side.M 2話 碧と緑
待くんもひいちゃんも格好良いな。
藍ちゃんの一途さは素敵だな。
きぃちゃんのブレない包容力には憧れるな。
アオくんの視野の広さは凄いな。
紫来さんの情熱は眩しいな。
ダイちゃんの素直さは癒される。
じゃぁ、俺は? 俺には何があるかな?
2018年 3月25日
「俺さ、名前の色以外にも共通点あるの指摘しときたいんだけど、いい?」
第三回静緋色個展最終日の夜、ひいちゃん、個展お疲れ様会兼クリエイター集団結成記念飲み会の場。
俺は自分の顔のこめかみに手をやり、眼鏡のポジションを直すポーズを取る。
俺以外の六人共気付いたはずだが、誰も何も言わない。
(こいつら、敢えての無言、ノーリアだな)
「俺だけなんだよ! 俺だけ仲間外れ! 何がどうしてここまで眼鏡族なの? 示し合わせたの?」
「いや、碧、俺達はただ視力が弱いだけの眼鏡族だから」
きぃちゃんの声にやや呆れが滲んでいる。
「そうだよ? 碧くん、俺達は偶然仲良く六人揃ってお洒落眼鏡族なだけだよ?」
わざとらしく含みのある笑みを浮かべるアオくんは完全に面白がっている。
「あ、あの、大丈夫ですよ? 碧さんも掛ければいいんですよ。伊達だって同じ眼鏡族ですよ? きっと…」
あわあわするダイちゃん。
「碧、男共が眼鏡族なのはユニット結成前からだ。たまたま静さんも眼鏡族だったからって騒ぐな」
紫来さんは紫来さんらしく、冷静にバッサリ切り落とす。
「私だって、子どもの頃からですよ? 伊達で済むならそれに越したことないですよ? 安上りですし、レンズ曇りそうなときは無防備に外せますし、良いことしかありません」
「緋色、お前はそこで全力で伊達案を推すんだな?」
藍ちゃんもまた藍ちゃんらしい。コメントはひいちゃんに対してであって、俺へは特段ない。
「ひいちゃん、ダイちゃんありがとう」
大の男が仲間外れとか…何、気にしてんだ? てさ、皆思ったよね? 大体さ、他者と同じじゃないから自分らしさだろ? 他者と違うから自分にしか作れない面白い作品が創造出来るんじゃないか。
(でもね、そういうことじゃないんだよ…)
俺だけノーメガネ。それはただ一つの記号にしか過ぎない。でも、俺には何だかそれが一つの壁に思えてならないんだ。既に良い作品を生み出しているし、今後も生み出していける皆と、未だ分からない俺。大切なものをちゃんと持っている皆と、本当は何も持っていない空虚な俺を隔てるもの…。
2018年 6月6日
ひいちゃんの発案でバーチャルパークの形で作り始めた俺達クリエイター集団atelier arc-en-cielの公式サイト上で流すメインテーマ曲の歌唱のレコーディングが、ついに俺の順番となった。
各々自分のソロパートの歌詞を書いたのだが、正直、俺は俺のこの詞で良いのか悪いのか分からない。
一人が二人、二人が三人になって四人になって、最終的に七人まで増えて、アトリエ アルカンシエルが出来ていく様子を表現しようというコンセプトで作っているから、楽器の演奏も歌唱も俺のパートから始まる。
俺がクリエイター集団結成の言い出しっぺだから俺から始まるのは頷けるところなわけだが、大役過ぎて身に余る。
レコーディングはきぃちゃんと予定が合った順にやっているから俺が最初ではなくて、正直、ホッとしている。
「きぃちゃん、俺の前に録ってるアオくんの歌、聴ける?」
「おう、すぐ出せるぞ」
きいちゃんは言葉通りすぐにアオくんの歌を流してくれる。
♪『変化を肯定して受け入れて、困惑すらも楽しんじゃえばいいんだね? 一人では気付けなかった自分の奥にあるもの 七人になって気付けた』
アオくんの詞は存外ストレートで普段のあの悪戯っ子みたいな笑みはない。アオくんの中で芽生えた気持ちがタイムリーに響く。
「やっぱりメインをアオくんに任せて良かったね? めちゃくちゃ上手いし、かっこいい」
「そうだよな? 上手いし、歌声が耳に心地良いってひいちゃんと藍も絶賛してた」
「二人、もう聴いたの?」
「あぁ。アオのときは藍とひいちゃんにも手伝って貰って録ったんだよ。他の六人の指針になる一人目だったし、アオ本人が二人にもレコーディング参加して欲しいって言ってな」
「そうなの? 俺もひいちゃんにこの場に来て欲しかったな」
「さっき帰って来たから呼べば来てくれると思うぞ?」
ひいちゃんの居そうな屋上の菜園に行くと丁度水やりが終わったところらしく、ベンチで休憩中のひいちゃんに会えた。
レコーディングに立ち会って欲しい旨を話すと快諾してくれ、連れだって3階に下りる。
俺はひいちゃんにずっと訊いてみたかったことをぶつけてみた。
「シャルールに飾ってあるアクリル画なんだけどさ、一枚目のあのおっきな作品を描いてるときって、どんな気持ちだった? テーマとか最初からあったの?」
思わぬ問いに驚きながらも、真直ぐに俺の眼を見返し、ひいちゃんは口を開く。
「あれはそんなテーマなんて呼べるものは特段ないんですよ。一言で言えば、“はったり”それだけです」
「はったり?」
「はい。あれを描いてるときは自分の人生をリスタートさせる時期だったんです。全てがゼロで両掌を広げても空っぽで、私は何も持ってなかったんです。でも、私はやれるんだって大声で叫びたかったんです。やれば出来るのにって燻っているのが馬鹿らしくて、“やれば出来るからやるんだよ!” それがあれです」
俺はハッとさせられた。
これが静緋色なのか‼︎ これが静緋色の格好良さの所以。
「碧、そろそろ歌えるか?」
きいちゃんに声を掛けられる。
「ごめん、俺、やっぱり変えてもいいかな? 詞」
「あぁ。お前が納得いくものを歌うのが一番だ」
2018年6月10日
メインテーマが仕上がり、バーチャルパークの完成、オープンまでの目途が立った。俺はアオくんと二人、プログラミングの細かな修正をしている。
いつものようにアオくんが作業部屋にしている9号室に行くと、
「あ! 来た」
アオくんと他の五人が居た。
「どうしたの? 皆揃って」
今回、皆で音楽を作ったからきいちゃんの防音の部屋は例外だが、仕事部屋にしていると言っても、基本的に、個人の部屋に全員が揃って打ち合わせをすることはない。
怪訝に思い、皆の顔を窺うと、アオくんが小さな手提げの紙袋を俺の前に差し出した。
「これ、碧くんへ、俺達六人から」
突然のことで驚いていると、
「開けてみろよ」
紫来さんがにこりと笑う。
他の皆も笑顔で俺を見つめている。
「う、うん。ありがとう。それじゃぁ」
袋の中には直方体の包みが入っていて、リボンが掛かっている。
リボンを解き、包装紙を剥がす。
「これ、もしかして…」
中から出てきた箱をパコっと開けると、上半分だけのセルロイド素材? でやや丸みがかかった形の眼鏡が顔を見せた。フレームの色は、緑色。
「ハーフリムのセルフレーム。形はオーバルスクエアです」
ダイちゃんが教えてくれる。
「碧さん、掛けてみてください」
「碧さん、早く早く」
ひいちゃんと藍ちゃんに急かされ、
「うん、ありがとう……て、あれ? 二人共いま名前呼び⁉」
「確認されると恥ずかしいんですが…」
二人は照れ臭そうに笑った。
俺は、もう皆の気持ちが嬉しくて嬉しくて、意気揚々と新品の伊達眼鏡を手に取り、掛けてみる。
「ねぇねぇ、どう? どう? 似合う? アオくん、鏡、洗面台貸して」
一頻り皆に見て貰った後、洗面台の鏡を覗くと、そこには初めて見る、眼鏡を掛けた、破顔しきった俺が居た。
「昨日までの俺じゃないみたいだ」
皆の待つ部屋に戻ると、
「せーのっ! 碧さん、ようこそ、眼鏡族の世界へ」
きぃちゃんの掛け声で皆が声を揃えた。
新品の緑色の眼鏡を掛けたまま顔を上げると、昨日までとは少し変わった六人が迎えてくれた。
ひいちゃんはセルフレームのハーフリムで形はボストン、色は赤。ダイちゃんはセルフレームのオーバルで橙色。きいちゃんはウッドフレームのラウンド、色は黄色。アオくんはセルフレームのウェリントンで青色。藍ちゃんはウッドフレームのスクエアで藍色。紫来さんはツーポイントのメタルフレームでスクエアの紫色。
「皆も新しい眼鏡、スーパー似合ってるよ。どうもありがとう。ほんとにほんとにありがとう」
♪『僕だって進化していくんだし、皆を引っ張っていくんだし
皆と一緒に笑うんだ
何も持っていないから何だと言うのだ
何も持っていないから探すんだ
ここから、アトリエ アルカンシエルから始まる明日
掴んでみせるよ』
皆が凄いって、凄い皆とユニットを組めて一緒に物作りを出来ることは奇蹟だって、有難がっているだけじゃ駄目だって思う。
それだけじゃ、七分の一色にはなれない。
3週間ぶり、しかも1時間遅れの更新になってしまいましたが、今週分、一読戴きましてどうもありがとうございます。
七人の眼鏡のくだりは書きたかったシーンの一つでもあるので、通算22話目で漸く書けて良かったです。
次話はside.D 1話(サブタイ未定)です。来週からはまた毎週火曜日の午前0時更新でやっていきたいと考えています。宜しくお願いします。




