サキュ俺⑯ 新たなる旅路
新章突入です!
主にアイギスのせいで色々とすったもんだはあったが、それから2日後、俺たちは旅の準備を整え別の街に魔術師をスカウトしに行くことにした。
目指すはここより北にある街・サレルナだ。そこはリインフォースと同じく魔王軍から逃げた人間たちが集まっていて、町長曰く、そこにはここよりも腕利きの魔術師がいるとのことだ。
「そこに行く前に、ちょっとナタリアを覗いていきたいんだがいいか?」
「え? いいですけど、何か用事でもあるんですか?」
ちなみにナタリアというのはある街の名前だ。そこはサレルナにほど近く、王都には及ばないものの、人口は10万人近くおり、十分に大都市と言える規模であった。
「実は勇者パーティに入る前はそこに住んでたことがあるんだ。街の状況が今はどうなっているかはわからんが、あの近くまで行けば、もしかしたら誰か知り合いにでも会えるかもしれないと思ってな。実力のある魔術師なら国を取り戻す為に助力を願えるかもしれないしな」
「なるほど。そういうことでしたらそこに寄りましょう。無事な方がいらっしゃればいいですね」
「ああ、そうだな」
こうして俺たちはリインフォースを発ち、旅路についた。ここからナタリアやサレルナまでは徒歩で4日程度の道のりだ。馬車を使えればもっと早く着けるのだろうが、これだけエルフの監視がある中を行くのだから当然目立つわけにはいかない。それにそもそも、貧しいリインフォースには馬車などないだろうしな。
ところで、何度も言うが、俺たちはある程度の猶予を与えてもらっているとはいえ、時間がないことには変わりがないんだ。この前砦を攻略し、魔王軍も相当憤っているはずだ。もし次に、リインフォースにエルフの大軍勢でも送り込まれでもしたらそれこそひとたまりもない。そうなる前に、少しでも俺はパーティメンバーを増やさなければならないのだ。俺たちはそんな強い覚悟の元、旅路を急ごうとしていたのである。
「あっ!?」
だが1時間も歩かないうちに、突如としてアイギスが妙な声を上げた。俺は訝しがって尋ねた。
「突然どうした?」
アイギスは背負ってきたリュックの中を必死な様子で漁っている。
「どうした? 何か大事なものでも忘れたか?」
「スープが……」
「は? スープ?」
「あのスープの材料を一式忘れてきてしまいました! これは一大事です! すぐに……すぐにリインフォースに戻りましょう!」
そう叫びながら本当に元来た道を引き返そうとするアイギス。さっきまでの強い覚悟は一体どこに行った? 俺は思わず語気を強めてこう言った。
「アホか! こんな衆人環視の中そんなものの為に戻れるか! ちょっとぐらい我慢しろ!」
「いやですー! いーかーせーてーくーだーさーいー!」
「子供かお前は!?」
俺は有無を言わさずアイギスの手を引く。当初アイギスは全力で抵抗を示したが、やがて俺が全く聞く耳を持っていないことを察したのか、最後にはしょんぼりしたまま俺の隣を大人しく歩き始めたのだった。
「スープが、スープがぁ……」
「やかましいな。とりあえずサレルナに着くまで我慢しろ」
「うぅ……」
……しかし今思えば、この時の俺の決断は大いに間違っていたとハッキリ言える。多少の危険を冒してでも、やはり俺はアイギスにスープの素を取りに行かせるべきであった。そうすれば、俺はあんな目に遭わないで済んだのだ……。
--偉大なる神イリアよ、本能に抗えない愚かな私めを、どうかお許しください……。
--アレンさん、いい子ですね。このまま、好きに出しちゃってくださいね……。
その夜、俺は何やらアイギスのそんな甘い声を聞いたような気がしたが、どうにも記憶に靄がかかっていて思い出すことができなかった。覚えていることとしては、あのスープを作れなかったせいで、アイギスが普段は持ち合わせている常識や恥じらいをかなぐり捨ててまで俺に詰め寄ってきたということだけだ。
意志の弱い男なら、甘んじてその状況を受け入れたのだろう。だが俺はそうじゃない。パーティの仲間に性的な奉仕をしてもらうなど言語道断だ。俺たちのパーティはクリーンでなければならない。それが俺とあのクソ勇者との差だ。そこだけは絶対に譲ってはならないだろう。
「ところで、お前何やら調子が良さそうだが、何か良いことでもあったのか?」
俺は隣でスタスタ歩くアイギスに対して尋ねた。
「ええと、世の中には知らなくていいこともありますから……」
「なんだそりゃ? どういう意味だ……?」
「わ、私も、昨日はどうかしていたと思います! 今思えば本当に恥ずかしいですし、なんてことをしてしまったのだと思いますし……」
アイギスは顔を真っ赤にさせ、恥じらう乙女のようなそぶりを見せる。本当に一体こいつは俺に何をしやがったんだ……?
「ですが、やはり本物は全然違いました。まさかこんなに、身体に力がみなぎるとは思ってませんでしたし……」
何やらごにょごにょと口走るアイギス。
「お前さっきから何言ってんの……?」
「な、なんでもありません! これは乙女の秘密です! 詮索は厳禁ですよ!」
「あっそ……」
出来ることなら俺も知りたくないので、俺はもうそれ以上尋ねることはしなかった。
「どうやらあの睡眠薬、記憶も消してくれるみたいですね……」
不吉なことをアイギスが呟いていたが、もう俺は全て無視を決め込むことにした。あの夜、俺たちの間には何もなかった。それが紛れも無い真実なのだ。うん……。
しかしその後は別段トラブルもなく、俺たちは無事にナタリア付近までやって来ることができたのであった。
続きます!