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おまけ 8


   みなと


 さっきの結城くんの言葉の意味は、私の想像通りのデートへのお誘いなのか、それとも単純に言葉通りの意味合いなのか、考えても考えても全然分からなくて、だけどもし想像通りにデートへの誘いの言葉だったらすごくうれしいかもと思っている私は、借り物の大事なロードバイクをあらかじめ家族に報告してあり、保管場所になるガレージの中へ。

 ガレージの中でお父さんと信くんが待っていた。

 どうやらロードバイクにすごく興味があったらしい。


 先週ヤスコさんに送ってもらった時にガレージの中へと運び入れておいたデイスプレイスタンド、ロードバイクは軽さが正義らしくてスタンドがついていないから、を後輪につけて停める。

 そのロードバイクがお父さんがジックリと観察する。

 信くんも見ながら「かっこいい」という言葉を連発。

「なあ湊、これって変速のレバーがついてないけど、どうやってギアチェンジするんだ」

 舐めまわすという表現がピッタリに当てはまるくらいに、色んな角度からロードバイクを眺めていたお父さんが。

「えっとね、ここで変えるの」

 ロードバイクのギアの変え方はすごく特殊だ。教えてもらわなければ絶対に分からない。

 まさかブレーキとギアのためのレバーが一緒の場所にあるなんて

 それを内側に押し込むなんて。

 言いながら右のレバーに指をかけてから大事なことを思い出す。

 このままギアを動かしたらチェーンが落ちてしまう。故障の原因になってしまうかもしれない。

 まずは……。

「お父さん、ペダルを回して」

 私の言葉に、お父さんはロードバイクのペダルを手で回してくれる。

 ペダルの回転と連動して後輪が勢いよく回る。

 レバーにかけていた指を内側に押し込む。

 カチャンという音とともに、後輪のギアが一段重く。

「こうやってレバーを内に押し込むの」

 言いながら、どんどんとギアを重たくしていく。

「それで軽くするときは、シフトレバーとブレーキレバーを押し込むの」

「それで前はどうするんだ?」

「前のギアはね、たしか……」

 今日帰る時は使用しなかった。

 お店で教えてもらったことを頭の中で反芻して。

「えっとね、後ろのとは反対で……左のレバーを同時に押し込むと重たくなって、軽くする時は小さいレバーだけ」

 実践してみることに。

 後輪のギアチェンジよりも大きな音で変速した。


 しばらくペダルを手で回し続け、ギアを変速させて遊んでいたお父さんが、

「面白いな、コレ。でも、車とかならエンジンの回転数で変速するタイミングを計るけど、自転車は何を基準に変速するんだ?」

 と、訊いてくる。

「えっとね、ここにあるセンサーでペダルの回転数と計測して、上手な人はそれを見ながらギアを変えるってお店の人は言ってた」

 そう言いながらチェーステーと呼ばれる場所に装着してあるセンサーを指す。

 それからステムというハンドルとロードバイク本体を繋いでいる部品の上に載っている小さな画面を。

「おお、数字が出てる。上のはスピード計か、それで下の数字は?」

「ケイデンスとかいうペダルが一分間で回転する回数。90回転を目安にするんだって言っていた。それと速い人は、他にも心拍数を常に計りながら走ったり、パワーメーターとかいうのを見ながら走ったりするんだって」

 うろ覚えの知識で拙い説明を。

「湊には難しいだろ、こんな画面を見ながら乗るなんて」

 ちょっと馬鹿にされてしまうけど、でも事実だから仕方がない。最後位で何度かスピード表示を見ることができたけど、確認しながら走るのなんて私には無理。

「うん。だから、結城くんが自分の体と対話しながら走って、それでギアを変えればいいって教えてくれた」

「どういうことだ?」

「難しく考えないで、重たいと思ったら軽くして、反対にどんどん回せると思ったらギアを上げるんだって」

「ふーん、なるほどね。やっぱり演劇なんかしている子は言うことがちょっと普通の高校生とは違うな。いい大人でも体との対話なんて言葉出てこないぞ」

 感心したようにお父さんが言う。

 私がバトミントンを辞め、お芝居を、というか紙芝居をすることはもうすでに家族に報告してあった。

 その時一緒に、去年の子供の日に家族で観た紙芝居を上演していた少年、つまり結城くんのことも話してある。

「なあ、今度その結城くん、家に連れて来なよ」

「えっ、どうして?」

「湊の話を聞いていると面白そうな子だし、それに俺もちょっと自転車に興味が出てきたから、じっくり話を聞かせてもらいたいと思ってさ」

 世の中では普通、年頃の娘を持つ父親というものは、男の子を家に連れてくるのを嫌がると聞く。それなのにうちのお父さんはその反対で連れて来い、と。

 もしかしたらお父さんとお母さんに認めてもらえたりなんかして。

 これがきっかけで結城くんと、そういう関係になれたりして。

 もうちょっと初めて経験している感情を楽しみたいような気持ちもあるけど、でもそれよりも結城くんと一緒になれることのほうが何倍もうれしいかも。

 結城くんの気持ちは分からないけど、おかしな、変な妄想が私の頭の中を駆け巡ってしまった。



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