第一章;大陸の堅塁4
かつての上官であった赤城を遙かに上回るエキセントリックぶりにあ然としていた和真は格納庫の扉の向こうから響く暢気な声によって正気に戻された。
「あーやっぱりここにいたか。葵、四方姉さん呼べ。」
「はい!四方さーん!長官見つかりましたよー!!格納庫にいますよー!!」
振り向くと目の細い白髪の男と長い髪を後ろで束ねた女が微妙な表情を浮かべて扉のそばに立っていた。
それに気づいた乃木は手招きして二人を呼んだ。
「丁度良い所に来た。淳也、お前のとこの部下が来たぞ。」
「まじですか。使える奴ですかね。」
淳也と呼ばれた男はそんなやりとりをしながら和真に向き直る。
「池上淳也だ。お前の所属することになる第三機竜旅の旅帥ってことになる……って、やめとけやめとけ。俺はそういうポーズは苦手なんだ。」
呆れたような表情で投げかけられた後ろ半分の言葉に、和真は慌てて反射的にとってしまった敬礼の姿勢を解いた。
白嶺皇国の池上淳也といえば、大陸全域にその名を知らぬ機竜乗りはいないほどの天才機竜乗りである。
先のプロシャ帝国と琥邑・白嶺連合軍の戦争において、哨戒任務中にプロシャの主力機竜三機と遭遇し、ろくな火器も積んでいない哨戒用の壱型機竜で二機を撃墜した上で帰還したというのは、今も伝説として語り継がれている。
その伝説が目の前にいるのである。畏敬の念を感じるのも無理はないだろう。
「乃木長官!」
室内に漂う緩い雰囲気は凛とした声にかき消された。
見ると眼鏡をかけた柔和な雰囲気の女性が怒りと呆れが入り混じった表情で乃木に向かって歩いて来る所であった。
名を呼ばれた本人は涼しい顔でひらひらと手を振っている。
「よう、介殿。」
「ようじゃありません!!国司の長たる貴方が不在の際に深刻な事態が発生したらどうするおつもりですか!!」
女性は相当怒っているようだが、その柔和な雰囲気のせいで殆ど威圧感が感じられない。
そんなやりとりを後目に和真は隣に立つ淳也に淡々と質問をする。
「隊正、あの人が四方さんですか?」
「ああ。」
「……四方ってあの四方一恵ですか?」
「他に誰が居る?」
五年前の文化の改革後女性で初めて四等官の職についた人物が目の前にいることに和真は軽く目眩を覚えた。
白嶺皇国の軍隊の構成はこの様になっています。軍団→校→旅→隊→火→伍 それぞれ、軍毅→校尉→旅帥→隊正→火長→伍長が指揮を取ります。また機竜部隊において隊正は二機から三機の機竜を指揮します。