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停学期間 6


   みなと


 先輩に抱かれてから帰る。

 嫌なことから逃げ出したい。

 こんな時には夢の世界へと逃避をするのが一番かもしれない。

 リビングから自分の部屋へと戻った私はまたベッドの中に潜り込み眠ろうとした。

 でも、眠れない。体は睡眠を求めていない。

 それでも無理やり眠ろうとした。けど、反対に目が冴えてくる。

 なんとか眠らないと。このままじゃ心が潰れてしまいそうに。

 そうだ、小さい頃、一人で寝るのがまだ怖くて心細かったあの頃、アレを抱きしめて眠ったら安心して眠れた記憶がある。

 跳ね起きる。ベッドの上から飛び降りて机に。その上に大切に飾ってあるから。

 ない。

 ちゃんとここに置いておいたはずなのに。

 どこにもない。

 どうして?

 何でないの。 

 机の上を、机の中も、チェストの中も、クローゼットの中も、小物入れの中も、ベッドの下も、布団の中も、バッグの中も、買ってもらったばかりのメイク道具の中も、全部中身を出した、ひっくり返した、探した。

 それなのに見つからない。

 どうしてないの、何でないの。

 どうして、どうして、どこにいったの、何で、どうして、どうして、どうして。

 どうして、どうして、どこにいったの、何で、どうして、どうして、どうして。

 どうして、どうして、どこにいったの、何で、どうして、どうして、どうして。

 どうして、どうして、どこにいったの、何で、どうして、どうして、どうして。

 どうして、どうして、どこにいったの、何で、どうして、どうして、どうして。

 部屋の中が物で散乱する。

 見つからない。何で見つからないの。涙が出てくる。止まらない。

 視界が歪んでいるからなのか、それとも部屋の中が散らかっているからか分からないけど、全然見つからない。

「どうしたの、何ドタバタしているの?」

 ドアの向こうでお母さんの声が聞こえる。

 返事をしない。部屋の中を引っ掻き回し、探し続ける。

「どうしたの、これ?」

 またお母さんの声。お母さんはいつの間にか部屋の中に入っていた。

「…………ないの、探しても全然見つからないの」

「何がないの?」

「ないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないの。どこにもないの。ちゃんとあるはずなのに、どこを探しても見つからない。何でないの、どうしてないの、どこにいったの」

「湊ちゃん。落ち着いて。何が見つからないの?」

「大切なものなのに、大事なものなのに。どうして見つからないの」

「ほら、そんなんで探しものをしていたら、見つかるものも見つからなくなるから。まずは落ち着いて」

「でも、ないの。どうしても見つからないの」

「ちょっと落ち着こう、私も一緒に探すから」

 この言葉に少しだけ安心した。

「そんな状態で探し物をしても見つからないから。ちょっと休憩しよ」

 この言葉に小さく肯く。


 リビングでお母さんが入れてくれた温かい牛乳を飲む。お腹の中が温かくなってきた、少しだけ落ち着いた。

 だけど、落ち着いたのはほんの一瞬だけ、また不安になってくる。

 早く探さないと、見つけないと、あれは私にとって大事なものだから。

 手伝ってくれるとお母さんは言ってくれたけど私は一人で自分の部屋に戻る。

 さっきまでの半狂乱になった後が。

 部屋中が、ほんのつい前に私が手当たり次第にひっくり返した物で散乱している。

 こんな状態で見つかるのだろうか?

 不安が強くなっていく。

 もしかしたらもう二度と見つからないかも。

 弱気になりながら、探索を。

「どう捗ってる? それで探し物はなんですか?」

 一人で探し物をしている私の背中に頼りがいのある声が。

「……クマのマスコット」

「大変。急いで探さないと」

 一言でお母さんは理解してくれた。

 二人で探す。ついでに部屋の掃除も一緒に。

 一人じゃないというちょっとした安心感、それと相反するもしかしたら間違って捨ててしまったんじゃないのかという不安感。

 大丈夫。間違って捨てたりなんかしていない。それはお母さんも言ってくれている。

 何回も探した場所も何度も確認する。

 ベッドの下も、チェストの裏側も、机の裏も、下も。

「……あった」

 机の下に小さく転がっていた。ちゃんとここも探したはずなのに。

 ここにはなかったはずなのに。

「良かったわね。大切な形見だもんね」

「うん」

 うれしいことのはずなのに涙が出てくる。

「落ち着いて探すと案外簡単に見つかるものよ。人生ってこんなものなのよ」

 良かった、見つかって。

 見つかってくれたという安心感が私の中に急速に広がっていく。それと一緒に眠気も。

 散らかした物を全部片付けてから、私はクマのマスコットをもう絶対に手放さないようにしっかりと握りしめて、ベッドの中へ。

       

 熟睡できた。 

 もう絶対に失くさないように、今度こそ大切に机の上の飾っておこう。



   こう


 課題漬けの一週間がようやく終わった。

 これで晴れて停学の処分が解ける。こんなにも机の前にいたのは高校受験以来だろうか。いや、それ以上の時間座っていたような感覚だ。

 ともかく、今日から復学。つまり学校に行かなくちゃいけない。

 ずっと家に居たから登校のためとはいえ久し振りに自転車に乗れるのはうれしい。けれど、本心ではあんまり行きたくない。

 だけど、出席日数が危ないらしいので、嫌でも登校しなくては。別に留年しても構わないけど、また親に小言を言われるのもなんだし。

 とにかく、一週間ぶりの学校。

 まあどうせ行っても授業は聞いていないから、とくに何もすることはないんだけど。

 とりあえず、行こう。

 あ、そういえばヤスコに言われていたこと、すっかり忘れていた。

 まあ、いいか。これから考えれば。期限は過ぎたけど。


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