おまけ 5
湊
日曜日、私は自転車に乗ってあのショッピングセンターへと。
これまでは結城くんの紙芝居を観るために行っていたのだけれども、今日は、今週からは違う。
参加するため、だ。
といっても、私はまだ人前で紙芝居を披露するだけの技量も、それから勇気もないから、ただ一緒にいるだけ、少しお手伝いをするだけ。
それでもちょっとだけ緊張してくる。
待ち合わせの時間よりも早く到着したのに、もう結城くんは、それからヤスコさんも到着していた。
紙芝居上演前の準備をお手伝い。
これまでずっと観る側だったから知らなかったけど、ベンチは置いてあるのをそのままの位置で使用するんじゃなくて並べ替えたり、見やすいように少し角度をつけたりしていたんだ。
それから以前に一度見たことがある台座の下の部分、これを取りにショッピングセンターの裏側、普通のお客さんでは入れない場所へと結城くんの案内で、足を踏み入れる。
このショッピングセンターに通うようになって約一年、奥がこんな風になっているなんて知らなかった。
ちょっとだけ新鮮な気分に。
一時台の紙芝居を斜め後ろ、つまり控え場所から観ることに。
いつもとは違う場所で観ることに。
ここからだと観ている人達の様子が、表情がよく分かる。
それに背中越しの紙芝居だけどヤスコさんのも、それからもちろん結城くんの紙芝居も面白くて、楽しませてくれる。
楽しませてくれるけど……。
……私もいつの日か、こんな風には絶対にできないけど、それでもこの人達と一緒に上演しても恥ずかしくないような紙芝居ができるのだろうか。
自分でしたいと言い出したことだけど、不安になってくる。
弱気になりそうな気持を振り払う。
下手なのは自分でもよく分かっている。あの人達のようなレベルになるのには、きっと長い時間の練習が必要だろう。
私はまだ一歩を、もしかしたらまだ半歩くらいかもしれないけど、踏み出したばかり。
でも、いつの日にかはきっと。
その時は結城くんと肩を並べて、一緒に観ている人達をみんな笑顔にするような紙芝居ができるはず。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか一時台の紙芝居が終了していた。
もっとちゃんと見て勉強しないといけなかったのに。
上演が終わった後で、結城くんがちょっといなくなり、ヤスコさんと二人きりになった時に、
「何か気になったことあった?」
と、訊かれる。
それに対して少し考え、私が口にした質問は、
「あの……紙芝居って二人でしたら駄目なんでしょうか?」
「へぇ?」
「紙芝居って一人で台座の右側に立ってしているじゃないですか」
「うん、そうね。その方が台座の中から紙が抜き取りやすいから」
「でも、左側も空いていますよね。そこにもう一人立って二人で一緒に上演するのはどうかなって」
昨日のお店で見た二人乗り用の自転車、結城くんは確かタンデムバイクって言っていたような気が、を思い出して訊いてみることに。
「ああ、たしかに空いてるね。まあ、そういう演り方もあるかもしれないけど」
「その方法で私がやってみたら駄目でしょうか?」
一人で上演するような自信は今のところ全然ない。だけど、横で結城くんが一緒にしてくれるのなら今すぐにだってできるかもしれない。
「でもね、二人で一緒に紙芝居をするのってけっこう難しいのよね」
「難しいんですか?」
二人で役を分けて読むのだから労力は半分だと、安易な考えを持っていたのに。
「間とか掛け合いがね。しっかり息を合わせないと、というか稽古を重ねてないとすごく悪くなってしまうのよね。昔の話なんだけど、複数人で紙芝居をしていた団体のを偶然観たことあったのよ。まあ、素人のオバサン軍団のしていたものなんだけど、それがグダグダの酷い紙芝居になってたのよ。その当時はウチはまだ舞台をしていたから、紙芝居の練習だけに時間を割けない、それで一人で一本という演り方にしたのよね」
「……そうなんですか」
結城くんと二人でしてみたかったような気もあったけど、ちょっと残念。
「けどまあ、二人で一緒に紙芝居の上演というのも面白そうね」
ヤスコさんの目がなんだか怪しく輝きながら。
「……えっ」
面白そうなのだろうか?
「湊ちゃんの練習にもなりそうだし」
「……あの……」
「うん、決めた。これが成功したら、あれも行けるはずよね」
なにやらヤスコさんが独り言のように言いながら考え事を。
ちょっと違う様子のヤスコさんに戸惑って、どうしていいのか分からずにいたところに、
「何を決めたんだ」
結城くんが戻ってきてくれた。
航
ヤスコのやつ、絶対に何か、碌でもないことを思い付いたんだ。
あの顔は絶対そうに違いない。




