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サキュ俺⑭ ど天然サキュバス「だってエッチなことはしてないんですよね?」

 ……だが、彼女は勇者と結婚した。他国の王子との政略結婚の話も出ていた彼女だが、まさかあのリオンと結婚するとは夢にも思っていなかった。

 勇者リオンは、確かに逆玉を狙うほどの策略家だった。そんなやつが、勇者という立場を利用し、自分の権力の為にルイーズ様との結婚を希望し、無理やり思いを成し遂げた可能性だってある。……いや、むしろそうとしか考えられない。俺は必死にそう思い込もうとしたのだ。


「なあ、アイギス、お前は王女様と勇者が結婚していたことを知ってたか?」

「はい。お二人はおしどり夫婦として有名でしたからね」

「おしどり夫婦ねぇ……」


 モヤモヤが止まらない。するとそんな俺を見て、アイギスは何かを察したようであった。


「な、なんだよ……?」

「アレンさん、もしかして失恋ですか?」

「いつも思うけどお前って本当ストレートだな……」

「それはお互い様じゃないでしょうか?」


 あっけらかんとした様子のアイギス。俺は思わず溜息をついた。


「それで、実際どうなんですか?」

「そんなこと俺にも分からん……」

「お悩みでしたらご相談に乗りますよ? 私で参考になるかは分かりませんが」


 正直、こんな恥ずかしいことは人にベラベラ喋るようなことではないような気もするが、このままでは俺の心のモヤモヤは晴れそうもなかった。やむなく俺は、恥を忍んでルイーズ様とのことをアイギスに洗いざらい話すことにした。


 ぶっちゃけてしまうと、俺はルイーズ様と添い寝をしたり、平民の立場でありながら何度か口づけを交わしたこともあった。……だが、チャラい陽キャのカップルがホイホイするような卑猥なことなど俺はしたことはなかった。


『他の国の王子様のお嫁さんになるくらいなら、あなたと海外に逃げるのも面白いかもしれないわね』


 と、彼女に言われたこともあった。そして俺は国を出る際、最後に彼女と会い、「いつか迎えに来ます」とまで言ったのだ。

 それを踏まえ、アイギスがなんと答えるのか、俺はやきもきした思いで待っていた。するとアイギスはサラッとこんなことを言ったのだ。


「失恋ですね」

「あ、このサキュバス容赦ねえ」

「とは言っても、あくまでお話を聞いた限りはですけどね。だってアレンさん、王女様とエッチなことはしてないんですよね?」

「し、してねえよそんなこと! 王女様とそんなことできるわけねえだろ! ってか別にエッチなことが全てじゃねえだろ!」

「それはそうですが、やはりそのあたりの繋がりがないと恋人と呼ぶには早い気がします。まあ、私も経験はありませんので、あくまで想像の域を出ませんが」


 ぐうの音も出ない。実際俺たちは別に恋人までには至っていなかったと思うし。


「でも仕方ないですよ、3年間も綺麗な女性を放っておいたら他の方にとられることもありますって」

「そうかもしれねえけど、でも、それがよりによってアイツだなんて……。しかも2年前に結婚したってことは、少なくともそれ以前からそういう話はあったってことだろ?」


 今の俺は一体どんな顔をしているのだろうか? もし今自分の顔を鏡で見たら、恥ずかしさのあまり鏡を割ってしまいそうな気すらしてしまう。

 アイギスはうーんと唸り、こう答えた。


「そうかもしれませんが、王女様のご結婚に関しては政治的な要因もありますので一概にはなんとも言えませんね……」


 言葉を濁すアイギス。もしかしたら俺が今にも泣き出しそうな顔をしていたせいでトドメをささなかったのかもしれない。


「とにかく今のままでは推測することしかできません。王女様のお気持ちを知るためには、王都まで行って彼女を助け出すしかありません。今はこの国を取り戻すことだけを考えましょう」

「そうだな……」


 アイギスにそう言われ俺は渋々納得した。と言うか、今の俺には無理矢理にでも納得するしか前を向くことはできないのだった。


「それにしても、魔王軍はなぜ王様達を生かしておくのでしょうか?」


 アイギスは話題を変えてそう尋ねた。正直それについては俺も腑に落ちていなかった。


「分からん。普通なら、真っ先に殺すはずなんだが」

「……もし、王様達を人質にしてこられたらどうします?」


 アイギスは恐る恐る俺にそう尋ねた。

 正直それは答え辛いことだった。それでも、今後それは想定し得ることだ。もしそうなった場合、アイギスが迷うようなことがあってはならない。故に、答え辛いことであっても、俺は明確な回答を示すべきなんだ。

 若干の沈黙の後、俺は彼女にこう答えた。


「王様達は守りたい……だが、まずはこの国を取り戻すことが先決だ。その為には、ある程度の犠牲は仕方ないかもしれないな……」


 俺の言葉に対し、アイギスは唾を飲み込み、静かに頷いたのであった。



 重苦しい空気が立ち込める中、それを打ち破るように明るい口調でアイギスが言った。


「そうだ、お疲れかと思いますので、今日は私がご飯を作りますね」

「お前だって疲れてるだろ?」

「私は良いんです。アレンさんより若いですから」

「3歳差なんて誤差の範囲だろ……」


 俺が20歳であるのに対し、彼女は17歳だ。正直15歳で大人と認められるようなこの国において、俺たちの年齢などほとんど差がないも同然だ。

 まあそれはそれとして、せっかく作ってくれるのなら甘えてもいいだろう。実際町人の相手をして俺はもうヘトヘトだったしな。

 ということで、俺は新居での最初の料理をアイギスに頼んだ。ちなみに食材は役場側が用意してくれていた。


 調理場に立つアイギス。俺はせっせと手を動かすアイギスに尋ねる。


「お前、料理なんてするんだな?」

「一人暮らしですからね」

「いつから一人暮らしなんだ?」

「学校を卒業したのが15歳なんでそれからですね。もう2年以上です。でも、実家で母の手伝いをしていたので、料理は慣れっこでした」


 アイギスは力瘤を作っておどけて見せる。


「お前の母ちゃん見てみたいな。サキュバスって年齢重ねてもそんなに見た目変わらないんだろ?」


 俺がそう言うとアイギスは首を横に振った。


「いえ、母といっても、その人は私を拾って育ててくれた方なので、彼女はサキュバスではなく人間です」

「そうなのか。両親は亡くなったのか?」

「はい。ここではない違う国で迫害を受けて殺されました。私は1人になって各地を彷徨っていたのですが、そんな時に私を助けてくれたのが母だったんです」


 暗い過去を語っているはずなのに、アイギスの表情は明るい。辛いこともあったのかもしれないが、お母さんとの思い出はきっと楽しいことばかりだったに違いないと、俺はアイギスの顔を見ながら思った。


「私は母に沢山恩返しをしたいんです。だから、必ずこの国を取り戻して、母を助け出してみせます」

「そうだな。きっと助け出そう」

「はい!」


 そうして俺たちは2人で笑い合ったのだった。

続きます!

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