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サキュ俺⑩ 純粋な殺意

 俺と同じくテレジアも魔力を補充する。そのスピードは俺とほぼ同じだ。

 互いの身体が碧く光り輝く。魔力は満ちた。あとは勝負を決するのみだ。


「食らえ!」


 銃を構えすぐさま発砲するテレジア。俺もそれに応じるように短刀で魔術弾を弾き返していく。

 やつとの距離を詰めたいが、テレジアの銃撃は止むことがなく、なかなか彼女との距離を縮めることができない。これだけ連続で弾を撃ち出せるあたり、彼女の魔術変換の能力は一流であることは間違いないだろう。


「あれは……」


 ようやく魔術弾の雨が止み、俺がふと遠くを見ると、砦から少し離れたところでアイギスが負傷した仲間を手当てしているのが目に入る。そして俺はそんなアイギスと目が合った。

 こんなに大変な時なのに、アイギスはほんの一瞬だが俺に笑顔を見せた。それはまるで、俺を勇気付けようとするような優しさの篭った笑顔だったと思う。

 だがその時、不意にテレジアがあらぬ方に拳銃を構え、そしてそちらに向かって魔術弾を放ったのだ。


「どこに撃ってやがるんだ……?」


 デレジアの意図が読めなかった俺は弾丸の軌道は追わずに、すぐに視線をテレジアに戻す。すると、テレジアがニヤリと口の端を釣り上げたのだ。


 瞬間、俺の背中に悪寒が走る。俺はすぐさまその場から駆け出そうとする。だがそれはあまりにも遅すぎたのだ。


「うっ!?」


 背後で短い叫び声とぐちゃりと肉が弾けるような音が俺の鼓膜を震わせる。振り返ると、あろうことかアイギスが何かに身体を貫かれているのが目に入ったのだ。


「アイギス!?」


 今まで出たこともないような裏返った声が俺の喉から発せられる。そう、それは他でもない、今しがたテレジアがあらぬ方に放った魔術弾だったのだ。

 俺のそんな様子が面白かったのか、テレジアはほくそ笑み、小馬鹿にするような様子で俺に向かってこう言った。


「弾のコントロールができないといつ言った? 私を侮ったのが運の尽きだ。さあお前たち、サキュバスにトドメを刺せ!」


 テレジアの指示に従い、エルフたちはアイギスに集まろうとする。

 アイギスは腹を撃たれたのか、うつ伏せに倒れた彼女の背中は血で真っ赤に染まっていた。


「……………………てめぇ」


 それを見た瞬間、俺の中で何かが弾けたのがわかった。

 心臓がはち切れんばかりに激しく脈を打ち、全身を煮えたぎった血液が高速で駆け巡る。そして、ありとあらゆるリミッターが解除されていくのを俺は感じていた。

 最早、今の俺を支配していたのは、「目の前の敵を殺したい」という純粋な殺意だけだった。


 俺は何も言わずに、高笑いしているテレジアの方へと向かう。彼女も俺の動きに気づき、「まだ無駄な抵抗をするつもりか?」と言おうとした。そう、言おうとしただけだ(・・・・・・・・・)。それはつまり、彼女はそれを言い切ることはなかったということに他ならない。


「な、に……?」


 俺は手にした短刀で、テレジアの身体を肩から斜めにかけて切り裂いていた。この短い刃では致命傷を与えるには至っていないであろうが、彼女を戦闘不能にすることぐらいは容易くかなったことだろう。

 テレジアの傷口からは血が噴出ふきだし、彼女は口からも大量の血液を吐き出していた。

 彼女はきっと、なぜ自分が今血を吐いているのか、そしてなぜこんな人間風情に自分が倒されているのかも理解できなかったことだろう。

 彼女は倒れるその瞬間まで目をカッと見開き、俺のことを凝視し続けたが、地面に倒れこむと、彼女はそのまま意識を失ったようだった。

 だが、こいつを倒したぐらいでは、今の俺の激情を静めることは到底できるはずがないのだった。



「よくも、やりやがったな……」


 今の俺には冷静さの欠片もない。もちろん、冷静になろうという気もないのではあるが。


「テレジア様をよくも!」


 テレジアを倒したことに怒っているのか、アイギスを狙いにいっていたはずのエルフたちが一斉に俺に大挙して押し寄せてくる。

 親分をやられてさぞ悔しかろう。だがそんなこと俺の知ったことではない。目の前の敵は殺しつくす。今の俺の頭にあるのはそれだけだ。


「邪魔だあああああ!!」


 襲いくるエルフを次から次へと切り刻んでいく。一瞬にして辺りは血の海と化す。そして俺も相当量の返り血を浴びたが、それすらも気になることはない。


「アイギス!!」


 彼女は俺が選び、半ば強引にここまで連れてきた。彼女は本当にここまでよく頑張ってくれた。そして俺はそんな彼女に絶対にこの作戦は上手くいくと言い続けてきた。にも関わらず、俺は彼女との約束を破ってしまった。彼女らをあんな目に遭わせておいて、上手くいったなんて言えるわけがない。

 自分があまりにも情けない。こんなだから、あんな勇者パーティですらクビになるのだ……。俺は自分の無能さを改めて痛感した。


 敵も今の俺のやばさが分かったのか、無鉄砲に俺に突撃してくることはなくなった。やつらはどうやら遠方から俺を狙い撃つつもりらしい。


「食らえ!」


 砦から弓矢が飛んでくる。それもかなりの数だ。

 普通ならこれだけの量の矢が降れば、後退するより他にないだろう。だが、今の俺にはそんな選択肢はない。

 頭さえ守れれば死ぬことはない。それなら俺がやるべきことはこれしかない。

 俺は左腕を頭の前にかざして走り出す。それに驚愕する魔王軍。中には俺の愚行を嘲笑する者さえいた。

 いくら頭を守ったところで腕に矢が刺さったらそれ以上戦える訳がない。やつらはそう思ったのだろう。確かに、普通の人間であればそうなることだろう。だが、残念ながら俺は普通の人間ではない(・・・・・・・・・)


 俺は砦に向かって全速力で駆ける。そんな俺に容赦なく矢の雨が降り注ぐ。それを俺は想定どおり腕で受け止める。

 左腕に5本以上の矢が刺さる。だが俺は変わらず走り続ける。


「何をやっている!? どんどん撃たないか!」

「は、はい!」


 きっと当たり所が良かったのだろう、だがもっと矢を受けたらもう動くことなどできぬはず。敵はそう思って矢を射り続ける。俺は右手の短刀で矢を数本弾き飛ばしたが、今度は脚や腹にまで矢が突き刺さった。しかし、それでも俺は前進を止めない。

 ついに俺は砦にたどり着く。そしてありったけの魔力を使い、弓兵のいる階まで飛び上がった。


「なに!?」


 驚愕するエルフたち。俺はそんなやつらに向かって思い切り刃を振るう。すると刃から発せられた衝撃波で、敵は何人か吹き飛ばされ壁に叩きつけられたのだ。


「ば、化け物だ!?」

「逃げろおお!」


 それには流石にエルフも恐れをなし、ついには持ち場を放棄して敗走する者も現れたのであった。

続きます!

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