序章;雨
初めまして、飴色蝸牛と申します。「ハイテク古代日本」という訳の分からないテーマで書き始めた作品ですが、読んでくれた方々がわずかでも楽しんでくださったら幸いです。
幻想大陸鉄騎録
序章 雨
噎せ返る様な血臭はそぼ降る雨の中でも薄れずに廃墟と化した村を包み込んでいた。
その中で二つの人影が対峙していた。
一人は初老に差し掛かった男。服装から、指揮官クラスの軍人であると予想できる。
もう一人はまだ物心つくかつかないかといった年齢の子供。薄汚れた身なりの明らかに戦災孤児とわかる外見をしている。
互いに雨に濡れることも気にせずに静かに向かい合っていた。
「坊主、名前は何ていうんだ?」
孤児と目線を合わせるように屈み込み、初老の男、鎮西府権帥物部惟嵩は尋ねる。
いつの間にか周囲には彼の部下が集まりその光景を遠巻きに見ていた。
「……和真。」
かすかだが、はっきりと発せられたその名を聞いた男の眼は一瞬驚きに彩られるが誰一人としてそれに気づいた者は無かった。「……そうか、和真か……和真、大丈夫だ。もう危ないことは何も無いからな……。」
意味を理解できずきょとんとする和真の頭を撫でながら、惟嵩は言い聞かせる様に繰り返していた。
時は皇歴2856年、この少年、石上和真の物語が始まるのは更に14年の後のことである。
登場人物の肩書きや役職は奈良〜平安時代にかけての律令制を参考にしていますが、蝸牛の独自の解釈や創作(笑)が、多分に含まれているのであまり真に受けないようお願いします。