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   みなと


 結城くんから素敵な報告を受けとった。

 すごく幸せな気分が私の中にあふれていく。ずっとこの幸せな気分に、いつまでも浸っていたい。

 楽しいままでいたい。

 一体、結城くんはどんな紙芝居を書いたのだろうか? 

 想像してみる。けど、全然見当もつかない。だけど、紙芝居のことを思うと心が、体の奥が何故だか温かくなってくる。それだけですごく幸せな気分になってくる。

 この形のない贈り物をいつまでも心の中で眺めていたい、愛おしさを感じていたい、そんな気持ちになってくる。

 あの時レイプという言葉を使用したけど、あれは多分比喩として使っただけだと思う。

 どんな内容か分からないけど、もしかしたらその紙芝居の内容で私がショックを受けるのではないのかという結城くんの優しい気遣い。

 そんな優しい、配慮のできる人が創る紙芝居が私を傷付けるはずなんてない。

 それよりも私には……。

 ……もうすぐクリスマスになる。先輩と一緒に過ごさないといけないことに。

 二人の初めてのクリスマス。普通なら紙芝居の報告よりも幸せになって、待ち遠しい気分になるのかもしれないけど、反対に憂鬱な気分になってくる。

 できれば回避したい。

 先輩と一緒に過ごしたくない。

 ……けど、そうはいかない。

 私が望まなくても先輩は強引に一緒に過ごそうとするはず。あんなことなんかしたくないのに、絶対に求めてくるはず。拒めば怒られてしまうはず

 憂鬱な気分が大きくなってくる。さっきまであった幸せな気分が急速に萎んでいく。

 落ちていくような、沈んでいくような、暗い感覚に陥ってしまう。

 駄目、このままじゃ。

 あの時の結城くんの言葉をもう一度頭の中に思い出す。

 優しい声が脳内に蘇ってくる。

 それだけで少し幸せな気分になれた。



   航


 書くという行為にようやく慣れたのか、はたまたヤスコの指導が思いのほか的確だったのか、それとも別の要因があるのか、本人である俺でさえさっぱり判らないけど、兎に角予想以上の進行速度で紙芝居を書きなおすことが、二稿目が完成。

 その間わずか一週間。

 これでも書きなれた人間に比べれば、まだまだ遅いのかもしれないけど、俺にしたらすごい進歩、というか進化。

 しかも、期末試験期間だったにもかかわらず。

 だけど、これで安心してはいけない。

 またヤスコに見てもらう。その結果、再び没を受ける可能性だってある。

 それでも前回のような不安は俺の中にはなかった。内容はまあ一応合格点はもらえていた、今回は小説ではなく、紙芝居を書くことを心掛けた。……大丈夫なはず……多分。

 多少ダメ出しは受けるだろうが、それでも基本路線は間違いないはず。

 ヤスコのところに持って行く。

 ある程度は自信がある。それでもやはりいざとなると緊張してくる。もしかしたらという悪い妄想が頭の中に浮かんでくる。

 そんな心理状態で完成した原稿を提出。

 結果は、今回も合格とはならなかった。

 しかしながらそれで腐るということはなく、ヤスコの助言に真剣に耳を傾けた。

 俺だっていいかげんな紙芝居は創りたくはない。ちゃんとしたのを創りあげて、しっかりと稽古を重ね、それを藤堂さんに観てもらいたい。そして楽しんでもらいたい。

 藤堂さんの笑顔を見るために、心の底から悦んで、楽しんでもらうための努力を怠るようなことをしたくはなかった。

 三度目の挑戦。藤堂さんの、彼女の悦ぶ顔を想像しながら。

 三稿目はクリスマス前に完成。

 そして今度は合格点を。

 これで、しばらくの間俺にできることはなくなった。これから先はヤスコが紙芝居の画を描いてくれるのを待つだけの身となった。

 おそらく完成するのは早くても来年になるだろう。カラーのイラストを十数枚。描き慣れているとはいえ結構な時間を有するということを理解している。それに折しも年末、きっとヤスコは忘年会なんかで忙しいだろう。

 もっと早く書いておけば、今更ながらの後悔をする。そうすれば藤堂さんにももっと早く観てもらえたのに。

 自分自身の不甲斐なさに情けなくなってくる。

 けど、いくら後悔をしても時計を戻すことはできない。

 俺にできるのはヤスコが早く画を描いてくれることを祈るだけ。

 でも、無理強いはできない。

 それならば、時間がかかってもいいから良い画を描いてくれと願うだけだった。


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