カクという行為 5
航
書いた、書けた。
内に溜まっている欲望を少しでも早く外へと放出したいという男の本能なのか、それともこれまで苦しんでいた成果がようやく結実したのか、どっちかは判らない、それとも別の理由があったのかもしれないけど、とにかくノートの上に文字を、文章を残すことができた。
書いては消すという、不毛な作業から脱却できた。
頭の中のアイデアを、イメージをようやく文字に変換することに成功した。
これで一気に進めるかもしれない。長くて、辛い創作の時間を終わらせ、藤堂さんに笑顔になってもらえるかもしれない。
……甘かった。
そう簡単には物事は進んでくれない。思い通りに行かないのは世の常かもしれない。
前進はしたけど、スラスラと快適に進んだわけじゃない。
それでも俺は気落ちすることはなかった。
むしろこの時間が楽しいとさえ思えるようになっていた。
俺が創る紙芝居で藤堂さんを悦ばせることができるかもしれない。
そう考えると、高揚してくるような、興奮してくるような気が。
なんだか我ながら、少しばかり変態が入っているような気はするけど、このさい気にしないでおこう。
遅々とした歩みではあるけど、なんとか書き進めていく。
書きながらセックスをしているような気分に浸る。
もっとも俺にはセックスの経験がない、童貞だ。だから今感じているこの快感が、セックスをすることによって得られるものと同様なものであるのかどうか判らないけど、とにかく気持ち良いというのだけは紛れもない事実。
この甘美な感覚にいつまでも浸っていたい。
だけど、そうはいかない。俺は一応高校生、本文はあくまで学業、紙芝居の創作にだけ時間を費やすわけにはいかない。
それに稽古もしないと。
そう、紙芝居は書いて終わりじゃない。上演して観てもらって、初めて成りうる。
進捗状態はあいかわらず遅いけど、それでも確実に前進した。半分ほど書き上げる。
ここまで進んで、ふと我に返ってしまう。
セックスのつもりで書いてきたけど、もしかしたらこれはたんなるオナニーにすぎないかもしれない。
この作品で確実に藤堂さんを悦ばせ満足させることができないかもしれない。独りよがりの自己満足で終わってしまうという可能性も無きにしも非ず。
一旦そんな考えが頭の中に浮かんでくると、書くという行為が突然楽しくなくなる、萎えてくる。
半分くらい書き進めたけど、全部を捨ててまた一からやり直したほうが。いや、それよりもこのアイデア自体を破棄したほうはいいのではと考えてしまう。
……きっと大丈夫なはずだ。
本当のセックスのテクニックなんてものは、エッチで女の子を悦ばすような技術は持ち合わせていないけど、紙芝居で観ている人を楽しませる術は身に付けているはず、と思い込む。根拠のない自信だけど。
絶対に藤堂さんを楽しませる、悦ばせる。その結果として、彼女の中で本当の、心の底からの笑顔が生まれるように。
湊
なんだか結城くんの背中が楽しそうに映る。
もしかしたら紙芝居の創作がサクサクと進んでいるのかな。
だったら、いいな。
そんなことを思いながら、その楽しそうな背中を授業中ずっと眺めていた。