぐ彼女の元へ走り寄り、彼女と言葉を交わしたかった。だが、今俺はどうしても彼女について気になることがあった。
今現在、彼女が恐らく思っているように、確かに辺りにはエルフの姿は見当たらなかった。だが彼女は気を抜いているのか、近くにいる俺たちのことにすら気付いていなかったのだ。もし俺たちがエルフで、油断した彼女を襲おうと考えているとしたら、そんなのんきな様子で彼女はいったいどう敵に対応するつもりなのだろうか? あれだけ街で派手に爆発騒ぎを起こしておいて、街から少し離れたところに来たぐらいで油断するのは早計にすぎるのではないだろうか。
昔から俺は彼女に、「目に見える範囲のことだけを考えるのではなく、あらゆる可能性を考慮し最善の方法を考えろ」と口酸っぱく言ってきた。だがどうやら今の彼女にはそれがまだ欠けているらしい。それならば、兄として教育的指導を施す必要があるだろう。
「アイギス、お前はちょっとここで待っててくれ」
「え!? アレンさん!?」
混乱の只中にいるアイギスを一人残し、俺は物陰から勢い良く飛び出す。そして一直線にシエルに向かって走り寄ったのだ。
「隙あり!」
「なに!?」
俺はすかさず手にした短刀でシエルに斬りかかる。焦るシエル。それでも彼女は長剣を抜き、俺の攻撃を防いだのだ。
敵であるところの俺を、シエルは元々鋭い視線を更に鋭くさせ睨みつけた。しかしすぐに、斬りかかってきた相手が誰か分かると、シエルは途端にその表情を一変させたのだ。
「え!? ま、まさか、本当に兄さんなの!?」
驚きに満ちた声でそう口にするシエル。俺はニヤリと笑みを作り、彼女の剣と交わっている自身の短刀をひっこめた。
「油断大敵だ。自分の家に帰るまでが作戦だとあれほど言っただろうが」
「あ、うぅ……」
せっかく再会した兄貴のあんまりな言い草に、シエルが口ごもる。俺はそんな彼女の様子が面白くて思わず吹き出してしまった。
「ちょっと兄さん!?」
「あはは、悪かったよ。久しぶりだなシエル」
「う、うん、久しぶり。ところで、どうして兄さんがここに? 確か……」
「『この国から逃げ出したはずじゃ?』か?」
俺は意地の悪い笑みを浮かべてそう言う。
「兄さん、その言い方はよくないわ……」
すると、シエルはまるで子供のようにむすっと膨れてみせた。
「悪かったって。機嫌なおしてくれよ」
俺は笑みをたたえたままそう言った。すると、俺の笑いにつられたのか、いつしかシエルまで笑い出し、俺たちは互いに笑い合っていたのだ。
それからしばらくして落ち着きを取り戻すと、俺たちは見つめ合ったままこう言葉を交わした。
「ただいま、シエル」
「おかえり、兄さん」
俺たちは三年ぶりの再会を分かち合うのだった。
続きます!