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サキュ俺⑫ パーティ結成の日!

 無謀とも言われた魔王軍との最初の戦いは俺たちの勝利で幕を閉じた。

 勝利の報せを受け駆けつけた町人達により魔王軍の残党は捕虜となった。しかし、この小隊の小隊長であるテレジアの姿はいつのまにか消えていたのだ。あの怪我で自力で逃げられるとは思えないから、恐らく仲間に助け出されたのだと思われる。


 リインフォースの街の人々は俺たちの勝利に沸いた。だがそれでも、町役場から派遣された俺達の仲間が3人命を落としてしまったことは、俺は大いに反省しなければならないだろう。

 彼女らも無論、命の危険があることは弁えていただろうが、怒りに我を忘れ、助けられたはずの命を助けられなかったという事実がある以上、俺はこの結果に決して満足してはならないと思った。彼女らの命に報いる為にも、俺は是が非でもこの国を取り戻さなければならないと改めて心に誓ったのだった。


 その後、俺は腕を修復してもらったとはいえ、あれだけの大怪我を負った以上、街の診療所で検査を受けるべきと言われてしまった。とは言っても怪我自体はアイギスの回復魔術によりほぼ全快に近い状態になっていたので、検査において特に異常は見られなかった訳なのだが。それでももしものことがあったら困ると言い張る町長に押し切られる形で、俺は一日だけ診療所に入院することになってしまった。何も悪いところがないのに入院するのも変な話だが、アイギスも「アレンさんはこの国に来てから動きっぱなしだったんですし、少しくらいは休まないと身体に毒です!」と言うので、俺は仕方なく大人しく病院のベッドで寝ることにしたのだった。


「あの、アレンさん……」

「ん? なんだ?」

「えっとですね……」


 何やら俺に聞きたそうにしているアイギス。彼女が俺に聞きたいことは分かっている。あの戦いを見て、俺に対して疑念を抱かないやつはいないだろうからな。

 俺はアイギスを病室に呼び出し、俺についてのことを話すことにした。これまでなんとなく彼女には知られたくなくて隠していたが、それももう限界だろう。それを知って彼女がどう思うかは知らないが、ちゃんと伝えた上で彼女にはこれからのことを決めてもらった方がいいだろう。


「アレンさん、お話というのは何ですか?」

「いや、お前が俺に何か聞きたいことがあると思ったからな。俺の腕を治してくれたお前にだけは何でも話そうと思ってるから遠慮なく聞いてくれ」


 俺は極力重苦しい雰囲気をつくらないように気を付けた。俺について詳しく知ったせいでアイギスの気持ちが暗くなっても嫌だからな。


「それじゃ、単刀直入に聞きますが……」


 アイギスは神妙な面持ちで俺にこう尋ねた。


「アレンさんって、もしかして、めちゃくちゃ我慢強かったりしますか!?」


 彼女らしいトンチンカンな言葉に、俺は思わずずっこけてしまう。すると、そんな俺に対し、アイギスは声を荒げて反論した。


「わ、私は真面目に言っています!」

「真面目なら尚更困るっての! 矢が刺さったり腕を切り落とされたりするのを我慢強さだけで耐えられるわけないだろうが!」

「そ、それでは、いったいどうして耐えられるのですか!?」


 これ以上問答を繰り返すのも面倒なので、俺ははっきりと彼女にこう言った。


「俺は元々痛みの感覚を持っていないんだ。だから、どれほど痛めつけられても俺は戦い続けることができた。そんな俺のことを、勇者パーティのやつらは『戦闘人形(バトル・ドール)』なんて言って揶揄したものだったよ」


 俺はにへらと笑ってみせたが、アイギスはそれに対し決して笑うようなことはせず、至って真剣な表情でこう言った。


「そんな言い方、酷いと思います。その人たちはアレンさんのことを何だと思っているんでしょうか」

「怒ってくれるのか? こんなやつの為に」

「『こんなやつ』なんて言わないでください! あなたは『こんなやつ』ではありませんし、『戦闘人形』なんかでもありません。あなたには立派に心があります。痛みがないだけで人間扱いしないなんて、私は絶対に許しません!」


 アイギスはどうやら心から真面目にそう言ってくれていた。俺としては、それは素直に嬉しく思えたのだった。


 俺の特性を生かし、勇者一味は俺を突撃要員として散々使い倒したくせに、勇者リオンは「お前がチームの輪を乱している。それにヒーラーがお前に付きっきりになるせいで他の人間の回復に回せない」と言いがかりを付け、最終的に俺をクビにしやがった。そんなあんまりな扱いを受け続けてきた俺にとって、アイギスの言葉は本当に心に染み入る温かさを感じることができたのであった。


 しかし、それでも俺は言わなければならないのだ。俺は彼女の優しさに甘えるべきではない。俺はこれ以上誰も俺のことで厄介ごとに巻き込んではいけないのだから。


「お前の気持ちは嬉しい。だがこんなやべえやつと一緒にいたら、いつかお前も死ぬ。勇者もそんな俺のことを邪魔だと言った。俺から誘っておいて勝手なのは分かっているが、悪いことは言わないから、俺とはもうこれまでにした方がいい」


 彼女が優しいからこそ、その優しさを受け取るべきではない。それがこの20年で俺が培ってきた人生哲学なのだ。

 しかし、これだけ言ったにも関わらず、アイギスは首を縦には振らなかった。俺はそんな彼女が理解できず、思わずこう言った。


「なんで言うことを聞いてくれないんだよ……?」

「そんなの、一から十まで納得いかないからに決まっています」


 アイギスは実にはっきりそんなことを言いやがる。


「これまで、私は自分がサキュバスであるせいで、学んだことを生かす機会を得ることができませんでした。ですが、今回アレンさんとパーティを組んで、初めてこの力を人の役に立てることができたんです。それに、私の故郷も同然であるこの国を侵略したエルフたちに一矢報いることができました。このままあなたと一緒にいれば、本当に魔王軍を倒せるんじゃないか、そんな気さえするんです」

「そんな簡単なもんじゃない。お前も俺も、次の戦いでは死ぬかもしれない」

「簡単なことではないことは私も分かっています。ですが、私を育ててくれた母を助ける為にも魔王軍を倒さなければならない。私とアレンさんがコンビを組むことで少しでもその確率をあげることができるのなら、私はあなたと一緒に戦いたいんです。それに、私にとってはあなたがどんな身体を持っているかなんて関係ありませんし、あなたは不本意かもしれませんが、むしろその能力は私には心強いです。あなたが無茶をしても私がしっかり治してあげますし、コンビを組むことに何の不安がありましょうか?」


 アイギスは挑発的な笑みを浮かべている。本当に彼女は強いと改めて思い知らされる。

 彼女は俺の失った腕すらも復活させるほどの強力な魔術師だ。確かに、彼女が戦力になることは間違いない。しかし、戦いの最中、テレジアの魔術弾に彼女が撃ち抜かれたように、彼女がまた大怪我を負う可能性は高い。いやそれどころか、今度は本当に命を落とすかもしれないんだ。


 それでも、まっすぐ俺を見つめるアイギスが本気なのは間違いない。彼女が俺の能力を心強いと思うように、俺だって彼女の強力な回復魔術は心強いんだ。

 覚悟ができているのなら、彼女が俺のことを必要だと思ってくれているのなら、一緒にパーティを組むことは間違いではないじゃないだろうか? 俺はいつしか、そう思うようになっていた。

 俺は思えず笑みを漏らしながら口を開いた。


「お前って、結構馬鹿だよな」

「それはお互い様です」

「……そうかよ。命の保証はしねえぞ。死んだとしても俺のこと恨むなよ」

「保証なんていりませんし、アレンさんを恨んだりもしません」

「……分かったよ。そこまで言うなら、また、俺とパーティーを組もう」


 俺がそう言うと、アイギスは満面の笑みを作る。


「はい! 改めてよろしくお願いしますね、アレンさん!」


 そして、アイギスは力強く俺にそう言ったのだった。

これにて前半戦終了です!

後半の前に小休止がありますので、引き続きよろしくお願いします!

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