かんせい? 2
航
正月三が日は休みだったため、一月二週目の日曜日が、今年最初の紙芝居。
優しいお姉さま方との稽古のおかげで、なんとか上演できるくらいにまでには、一応仕上がった。
けど、ショッピングセンターに藤堂さんの姿はなし。
観に来てくれていたならば、あの紙芝居を初披露、上演するつもりではいたのだが、いないのならば仕方がない。
ちょっとだけ意気込んでいたけど、見事空振りに終わってしまう。
普通ならばガックリと肩を落とし、落胆するのかもしれないけど、内心では少しだけ藤堂さんの姿が見えなくてほっとしていた。
というのも、なんとか上演できるくらいにまでには稽古を重ねたけど、本音を言えば、まだまだの完成度、俺の望む域、つまり藤堂さんを悦ばす、気持ち良くさせる、という領域にまでは全然届いていない、という情けない理由が。
もっと練度を上げてから上演したい、披露したい。
そして楽しませる。セックスをする、絶対にレイプにしない。
「いなくて残念だったな」
本日の一緒の紙芝居の相手、舞華さんが言う。
「……うん」
そう返事はするけど、内心はさっき説明した通り少々複雑。
「まあ、来なかったのは残念だけど、その分練習する時間が増えたと思えばいい」
「うん」
この言葉には素直に肯けた。
湊
お正月が終わり、久し振りの部活は少し疲れた。
東京にいる間は全然体を動かしていなかったから。
それでもなんとか乗り切ることに成功。
けどこれで安心というわけではない。
冬休みの間ずっとしていない。だから先輩は絶対に私を求めてくるはず。溜まっているはずだから、それを全部私の体を使って外へと吐き出すつもりのはず。
そう思うと気が重たくなってきた。
だけど、先輩はなにもしてこなかった。そういえば、冬休み中電話もあまりかけてこなかったし。
真っ直ぐに、恵美ちゃんと一緒に家に帰れる。少しだけ幸せな気分に浸っていた。
これで後は結城くんの紙芝居を観ることができれば、言うことはないのだけれども。そんなに世の中思い通りにはいかない。
日曜日には部活が。
残念だけど仕方がない。
いつもなら休みが終わってほしくないと願うのに、三学期がちょっとだけ待ち遠しい。
三学期になれば、結城くんの顔が見られるから。
航
二学期の始まりとは違い、三学期は初日から藤堂さんを教室で見ることができた。
あの時は登校してきてからずっと暗い表情だったけど、今学期はその反対に明るい。
休みの間に何か良いことでもあったのだろうか? それが彼女を笑顔にしているのだろうか。
ならば、その笑顔をもっと輝かせたい。紙芝居完成の報告をしないと。
紙芝居は観てもらって、初めて成立する。完成はしたけど、まだ完全な完成じゃない。
報告のために席を立とうとした。けど、中腰になったところでまた椅子の上に腰を下ろす。
学校内で藤堂さんと話すわけにはいかない。自重する。万が一という可能性がある。もしかしたら厄介な相手に話している現場を目撃されてしまうかもしれない。
今年最初の紙芝居には来てはくれなかったけど、多分今週は観に来てくれるはず。
それなら完成報告の必要なんかないし。
それよりももっと稽古をして、より良いものを上演しないと。
日曜日、この日のためにしっかりと稽古を重ねてきた。
けど、また不発に終わる。
今日の紙芝居も観客の中に待望の待ち人、藤堂さんの姿はなかった。
「来なかったわね、彼女」
俺よりも残念そうな口調でヤスコが言う。こんなにも気にかけてくれていたのか。少しだけ感動しそうになるけど、すぐに思い直す。ヤスコがそんな殊勝な気持ちのはずがない。何か裏があるはずだ。それは一体何なんだ?
「ヤスコ、もしかして楽しんでないか?」
そう思い至った。ヤスコは俺がどんな反応をしながら藤堂さんの前で上演するのか、面白がりながら見て、楽しむつもりだったのだろう。
「まあね」
さっきの表情をどこに隠したのか満面の笑みを浮かべている。
「楽しむなよ、俺は真剣なのに」
「こんな面白いこと、楽しまないわけにはいかないじゃない。あんなに苦労したんだし」
ヤスコにはたしかに多大な苦労、迷惑をかけてしまった。文章の推敲に始まり、予想以上の画を短期間で描いてもらった。感謝はするけど、そんな風に楽しまれるのは何か嫌だ。
「でもま、今回も観てもらえなかったのは残念だったわね」
それには同意する。
きっと来てくれる、教室ではそう思ったんだけど。でも、それは俺の中の根拠のない自信だ。楽観視した結果。
「アンタさ、できたって彼女に伝えたの?」
その問いに俺は首を横に振る。学校では俺と藤堂さんは話せない。
「そっか。……でも、せっかく創ったんだからちゃんと伝えないと相手は知らないままだぞ」
正論だ。
判っている。でも、それができないでいる。
湊
また日曜日は部活で潰れてしまった。
今度こそは、今年最初の結城くんの紙芝居を観ると意気込んでいたのに。
それから、きっと鋭意創作中の紙芝居の進展具合を聞きたかったのに。
ちょっと、残念。
でも、きっと来週こそは、絶対に。




