side.Hi 7話 七色並んで掛ける虹
どんなに楽しいイベントでも準備と本番の後には必ず終幕が来てしまう。
人生を…いや、日々の生活を楽しく送るコツの一つは、終幕を淋しく迎えるのではなく、次のイベントの準備開始と捉えることではないかしら。
最終日の朝、夜勤明け、工場の外に出ると、また小雨が降っていた。けれど、私は三日目のように泣きたくなったりはしない。
今日はオープン10時から20時までギャラリーに居る予定だ。
早く眠って少しでも体力を回復しなければいけないのだけれど、脳は活発でクリアで、生まれ変わったような気分でバイクを走らせると、雨粒が夏のミストが如く全身に降り注ぎ、前髪を伝った雫が眼に入って痛いけれど、気に入りのアップテンポの曲を口ずさみ、無駄に遠回りして帰る。
いま、心にあるのは不安や恐怖ではない。
ねぇ、藍、私、やっぱり幸せだって思う。
昔、流した涙は全部、今日のこのときの為の助走だったって思えば、大切に抱えていこうって思えるし、経験したこと出会った人、丸っと全部、私の生きる道には必要だった、て言い切ることにするよ。
少し早めにギャラリーに着くと、
「その顔ってことは、心はニコニコ元気いっぱいみたいだね? 最終日、一緒に頑張ろう」
谷木さんが私の気に入りの栄養補助食のゼリー飲料を渡してくれた。
「すぐ戴いても宜しいですか?」
「召し上がれ」
ほらね? この優しい心が滲む目尻の皺にも、私にとっての幸せがある。
普段のそれより格段美味しいゼリーを飲み終えると、オープン準備に取り掛かる。
PCを立ち上げHPを開くと、私が毎日書いている一日一日のレポートのコメント欄に新たなコメントが幾つも投稿されていることに気付いた。
細かく何枚目のあの絵が好きだ。とか、ウェルカムボードが映し出した虹の中でこの時間のそれが一等綺麗だ。とか、有難いコメントが並ぶ中、毛色の違う一つのそれが目立っている。
〖最後の最後の一音までめいいっぱい楽しんで、一緒に旨い酒を煽ろう〗
(あの馬鹿…的確に私の嬉し泣きのポイントを押さえてくるんだから…)
私の直接の連絡先を知らない人間で、こんな気安い言葉を掛けてくれるのは考えるまでもなく一人しか居ない。
PCに覆い被さるように突っ伏し、暫し、込み上げてくる気持ちが静まるのを待つ。
深呼吸を幾度もして、私はウェルカムボードを抱え、外に運んだ。
「静緋色第三回個展最終日に、柔らかで笑顔溢れる虹が掛かりますように」
オープン後暫くすると、外がとても明るくなった気がして出てみると、雨雲がはけて眩しいくらいの太陽が地上を照らす。
「こんにちは。もうオープンしてますか?」
私と同じくらいの小柄の女の人に話し掛けられ、どうぞ。とドアを開くと、ありがとうございます。とその人は笑った。
その、とてもとても柔らかで優しく甘く、可愛らしい笑顔を私はどこかで見たことがあるような気がしたけれど、思い出せないまま、コンスタントにやって来るお客さんの対応にあたった。
あの人がお帰りの際に面識の有無を訊いてみようかと思っていたけれど、何時の間にか姿はなく、午前中が終わってしまった。
午後は、初日の藍のそれとは違う意味で、意外な人達が来てくれた。
「ヒイロ、良い仕事、してるか?」
日本人の高身長とはまた異なるがっちり大柄のおじさんが二人、にっ、と笑う。
「師匠、エンリコ! 遥々来てくれたんだ!」
「おうよ! 第一回の頃からずっと来たかったんだがな、休み取れなくて悪かったな」
無遠慮に私の頭頂部の髪を上からガシガシ掻き回す師匠の大きな手は相変わらず痛いけれど、温かい。
「俺も漸く休みが取れて、何とか最終日に間に合って良かったよ。久しぶりだな? ヒイロ」
エンリコも師匠同様、手加減なくバシっ、と肩を叩く。
「師匠もエンリコも来てくれて有難いけれど、痛い。そろそろ腕力の面では手加減を憶えて下さい」
苦笑しながら訴えても、二人にはガハハッ、と笑い飛ばされ、やはり暖簾に腕押しなのだな、と変わらない接し方に懐かしさを憶える。
二人は約1年前まで勤めていた外食産業のトラットリアカローレの元上司で、入社してすぐの配属先だったイタリアはミラノ本店の店長兼料理長兼取締役のヤルノ・ベルトーイアと、半年後、配属二店舗目となったフィレンツェ店でお世話になった店長兼料理長兼取締役のエンリコ・ベリーニだ。
ヤルノには料理の何たるか、から修行させて貰い、調理師免許も取らせて貰った。
最初は右も左も分からない、簡単に折れそうな細っこい腕の日本人の小娘の面倒を、何で俺が見てやんなきゃいけねぇんだ! と、緋色という名前もロクに呼んで貰えなかったけれど、剛腕の男達に負けてなるかと食らいつく私の覚悟と姿勢を段々と認めてくれるようになり、数か月後には自慢の弟子だと言って、可愛がってくれるようになった。
役職や苗字、日本で言うところのさん付けで呼ばれることを嫌うヤルノだけれど、“師匠”という日本語の呼び方は気に入ってくれて、フィレンツェ店の副料理長の突然の退職という危機に、私を副料理長として異動させることを推薦してくれたのもヤルノ師匠だった。
エンリコも社全体の総料理長とも呼べるヤルノの推薦だから仕方がないと、表面上は私を受け入れたけれど、最初はやはりバンビーナ扱いで、風当たりも強かった。
けれど、1週間後にはヤルノ仕込みのイタリアンの腕と根性を買ってくれて、料理長と副料理長として良いコンビで仕事をさせて貰えた。
日本の本社から丸の内の東京本店長兼料理長として帰国の辞令が下りたときは、ミラノ、フィレンツェ両店をあげて盛大に祝ってくれた。
帰国後も、会社の方針で、ミラノ、フィレンツェ、東京の主要三店舗の料理長が一同に会して新メニューの開発をしていたので、私は定期的にミラノに戻り、三人であぁでもないこうでもないと、完徹上等でアイデア合戦を繰り広げた仲でもある。
私がカローレを退職しようと考え始めたとき、社内で相談したのもこの二人で、二人に出会えてなかったら私は十中八九、中途半端な立場で中途半端な腕の料理人を未だに惰性で続けていたのだろうと思う。
「ヒイロ、お前、カローレに居た頃より痩せてないか? ちゃんと食ってんのか?」
「そこそこには…」
「ヤルノ、こいつ明らか誤魔化してるよ?」
つくづく思うのだけれど、私は自覚しているよりもずっと単純で分かり易い人間らしい。自分が心を許した付き合いをさせて貰っている相手には、簡単に見抜かれる。
「師匠、エンリコ、私やっぱ二人のこと大好きです」
自然に言葉が出ていた。
「知ってる」
エンリコが笑う。
「んなの、当たり前だろ? ヒイロが俺達を愛して俺達もお前を愛して、だからあんだけの良い仕事が出来たんだろ?」
そうだ。師匠はいつも愛が全てだと言っていた。
初めて包丁を持つことを許されたあの日、先ずは自分から料理を愛して、共に厨房に立つ人間を愛して、それを伝えることだ。と教えられたのを未だ鮮明に憶えている。
実際、師匠は本当に心から店のスタッフを愛してくれていた。年齢的にも私からしたら18こ上で、ほぼほぼ父親みたいなもので、ミラノ店は師匠を中心に一つの大家族が如く騒がしく且つ温もりで満ちていた。
師匠の愛が全てという考えは、フィレンツェ店のオープン前、ミラノ店で師匠の下で副料理長として働いていたエンリコにも受け継がれている。
エンリコの年齢は私の10こ上で、父親と称するには若過ぎたけれど、その存在感と働きは一家の大黒柱そのもので、私が目指す店長兼料理長像の一つだった。
私は自分の絵のタイトルを一枚一枚イタリア語に訳して説明しながら、二人と一緒に展示スペースを周る。
最後の一枚の前で、師匠が口を開いた。
「ヒイロ、お前さ、いま淋しくないか? 独りぼっちで泣いてたりしないか?」
「ぼっちじゃありません。大丈夫です」
私は間髪入れずに答えることが出来た。少し前の私なら動揺したであろうけれど、私が進みたい道はもうはっきりと見えているのだから。
「そうか…なら、良し! ま、この個展を見りゃ、分かるけどな」
動揺が伺える師匠の声が気に掛かったけれど、言うなり、一人、大股でロビーに戻って行ってしまった。
「師匠…」
背中に投げた声に応えてくれたのはエンリコで、
「ヤルノは、もしお前が笑ってなかったらイタリアに連れ戻すつもりで来たんだよ。イタリアでも絵は描けるし、ヒイロの都合に合わせて正社員としてじゃないにしても、また自分のとこで面倒見てもいいって……つまりは親心だな」
「そっか。ふふっ、ヤルノ師匠らしい…仕事ではめちゃくちゃ厳しいのに、そういうところは本当に甘やかし放題」
「だな。俺もヤルノと似たり寄ったりだけどな? ヒイロは出来の良い娘だけど、淋しがり屋さんだから」
わざとらしく口角を上げるエンリコのそれが、私をからかう為ではなく、照れ隠しだと分かる。
二人でロビーに戻ると、
「じゃぁ、そろそろ俺達は出るとするか。他のお客さんも居るのにいつまでも俺達がヒイロを独占してらんないしな」
「もうですか?」
思わず引き留める言葉が零れてしまう。
「バーカ。んな淋しそうな顔すんな。また来るから、な?」
師匠が優しい声で宥め、両側から師匠とエンリコのごつい手にまた頭をガシガシされ、
「だから、痛いってば、二人共」
唇が震え、涙が零れそうになる。
「ヒイロ、お前さ、去年の画材屋の絵画展のときより絵、上手くなったんじゃないか?」
「俺も思った」
唐突に掛けられた二人の褒め言葉に驚く。
「いまはいまでちゃんっと頑張ってんだな?」
師匠は叱るのが上手いけれど、褒めるのはもっと上手い。
イタリアでの修行時代、幾度となく泣きそうになっても、全力で抑え込んで泣いてる場合ではないと、私だって皆みたいに作れるようになりたい。店の戦力になりたいと切実に願って、悪戦苦闘した日々を思い出す。本当に苦しかったけれどそれだけではなくて、一日一日が充実していて、楽しかった。
すぐに帰国するという二人を見送る為、一緒に外に出ると、
「ヒイロ、何時か、イタリアでも個展、やれよ?」
「師匠、それは勿論夢ではありますけど、口約束でもそう易々は…」
我ながら情けない返しだ。
「馬鹿野郎! そこは、やってやんぜって即答するところだろ? ハッタリでも何でもいいだろ? 本気で努力すんなら叶えられんだから、ヒイロなら」
エンリコにすかさずツッコまれる。昔もよくこうやって叱咤激励してくれたっけ…。
「うん、そうだね。やってやんぜ! だから、信じて待っていて下さい」
私は言い切り、笑顔で二人を見送った。
午後一に来てくれたヤルノ師匠とエンリコが帰ってからは知人友人の来場は少なく、シャルールの常連さんだという方々が続々といらっしゃり、バタバタしていたらあっという間に夜になり、クローズの20時間近になっていた。
「まだいいですか?」
静かになった室内に入口の開閉音が響く。
聞き馴れた声に反射的に眼をやると、入って来た藍と眼が合う。
「藍、どうしたの? 飲み会はシャルール集合だよね?」
私は駆け寄る。
「もっかい観たくて、お前の絵」
「そっか、ありがとうね。ゆっくり観てってね」
初日とは打って変わって、平静を崩すことなく笑った。
「今日は一枚ずつ解説的なこと、頼んでもいいか?」
「あんまり仔細には話せないけれど、それでいいなら」
軽くでいいからと言う藍の横に並び、一緒に作品を眺める。藍にどの絵の話が聞きたいのかを訊くと、それは音信不通だったこの11年間に出会った人達を描いたものだった。
「この人は誰?」
「専門の頃のクラスメイトでいまも付き合いのある友達」
「こっちは?」
「それも専門の頃の友達。クラスは違ったけれど、新卒のときに同じ図書館に就職した元同僚でもある人」
「こっちは?」
「それは図書館の次に勤めた会社の上司や同僚。イタリアで修行してたときにお世話になった料理人達」
「こっちは?」
「いまのバイト先の工場の上司」
「こっちは?」
藍は間髪入れずに訊いてくる。
「藍、自分以外全部訊く気? もうそろいいんじゃない?」
「…………んじゃぁ、もうその辺で終わりにしていいよ」
(いまいち、藍の意図が解せない)
後半に差し掛かったところで止め、私達はロビーに戻った。
「緋色、アコーディオンはもう弾いてないの?」
随分とストレートな問いで面食らったけれど、何も知らない藍が素朴な疑問として気になるのも分かる。
「そんなことないよ。プロを目指さなくなっただけで、いまでも趣味の範囲で弾いてる。藍は? ベース」
「俺はもうずっと触ってない。フランスに渡るときに売り払っちゃったし、向こうでも目を逸らし続けた」
「そう、なの? え、待って。てことは、藍は高1の夏で音楽を辞めたってこと? フランスでは音楽学校じゃなかったってこと?」
私も大概、藍のことを言えない。
「そうだよ? フランスでは大学も経営学部だし」
藍が音楽をやろうと辞めようと本人の自由だ。
「そうなんだ…ごめん。自分だってアコを背負っていたのは高校までで、専門は文化文芸。図書館司書だし、勝手なこと言った」
慌てて自分の言葉を引っ込めると、藍は、そしたらお互い様だな。と話を流した。
「ところでさ、あの件は決めたのか? 俺以外の五人も全員会ったんだろ?」
「そうそれ! 藍に真っ先に話したかったの。決めたよ。私やらせて貰いたいって気持ち固まった」
「そうか…うん、そうかそうか…良かった」
噛み締めるように言う藍に、
「後で皆さんに正式に挨拶させて戴くけれど、取り敢えず先に。藍、宜しくお願いします」
頭を下げると、
「こちらこそ宜しくお願いします」
と同じく頭を下げられた。
五日目最終日の最後のお客さんは藍で、藍が私の第三回個展のオーラスのお客さんとなった。
来場者数やチケットの売上などの計算と確認だけして、諸々の撤収は翌日、運送業者さんを呼んでからだ。
谷木さんに開催期間五日間の御礼を伝え、近くのカフェで待ってくれている藍をバイクで回収した。
シャルールに着くとドアの前に貸切と書かれたプレートが出ていた。
二人で店内に入ると既に皆さんお揃いで、入口のすぐそばに居た以前さんが真っ先に私に、ひいちゃん、五日間お疲れ様。と労いの言葉をくれて、私達二人にもシャンパングラスを渡してくれた。
待さんがカウンターの向こうから大皿を手に出て来て、
「緋色ちゃん、お疲れ。今日は緋色ちゃんの好物をもりもり作るからね、いっぱいいっぱい食べてね」
と、お皿の料理を見せてくれる。私の大好きなシュリンプのフリッターとオニオンリングだ。
「ありがとうございます。私、ぺっこぺこです」
「ぺっこぺこは良かったな」
何時もの声と柔らかな顔で笑ってくれる。
「明乃さんですよね? ここに来るのは初めてではないのですが、挨拶させて戴くのは初めてです。西日藍と申します」
私の背後から顔を出した藍が待さんに挨拶をするけれど、以前さんと橋真さんに後にしろ。と遮られ、橋真さんの仕切りで一先ず乾杯する運びになった。
「では、静緋色さんの第三回個展の無事の終了を祝って、乾杯!」
「かんぱーい!」
全員の声が重なり、薄いガラスのグラスをぶつける控えめな音がとても幸せに鳴る。
個展関係で暫くぶりのお酒は、喉から食道を通って身体に流れていく感覚が気持ちが良い。
取り敢えず一杯飲み干しグラスを置くと、橋真さんに声を掛けられた。
緊張しながらも本日、一等大切なことをお酒が廻る前に皆さんに話しておきたい旨を伝えると、全員私に注目するようにとやや声を張ってくれた。
深呼吸を二回して顔を上げると、錚々たるメンバーの視線がこちらに向いていて一層緊張が増し膝が笑った。
「皆さん、改めまして、静緋色です。今夜はお集り戴き、ありがとうございます。個展は無事成功と呼んでいい結果となりました。お越し下さった皆さんお一人お一人に改めて御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。この場では個展の御礼とユニットの件について気持ちが固まりましたので、お話したく存じます」
藍がコツ、とグラスをテーブルに置いた音がやけに大きく響いた。
もう一度深呼吸をして続ける。
「是非とも、私も皆さんのユニットに参加させて下さい。宜しくお願いします」
深々と頭を下げると、一瞬の間が開いた後、以前さんの、やったー! が店内に響いた。
各々グラスに二杯目のシャンパンを注ぎ、
「それでは、静さんの正式加入とメンバーが七人揃ったことを祝って、乾杯!」
「かんぱーい!」
皆、そこそこに杯を重ね、ペースが緩くなってきた頃、
「それではここで、俺達七人のユニット名を考えたいと思いまーす! 各自案を出して下さーい!」
発信は以前さんだ。
「碧、いきなり案を出せ、ではなくて、先ずはどうやって決めるのか? を考えるべきではないか? 例えば、このユニットのコンセプトとか、目指すものとか…」
橋真さんの意見に他の全員が頷く。
鈴野さんの
「どんなユニットになりたいか? で決めるのはどうですか?」
を受けて藍が、
「それなら七人の共通点を踏まえるのはどうですか?」
と提案すると、他の皆が口々に、いいね! それ。と同意した。
私は発言するのに少し気が引けたけれど、あの御祝いのお花に書かれた皆さんの名前を見たときから気付いていたことを思い切って口にしてみる。
「あの、偶然、なんだとは思いますが、私達七人全員の共通点なら、私一つ気付いてます。各々が名前に一色ずつ持ってるんです」
「あ! ほんとだ!」
左村さんも気付いた様子で声を上げた。
「しかも、全員異なる一色!」
高峰さんも続く。
「はい、そうです。全部で七色、ここに揃ってるんです!」
私のテンションが徐々に上がってくる。
「緋色、それはつまり」
藍は私が言わんとするところを察したようだ。
「橋真さんは黄色、以前さんは緑色、藍は藍色、鈴野さんは紫色、左村さんは青色、高峰さんが橙色で、私が赤色。これを並び替えると、空に掛かる虹になるんです!」
初めて七人が揃ったあの日、あの瞬間のメンバーの顔は何年経っても忘れない。
少し臭い表現だけれど、まさしく、あの場に大きな虹が掛かったような…宝物を見つけたときのような、ワクワク顔が私はたまらなく嬉しくて嬉しくて、この瞬間を切り取って一枚の絵にしてずっと大切に飾っておきたいと思った。
傷んでしまっても幾度でも修繕して、私達の始点が曇らないように。
私は、大切にとっておきたい思い出を、相手が忘れてしまってもそれはそれでいいと思っている。
忘れてしまったことを淋しく思わない、ということではなくて、あのとき、あんなことあったよね? て、話したときに、そんなことあったっけ…て、記憶を探るその顔が、嫌いじゃないのだ。
今週もお読み戴きましてどうもありがとうございました。
次回、side.Hi 8話 atelier arc en ciel は5月8日火曜日午前0時 掲載予定です。