冬休み
湊
形のないプレゼントはうれしかった。それなのに、形のあるプレゼントは私の気持ちを落ち込ませてしまう。
先輩からのクリスマスプレゼントはかわいいハートのデザインのネックレスだった。いつも身につけていてほしいと言われた。
仮にも彼氏彼女の関係なのだから、普通の子なら喜んだり、感極まって涙を流したりする場面なのかもしれない。
だけど、私にはこのプレゼントは、私を拘束するもののように思えてしまう。
でも、拒否できない。うれしい、感激しているふりをして身につける。喜んでいる演技。私が感激していると思って先輩の顔が明るくなる。
胸の奥がチクリと痛みを発する。
酷いこともするけど、脅して強要してくるけど、基本的にはそんなに悪い人じゃない。部活の時はすごく真面目だし、それに普段のデートの時は優しいし。
そんな先輩を騙しているかと思うと少しだけ心苦しくなってくる。
でも、それは一時の感情だった。デートの後で先輩の家に行き、いつものように……。嫌だけど、嫌いだけど我慢する。
我慢していれば、耐えていれば、気持ちが良いような演技をしていれば、先輩は満足してくれるから。
行為がすんだ後に、年末年始もこうして会いたいと言われる。
怒られるのを覚悟で、勇気を出して断る。年越しとお正月は、家族と一緒に過ごすことになっているから。
先輩は最初渋ったけど、最後には納得してくれた。けどその代わりに毎日電話をすることを約束させられる。
会ってこんなことするくらいなら。それなら電話で済むのなら。
年末年始は東京で。こっちに引っ越して来てから初めての里帰りになる。
久し振りに会った親戚みんなに大人っぽくなったと言われる。
でも、うれしくない。
この前は確かに大人じゃなかった。だけど、この夏の終わりに大人になってしまった。そんなことは全然望んでいなかったのに。
少し悲しい気分になってくる。けど、それは表には出さないようにした。
ゆったりとした時間が流れていく。
親戚の子達、それと信くんに絵本を読んであげる機会があった。
以前の私ならば下手だからといって拒否していたかもしれないけど、今は少しだけ自信がある。これは結城くんのおかげだ。
教わったことを、屋上での楽しい時間を思い出しながら、読み進めていく。
結城くんのように全然上手じゃない。それでもみんな途中で飽きることなく最後まで大人しく聞いてくれていた。
聞いてもらうのは、こんなにもうれしいことなんだ。結城くんもいつもこんな気持ちで上演しているのだろうか。
今度会ったら訊いてみよう。
それにもっと上手くなるコツも、それには練習と言われるかもしれないけど、教えてもらおうかな。
それから紙芝居の制作がどれ位進んでいるのかも知りたい。
そう考えていると、幸せな気分になってくる。
どんな紙芝居を創っているのかな? どんな作品なんだろう?
途端に、結城くんに会える三学期が待ち遠しくなってきた。