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サキュ俺⑬ アレンの秘め事

 リインフォースの街は俺たちの活躍により物流が多少回復し(あくまでも闇取引ではあるが)、また近隣の農場を取り戻すこともできた。


 病院を退院すると、俺たちは町長のみならず数多の町人の祝福の渦に飲み込まれた。

 感謝されるのは、まあ一応ありがたい。だが自他共に認める陰キャの俺としては、どうにもこういうシチュエーションは慣れないのだ。というわけで……


「アイギス、任せた」

「え!?」


 俺は早速この状況をアイギスに丸投げしようと試みた。だが……


「ダメですよ! 私はテンプテーションがあって、あんまり人前には出られないんですから!」

「ちっ、しゃーない……」


 作戦は敢え無く失敗となった。俺は止む無く町人と相対し続ける羽目になった。


「アレンさん!」

「は、はい」

「まさかあの砦を破るなんて驚きました! 本当にありがとうございます!」

「ど、どうも……」


 握手の求めに応じる俺。さぞかし手汗をかいていたのではないだろうか?


「アレン、やっぱりあんたは俺が見込んだ通りの男だったよ! あんたみたいな男が勇者パーティをクビになるなんておかしいと思ってたんだ!」

「よく言うわ。散々俺のこと馬鹿にしてたくせに……」


 それは最初にこの街に来た時に俺のことを思い切り鈍器でぶん殴り、ついでに俺に風評被害をもたらした男の内の1人であった。熱い掌返しとはまさしくこのことである。


 とまあ、こんな感じでほとんどこっちから話しかけるようなことはしなかった訳だが、これでも俺としては頑張った方だと思う。出来ることなら二度とこういうことはやりたくないものだ。


「ふー、終わった……早く役場に帰ろう」

「あ、待ってください、アレン殿」

「ま、まだ何か……?」


 今の俺は露骨に嫌そうな顔をしているだろうが、寛容な町長はそれに対して嫌な顔一つ見せずにこう言った。


「この街を救ってくださった恩人をまた役場の小さなベッドに寝かせるわけにもいきません。ささやかではありますが、アレン殿には新しいご自宅を用意させていただきました。今日からはそちらの方にお住まいいただければと思います」

「え!? それは本当ですか!?」

「もちろんです。役場の目の前にある共同住宅の一室にはなりますが、一番広い部屋をご用意いたしましたので、本日よりそちらでお過ごしください」


 そう言って、町長は俺に部屋の鍵を渡した。どうやら本当に俺の為に家を用意してくれたようだ。

 勇者パーティ時代も、確かにそういったものはあった。だがあの時は、勇者パーティ用に丸々建物を一棟くれた訳で、基本的にパーティメンバーと仲の良くなかった俺は、わざわざ少し離れた場所で同じくパーティメンバーであった妹と2人で家を借りていた。しかもその家への補助はなかったから、全額自己負担だったのである。まあそれに関しては自業自得ではあるが。

 それが今回は、俺という個人に対して一部屋の供給だ。これが嬉しくないわけがない。


「それだけではなく、今後のお二人の活動資金並びに生活費に関しても必要な分だけ支給させていただきたいと思っております」

「「え!?」」


 俺たちは町長の言葉に同時に驚愕する。家だけでなく、今後の活動費から普段の生活費まで全額負担してくれるなんて、まるで勇者パーティなみの扱いじゃないか? ここまでしてくれるなんて、俺はさすがに予想はしていなかった。


「で、でも、さすがにそこまでは申し訳ない気も……」


 ベールを目深に被ったままアイギスがアワアワしている。しかし町長はかぶりを振った。


「何をおっしゃいますか? この街の救世主であるお二人にその程度のことは当たり前です。お二人は我々にとっては勇者様と同等なのです。ですので、是非ともご支援をさせていただければと思います」


 町長がそこまで言ってくれたので、俺たちは好意に甘えることにした。確かに、今や俺たちの活動はこの街の未来と直結するのだ。金銭面をケチっていたら得られる平和も程遠いものになってしまうかもしれない。そう考えれば、町側の対応は実に理にかなっていることだと俺は思った。


 ということで、俺たちは早速俺の新居にやって来ていた。部屋が2つにキッチンにダイニングと、俺が1人で暮らすには十分すぎるほどであった。

 一応勘違いのないように先に言っておくが、アイギスはここではなく別に家を借りているので、ここに一緒に住む訳ではないからな。まあ、それはともかくとして……


「よし、さっそく引き籠ろう」


 俺は即行寝室へと駆け出そうとする。


「ダメです! アレンさんはこれから私と作戦会議をするんです!」


 そんな俺を容赦なくアイギスが止めた。俺がいくら口を尖らせて抗議しても、彼女は俺が引き篭もることを全く認めてくれないのだった。


「この鬼! 悪魔!」

「サキュバスは魔族の1つなので、その程度では悪口にはなりませんねぇ」


 アイギスはなぜか勝ち誇った顔でその大きすぎる胸を張っている。

 これ以上抵抗しても無駄のようなので、気を取り直して、俺は仕方なくアイギスと今後についての話し合いを始めることにした。


「やっぱり、このまま魔王軍が黙っているとは思えません」

「だろうな。辺境の街とはいえ、こんな不名誉なこと奴らが見過ごすはずがない。それに、捕虜になったエルフも助けたいだろうしな」


 俺たちは共通して魔王軍が新たな軍勢を差し向けてくると予想する。


「大軍勢に攻め込まれたら、この街はひとたまりもないだろうな」

「ですよねぇ……」

「やっぱり今のまま2人ってわけにはいかないから、早々にパーティメンバーを揃えなきゃならん。その為にも、早く他の街にも出向く必要がある」


 俺の言葉に対し、アイギスは深く頷きこう言った。


「私もそう思います。この街だけでは限界がありますしね」

「ああ。あとメンバー集めも大事だが、今は圧倒的に情報が不足している。王都の様子を探れるような隠密がいてくれると助かるんだが」

「はい。王様達や王女様のことも気がかりですしね」

「ま、まあな……」


 俺は思わずアイギスの発した「王女様」という単語に反応してしまう。するとアイギスはそんな俺の様子を訝しげ首を傾げた。


「アレンさん? どうかされましたか?」

「いや、別に……」


 こんな時だが、俺の頭の中に王女・ルイーズ様とのある日の会話が想起されていた。


 口下手な俺は、彼女と会う時はいつも手紙を書いて渡した。そしてその日も、俺は彼女に手紙を書いてきていたのだ。


『いつもお手紙ありがとう』


 嬉しそうに笑ってくれるルイーズ様。俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。


『と、とんでもないです……。毎回拙い文章で申し訳ないです』

『そんなことはないわ。思いがこもってさえいれば、体裁など大して重要ではないわ』


 俺は彼女の笑顔と言葉にすっかり舞い上がってしまっていた。

 彼女はいつも城を抜け出し、ある場所で俺と会っていた。そこは彼女の秘密の場所であった。

 ルイーズ様は俺の手を取り、優しく笑ってくれた。俺はそんな彼女に並々ならぬ想いを寄せていたのだった。

続きます!

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