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迷走と葛藤と決断 5


   こう


 藤堂さんが来てくれないことにばかりに気を取られて、一時台二時台の紙芝居は、まあそれなりには受けていたけど、少し厳しい見方をすれば少々不甲斐ない上演だった。

 この汚名を密かに返上すべく、三時台の紙芝居に取り組む。

 幸いなことに二時の紙芝居を観てくれた子もベンチに座っている。今度は楽しませないと。

 もてる力を全部出す。全力で紙芝居をする。全身全霊、力の限りの上演を。

 セックスができなかったことは残念だけど、今日でチャンスが潰えてしまうわけじゃない。次の機会がある。

 それに俺の言葉が藤堂さんに伝わっていなかったのだとしたら、俺がまた勇気を出して完成の報告をすればいいだけのこと。

 だけどその前に。今は目の前のお客さんだ。

 最初は俺、次はヤスコ、そして最後もまた俺。

 本日最後の紙芝居に選んだのは『ながぐつをはいた猫』。

 いつもの上演よりも力を入れる。

 いつもは声が嗄れないように一応は注意するけど、それでも嗄れる時は嗄れたりするけど、これが本日最後の紙芝居の上演。嗄れて、潰れて、明日は声が出なくなってもなんら問題はない。

 いつもよりも喉の負担のかかる演じ方、声の出し方をする。具体的に言うと、猫は一層コミカルに、お姫様はいつも以上のファルセットでかわいらしく、そして最後の登場キャラ魔王は喉が潰れるかもしれないくらい低く、怖く。

 潰れても、嗄れてもいいと思うけど、この紙芝居の途中でなってしまっては元も子もない。けど、演じているうちに力の抜き方を忘れてしまい、最後まで全力で。

 それでも最後までなんとか声は持ってくれた。

 なんとか終わったと安心した瞬間、そこに待望の待ち人の姿が。

 藤堂さんだ。

 部活終わりに急いで駆けつけたくれたのだろうか。ユニフォーム姿。眼鏡がないからよく見えないけど、走ってきた後みたいに顔が紅潮しているような気が。

 来てくれたんだ。俺のあの時の言葉はちゃんと届いていたんだ。

 うれしい。

 けど、困ってしまう。せっかく来てくれたのに、あんなに必至になって駆けつけてくれたのに、俺は藤堂さんに応えることができるのだろか?

 正直声はもう限界。

 後、一本上演。それもさっきよりも負担の大きな紙芝居をするなんてできるのだろうか。

 悩む、迷う、考える。

 事情を伝えて後日にまた観に来てもらうか?

 それとも、この声の状態でこのまま上演すべきなのか?


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