サキュ俺⑨ VS二丁拳銃使い
アイギスに一斉に飛びかかる男たち。さすがにこの量を防御壁だけで防ぐのは難しい。すかさず、俺は群衆の真っ只中に突っ込んでいく。
「ぶっ飛びやがれ!」
魔力の補充を済ませ、ほぼ全開状態の俺は短刀を振るうと、アイギスに群がろうとしていたエルフを10人近く一気に吹き飛ばすことに成功した。
「なんだお前は!?」
驚愕する女のエルフ。
「人間だ。見りゃわかんだろ」
「な、に……?」
俺は一々エルフとの会話を楽しむつもりなどない。女は俺の短刀に切り裂かれ、あっさり地面に突っ伏すこととなった。
「アレンさん!」
「よくやった! アイギス、お前は一旦下がれ」
「はい!」
アイギスを俺の後ろに退ける。これだけ派手に暴れたらこの砦から親玉が現れるはずだ。その時にアイギスが前に出ていたら真っ先に狙われてしまうだろう。アイギスは回復とバックアップの要だ。俺は必ず彼女は守らなければならない。
「何事か!?」
すると、ついにその親玉が戦場に現れた。現れたのは、真っ黒な軍服と軍帽をその身にまとい、両手に銃を携えた女のエルフだ。町長は二丁拳銃使いがこの一団を率いていると言っていたので、恐らくこの女がリーダーなのだろう。
彼女は燃えるような真っ赤なショートヘアとアイギス以上に巨大な胸が特徴的で、年はアイギスと同じくらいの少女であるようだ。
……あんまり女性の胸をマジマジ見るものではないだろうが、それにしたってあれだけ巨大では嫌でも目がいってしまうものだろう。一体何を食べればあんなことになるのだろうか?
少女は戦場となった砦の前付近の様子を見て驚きを隠しきれないでいる。今の俺の攻撃で十数名のエルフが戦闘不能となり、堀やその辺りで意識を失っているのだから、彼女が驚くのも頷けるというものだ。
「テレジア小隊長! 突然サキュバスが現れテンプテーションで男たちを骨抜きにし、その隙にあの男が攻撃を仕掛けて……ぐあっ!?」
「のんきにお喋りしてる暇なんてねえぞ」
俺は躊躇うことなくエルフに短刀を突き立てていく。勇者パーティ時代から、エルフとは散々刃をつき合わせてきたのだ。今更奴らへの攻撃を躊躇ったりはしない。
「おのれ!」
テレジアと呼ばれた少女は怒り、すぐさま仲間から渡された魔力石を砕き体内に取り入れる。そして二丁拳銃を構え、俺を狙い撃ちしてくる。その銃捌きはなかなかのものである。
「男どもはサキュバスと距離を取って魔力生成に集中しろ! サキュバスのテンプテーションにかかるな!」
テレジアの指示で男たちが下がる。だが前線から敵が減ったのは今の俺たちにはむしろ好都合だ。この機を逃す手はないだろう。
『全員突撃しろ!』
俺は念話で残りの5人に一斉に指示を出す。呼びかけに応じ、仲間たちは一気に戦場に乱入する。テレジアたち魔王軍はそれには驚きを隠せない。
「これ以上好きにさせるか!」
それでも二丁拳銃を構えたテレジアは冷静であった。テレジアはその銃で俺たちに狙いを定める。
「遅い!」
俺たちは狙い撃ちされないようスピードを速める。にも関わらず、テレジアはその正確な射撃で、なんと俺たちの仲間を二人も同時に銃撃してしまったのだ。
魔術弾で撃ち貫かれたのは格闘家と魔導士だ。2人は怪我を負い動けなくなってしまっている。
「くそっ、正確に狙いやがる……」
「2人は私が助けに行きます!」
「待て! 無闇に動くとやつに狙い撃たれるだけだぞ!」
俺は駆け出そうとするアイギスを制する。
「俺があいつをやる。お前はなるべくあいつから離れてバックアップに集中しろ。2人を助けるのはその後だ」
2人がどれほど保つかは分からないが、残念ながら今は2人を助けにはいけない。全体を指揮する人間としては、時には冷酷な決断も下さなければならないのだ。
アイギスは悔しそうに唇を噛むが、なんとか俺に対して頷きを返した。
するとテレジアは挑発的な笑みを浮かべながらこんなことを言った。
「実力は認めるが、お前たちでは私の足元にも及ばない」
だが俺はそんなチャチな挑発になど乗らない。今まで散々勇者の取り巻きである無駄に陽気な男たちに煽られてきたんだ。あんな見た目は可愛らしい女の子に何を言われても俺の心は少しも動かない。
やつの銃は厄介だ。それでも絶対に躱せない速さでもない。1人では難しいが、こちらにはまだ仲間がいる。俺は剣士に同時に走り出すよう指示を出す。
2人で同時に戦場を駆ける。剣士の方にはすぐさま別のエルフが向かい、テレジアは俺だけを集中的に狙いにきた。
向こうがその気なら俺がやつをやるだけだ。
『アイギス、魔力石!』
『はい!』
俺はアイギスが狙われないように注意を払いながら、テレジアの魔術弾を回避する。そしてしばらくして、俺の手には彼女の生成した魔力石が届いた。
「いいぞアイギス」
もらった魔力をフルに活用し、先ほどとは比較にならない速さで攻撃を回避する。
「くそっ! 速い!?」
今度は俺の速さについていけないテレジア。すると……
「小隊長! 足元!」
「へ?」
部下のエルフが大声で叫ぶ。なんとテレジアの足元には倒れているエルフがおり、テレジアはそれに躓いたのだ。
チャンスだと思った。普通、転ぶ時は顔から落ちないように両手で地面に手を付くものだ。だからきっと、二丁拳銃使いの彼女も地面に手をつき、俺を銃撃できなくなると思ったのだ。しかしだ……!
「なんの、これしき!」
なんとテレジアはその大きすぎる胸で地面に着地し、伏せた体勢のまま銃を発砲したのだ。俺は意表を突かれて危うく魔術弾を喰らいかけるが、なんとかそれを回避した。
「その乳どうなってんだよ!?」
思わず本音が漏れる俺。だって誰も胸で着地するとは思わないじゃないか? あんなことをして痛くはないのだろうか……?
「な、何を見ている!? このセクハラ人間め!」
「あんたが乳で地面に着地するなんて器用なことするからだろうが!」
「な、何度も乳乳言うな! こんなもの私にとっては邪魔なだけだ!」
テレジアは顔を真っ赤にさせて声を荒げる。
「重いから肩も凝るし、貴様のような男から不埒な目で見られるし、こんなもの取り外しができるなら取り外している…………って、そんなこと今はどうでもいい! それはそうと、貴様なかなかやるな。今までリインフォースの街の人間たちと戦ったが、これまでは骨のある奴はいなかったはずだが」
一転して俺を褒めるテレジア。こういう時、互いに讃え合うのがマナーなのかもしれないが、俺はそんなものを守るつもりは毛頭ない。目の前の女は倒すべき敵でしかない。敵にかける情けも言葉も俺にはありはしないのだ。
「そりゃどーも。あんたもまあまあだと思うよ。もちろん俺の足元にも及ばないけどな」
「……なんだと?」
テレジアの言葉をそっくりそのままお返しすると、彼女は明らかに機嫌を損ねたようだった。
「このテレジア・クラルヴァインに向かって舐めた真似を……」
怒りをむき出しにするテレジア。だがこの程度の挑発に乗るようではやはり高が知れている。ここは一気に片付けてしまおう。
俺はアイコンタクトでアイギスに魔力生成の合図を出したのであった。
続きます!
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