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セックスorレイプ


   こう


 レイプ、という単語がいつまでも俺の頭の中から消えてなくなってはくれなかった。

 藤堂さんとセックスをするつもりで紙芝居を創った、それなのに俺の意図とは異なることに。彼女を悦ばせるのではなく、反対に傷付けてしまう危険性を孕んでいるなんて。

 そんなことをするつもりなんてこれっぽっちもない。

 ヤスコの言葉に素直に従い、もう一作紙芝居を創るべきなのだろうか。

 それが良策であると頭の片隅では理解しているのだが、けれど心の何処かではその意見に抗いたいような気持ちが。

 というのも、この紙芝居にはある種の愛情というか、愛着というか、長い時間をかけて書いたから情がわいたというか、そもそも初めての創作だったから一塩ならぬ想いがあるというか、とにかくこのまま没、日の目を見ないでお蔵入りさせてしまうのは惜しい、という想いが。

 だけど、藤堂さんを傷つけたくない、レイプなんか以ての外。

 ……しかしながら考えてみれば、レイプになってしまう、傷付けてしまうというのはあくまでヤスコの予測に過ぎない。別にこれを上演して観てもらっても、藤堂さんは傷付かないかもしれない、俺の希望通りに元気になってくれる可能性だって十分あり得る。

 そうだ、アイツの、ヤスコの考え過ぎだ。

 そうに違いない……多分。

 でも、万が一ということも。それに俺よりもはるかに人生経験豊富な人間が言っていることなのだから存外正しいのかもしれない。

 やはり破棄、もしくは封印してしまうのが正しい選択なのだろう。

 けれど……。だけど……。

 ……判らない。

 判っているのは、俺が紙芝居で藤堂さんを元気にしたいという想いだけ。

 本音を言えば、あの時ヤスコに言われたように、落ち込んでいる彼女を励ますことなく放置している男から藤堂さんを奪い去り、そして繋がりたい。

 けど、現実にはそんなことできない。

 だからこそ、紙芝居でセックスを。

 冷静に鑑みると、この思考は少々気持ち悪い、スニーカー的な考えのように我ながら思えてしまうけど、それでも抑えられないこの想いはどうしようもない。

 藤堂さんと、紙芝居というセックスがしたい。

 だけど傷付けたくない、レイプなんかしたくない、俺一人だけが気持ち良いと感じるだけの紙芝居なんか絶対にしたくない。

 どうすればいいんだろう。

 判らない、結論が出せない。

 だったら、直接本人に、藤堂さんに聞いてみれば、案外簡単に結論が出るのかもしれない。

 だけど、それを行うことは容易ではない。紙芝居でキミとセックスをしたい、けどその紙芝居はもしかしたらレイプになってしまうかもしれない、そんなことを当人に面と向かって聞くのは流石に躊躇してしまう。

 それに加えて俺は学校で藤堂さんと話すことができない。ならば校外でとなるのだろうけど、俺は藤堂さんの連絡先を知らないし、唯一喋ることが可能なショッピングセンターにはここ数週間姿を見せていない、紙芝居を観に来てくれてない。

 判らない。

 これでいくのか、それとも破棄すべきなのか。次元は全然違うけど、まるでハムレットのような心境に。

 書けずに苦労した。書いたら書いたで、また別の苦悩が。

 判らないままで、時間だけが過ぎていく。



   みなと


 結城くんの背中がまた落ち込んでいるように映った。

 一時(いっとき)、彼の中にあった憂いというか悩みというか、これは私のあくまで想像だけど、紙芝居の創作の苦しみから抜け出したと想像したのに。

 そんな寂しそうな、哀しそうな背中を見ているのがちょっと辛い。

 前までは結城くんの背中を見ていると理由は分からないけどドキドキしてしまう自分がいた。

 でも今は、小さく映る元気のない背中を見ていると別の想いが。

 また前通りの背中になりますように。

 心の中で密かにエールを送るけど、果たして効果があるのか。こんなことは私の独りよがりでしかないのかもしれない。

 ならば、直接話をしたほうが。

 私があの時してもらったように、今度は私が結城くんの悩みを聞いてあげれば彼の中にある悩みを解決とまではいかないまでも、少しは軽減できる手助けができるんじゃないのだろうか。

 それがわずかな、些細な、微力でしかなくても。

 今度は私が結城くんの力になりたい。

 そうだ、今週から期末試験の期間だ。部活もないし、試験勉強を言い訳にすれば先輩からの誘いも受けなくてすむだろう。

 行こう、ショッピングセンターに。

 そしてそこで結城くんと話そう。



   航


 判らない。

 この作品でいいのか、それとも助言に素直に従って新たに別の紙芝居を書くべきなのか。

 傷つけたくない、レイプなんかしたくない。

 だったら、破棄するのが妥当なのだろうが、決断できない。

 決断できないままで時間だけが。

 この(かん)に、どちらかにするか悩みつつも、一方で新作のアイデアを練っていれば、ある意味有効的な時間の使い方だったかもしれないけど、そんな器用なことは俺にはできない。

 一方にだけ、この場合はどちらにするかの悩み、に注力、というか比重をおいてしまう。

 決められないままで、悩み続け、そして時間が無駄に過ぎていく。



スニーカーは誤字ではありません。

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