おまけ 11
湊
「ごめんなさい」
私と結城くん、二人で上演した紙芝居が終了後、すぐに恵美ちゃんが私の所に駆け寄って話しかけてくれたけど、まだ舞華さんが上演している最中だから待ってもらって、一時台の紙芝居が全て終了して、改めて私から。
開口一番の言葉はさっきの。
これには二つの意味を込めて。
「待たせたこと? それならこっちが悪いんだから、湊ちゃんが謝る必要なんか全然ないよ」
「……でも……」
待たせてしまったのは事実。それについてちゃんと謝らないと。
「あたしも、もっと考えて行動すればよかったんだよね。上演中に後ろで何かしてたら、観ている人がすごく気になっちゃうし。それに待っているのも全然嫌じゃなったし。久し振りの紙芝居面白かったし」
そう言ってもらうと、自分が上演していたわけじゃないけれどちょっとだけ誇らしいような気分に。
「……それもだけど……」
まだ謝罪の言葉には理由が。
「他にもなにかあるの?」
「……紙芝居のこと秘密にしていて、ごめんね」
「いいよ、別に。そんなの謝ることなんかじゃないよ」
「……本当はね……演劇、舞台の興味が出てきたというのはちょっとだけ嘘で……紙芝居がしたいからバドミントン部を辞めたの」
秘密に、隠していたのは、本当のこと、紙芝居のことを知られたら、もしかしたら馬鹿にされてしまうんじゃないのか。恵美ちゃんは、そんなことをするような子じゃないとは知っているけど、もしかしてと考えてしまって言い出せなかった。
「そうなんだ。でも、そんなの全然気にしなくても。さっきの湊ちゃん、楽しそうな、それでいて真剣な良い顔していたから。やりたいこと見つけたんだなと思った」
「本当?」
どんな顔で上演していたのか自分じゃ分からない。後で、撮ったビデオを観る予定になっているけど、それでも観ていた側の人からそう言われると照れてしまう。
「ホント、ホント。あっ、でもあたしの顔を見た瞬間はすごく固まった表情していたな。それに意外と面白かったし。あ、でもお芝居はまだまだかな」
「……そんな急にうまくなれないよ、結城くんみたいに上手にできないよ」
まだまだ勉強中の身だから。
「そういえば、あれってうちのクラスの結城だよね?」
「うん、そう」
「教室とは全然違うな。アイツ、学校ではあんまり目立たないけど。あ、でも停学で変な存在感は出したけど、結構凄いね」
「うん」
私のことじゃない、結城くんが恵美ちゃんに褒められたのだけれども、自分のことのように、いやそれ以上にうれしいような気が。
「声も見た目と違って意外とカッコイイし。寿々とか松っちゃんが観たら、もしかして結城の紙芝居にハマるかも」
寿々ちゃんと松っちゃんはバドミントン部で一緒だった子で、マンガやアニメが好きな人達。
でも……。
「あのね恵美ちゃん、それはちょっと違うから。結城くんの声はかっこいいじゃなくて、かわいいの」
その後、私は結城くんの声がいかにかわいいかを、恵美ちゃんがちょっと引くくらいに力説したり、コミカルな演技もすごいことを話したりした。
恵美ちゃんは、舞華さんの姿に見覚えがあって、久し振りに観て懐かしいと言ったりしていたら、次の上演時間がいつの間にか間近に迫っていた。
航
本来ならば、上演の合間の時間を利用して、スポーツ量販店にグローブを藤堂さんと見に行く予定になっていたけど、それは叶わず、藤堂さんは突然来訪してきた友人と話を。
一緒に行けないことは残念には感じてはいるけど、そのことで不機嫌になったり、その原因になった藤堂さんの友人、一応俺のクラスメイトでもあるけど、を恨んだり、妬ましく思ったりするようなことは毛頭ない。
と、かっこいいことを言えればいいのだけれども、本音を白状すれば、ほんの少しだけ疎ましく思ってしまうような嫉妬心が俺の中にあるけれど、それをさらけ出して二人の間に強引に割って入るような馬鹿ではない。
そんなことをすれば藤堂さんに嫌われてしまうのは容易に想像できる、それによってもしかしたらそのことが要因で紙芝居を辞めてしまう可能性も。
だから、俺は二人にはなるだけ関心がないような態度を装いつつ、次の紙芝居の上演の準備を。
でも、内心は二人がどんな話をしているのか少し興味が。
だけど流石に、二人の話を聞きに行くのは自重を。
二時台の紙芝居は、する直前に突然藤堂さんからのリクエストがあって『ながぐつをはいた猫』を。
先週は持ってきてなかったけど、今週は準備しておいてよかった。
次は舞華さんの紙芝居。
そして本来ならば予定には入っていなかったのだけど、一時台から続けて紙芝居を観ていた人が、約一名を除いて、いなかったのでもう一度藤堂さんと一緒に『モゲタンの冒険』を。
友人が観ている前でだけど、今度は藤堂さん、最初から最後まで落ち着いて、それにさっきよりも上手く、楽しく上演を。
それにつられて俺も自然と力が。
「意外とカッコいいじゃん。湊ちゃんはかわいいって言ってたけど」
上演終了、突然に背中に言葉が。
驚いて振り向くと、そこには藤堂さんの友人の……名前なんだったっけ?
けど、それよりも何で俺に突然話しかけてきたんだ?
俺に何か言うよりも、友達である藤堂さんに声をかけたり、感想を言ったりするのが先なんじゃ。
まあ一年間同じ教室で学んだ間柄ではあるが、それ以外の接点なんかないのに。
それよりも、さっきの言葉は。
その意味合いを今一理解できないけど、だからといって無視してしまうのも。
けど、何と言って返したらいいものか。
戸惑いだけではなく、困惑も。
「湊ちゃんのこと、よろしくね」
依然どう返していいのか考え中の俺に、また言葉が。
そんなことは頼まれなくとも。
同じ紙芝居をする仲間として、いやそれ以上に好きになった子には色々としてあげたいと思うのは当たり前。
「おう」
今度は迷うことなく、力強く答えることができた。




