夏休み 5
航
夏休み最後の日曜日、藤堂さんの姿は紙芝居の上演場所にはなかった。
屋上で約束したのに。
それなのに一度も観に来てくれなかった。
気落ちしてしまい、自暴自棄になり、何もかもが嫌になって、全てを放り出して、ショッピングセンターを飛び出していく……なんてことはしなかった。
ガッカリした気分になったのは紛れもない事実だけど、藤堂さんだけが観客ではない。実際に目の前には、ヒーローショーに比べればわずかだけど、それでもベンチが全て埋まるくらいにお客さんが。
せっかく観に来てくれたこの人達を楽しませないと。
それにはまず俺自身が楽しんで上演をしないと。
そう心掛けるのだが、やはり藤堂さんが観に来てくれなかったことが心の奥底で気になってしまう。
……もう興味をなくしてしまったのだろうか?
いや、たとえそうだとしても藤堂さんなら一度くらいは観に来てくれるはず。
だったら……もしかしたら夏休みに入ってから事故にあった、もしくは大病を患ってしまい入院生活を送っているとか。
気になると同時に、大きな後悔を一つ。
どうして俺は携帯電話を持ってない、文字通り携帯していないんだろう。もし持っていれば、あの時藤堂さんの番号を合法的に知ることができたのに。そして今の状況で、あれこれと思い悩むことなく近況を電話で確認することができたのに。
でも、持っていないのだから仕方がない。
持っておけばよかったなと、また後悔を。
二学期になったら藤堂さんの元気な顔が見られるのだろうか。また屋上で話ができるのだろうか。
いつもは夏休みが終わらないといいのにと思ってしまうのに、今年は速く二学期になってほしいと願ってしまう。
……まあそれはともかく、観てもらえなかったのはやっぱり少しさみしいような気が。